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小さな成功体験を、少しずつ自信に変えて

熊本大学国際先端医学研究機構(IRCMS) 特任准教授
筑波大学生存ダイナミクス研究センター 客員准教授
佐田亜衣子

研究者という職業は、楽しくも苦しい

やってもやっても結果が出ない実験。自信の持てない自分。先の見えない不安。研究資金獲得や業績への重圧。

若手研究者の不安定なキャリア、研究とライフイベントとの両立、根強いジェンダーバイアスといった研究者を取り巻く環境にも課題が多い。

「研究が好き。しかし、自分は研究に向いているのだろうか。この先も研究を続けていけるのだろうか。」と、日々悩み、紆余曲折しながら、研究者というキャリアを歩んでいる人も多いのではないだろうか。

この記事では、研究の世界へ飛び込むこと、研究を続けていくことに、興味がありながらも迷っている人へ向けて、自分の経験を共有することで、背中を押せればいいなと思い、筆をとった。

圧倒的実力不足!?大学院時代

「アカデミアの研究者になりたい」と、静岡大学から総合研究大学院大学5年一貫制の博士課程へと進学。静岡県三島市にある国立遺伝学研究所(通称・遺伝研)にて研究一色の生活を始めることとなる。

しかし、キラキラした想いから一転、遺伝研のハイレベルな研究環境に打ちのめされる。議論になると、周りの人が何を言っているのか分からない。それどころか自然と目蓋が閉じて、気がつくと寝ている。英語が読めない、書けない、聞き取れない、話せない。実験量は多いが、「こんなに不器用な人は初めてみた」と言われる迷走っぷり。ジャーナルクラブで論文紹介をすると、自分の理解度が低すぎて会場がしーんとする。質問されても答えられない。

最初の半年で心が折れたが、何もしないわけにもいかない。実験が下手ならば下手なりに手を動かす、英語が苦手ならばコツコツ一から勉強する、論文が読めないのならば分かるまで調べつくすと、地道にやっていくと、少しずつできることも増えてくる。

博士課程での最初の成功体験は、日本学術振興会特別研究員(DC1)の申請書である。頭を絞り出して書いた申請書が、上手く書けていると(珍しく)ラボメンバーや指導教員に褒められ、研究の才能があるのではないかと思い直す。

幸いにも博士研究の成果はいわゆる三大誌に掲載されるが、自分の実力なのか、研究室の環境と運が良かっただけなのか、自信を持ちきれないまま、ポスドクへ。

なかなか結果が出せない・・・ポスドク時代

心機一転、米国コーネル大学でポスドクを開始する。やりたかった皮膚幹細胞研究。張り切って実験するものの、単純な遺伝子のクローニングに苦戦し、「Aiko、大丈夫だから少し落ち着きなさい」とボスに諭される始末。3年くらいパッとした結果も出ず、慣れない環境、英語の出来なさ、自分の不甲斐なさに、落ち込む。英語力なのか、性格の問題か、社交的にふるまうことのハードルも高く、楽しいはずのパーティーではよく空気になっていた。

「あぁやっぱり自分は研究に向いてなかったのかな」という気持ちと、「自分は優秀だし研究の能力がある」という気持ちとが入り混じりながらも、今の自分にできるのは目の前にあることを一つずつやること。地道に手を動かし続けた結果、途中からパズルのピースが合うようにデータが得られ、結果的にはライフワークとなるような成果として論文にまとめることができた。

海外での生活は、研究以外にも困難が多い。初めてバスに乗れた、初めてサンドイッチが注文できた、携帯電話が契約できた・・・といった小さな成功体験の積み重ねにより、自信をなくしたときにも、「あのときできたから次も大丈夫」と思えるように少しずつなっていった。(でもカフェラテはいまだに通じないので、カフェモカを頼む。)

研究者という職業は、やっぱり楽しい

研究をやっていると、苦しいことが9割以上だが、ごくたまに、かけがえのない瞬間が訪れる。

世界で初めてかもしれない発見やアイディアに心が高揚すること。
サイエンスを愛する仲間と、研究という共通言語で議論を交わすこと。
自分の研究や活動が、世界を変える力になるかもしれないこと。
偶然の出会いがセレンディピティを生むこと。
学生やポスドクが、「面白いデータが出た!」と駆け込んでくること、そして、昔の自分のように悩みながら成長し、やがて大きく羽ばたいていくこと。
研究活動を通じて、多様な価値観や人生、知らなかった世界に触れること。

研究の魅力、そして研究者という生き方が、少しでも多くの人に理解され、広まってほしいと思う。

略歴

2011年総合研究大学院大学遺伝学専攻修了、博士(理学)取得。学位取得後、米国コーネル大学にて博士研究員として5年間勤務し、皮膚幹細胞研究に従事。2011年HFSP長期フェローシップ。2016-2019年筑波大学生存ダイナミクス研究センター助教を経て、2019年10月より現職。皮膚再生・老化学講座を開設する。令和元年度熊本大学女性研究者賞、令和3年度科学技術分野の文部科学大臣表彰若手科学者賞受賞。研究者の家族の課題解決を目指しNPO法人ケイロン・イニシアチブ活動に参画している。

佐田研究室のウェブサイト
https://www.aikosada.com

ケイロン・イニシアチブ “Cheiron Article”
研究者と家族がともに幸せな人生選択をするには:ある若手研究者の悩みと決断
https://www.cheiron.jp/post/usa_a015


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