貴重なポスドク期間で好きなことをやってます
コーネル大学
本谷友作(ほんたにゆうさく)
Q. ご職業
私は現在アメリカのコーネル大学でポスドク(博士研究員)として、生きたマウスの脳深くを観るレーザー顕微鏡の開発を行っています。欧米ではポスドクは、独立した研究室を持つまでのトレーニング期間ととらえられています。ポスドクは研究室のボスに雇われて通常数年の契約で仕事をしますので、教授のような安定したポジションではありません。ただしポスドクは大学教員とは違って100%に近い時間を自分の研究に費やせるため、新たなことを学んだり自身の研究スキルをさらに磨いたりするためにはうってつけのポジションです。
Q. 今のご職業に就くと決めた時期は?
科学者になろうと決めたのは、大学3年生のときでした。元々は科学よりもその応用に興味があったために工学部へ行ったのですが、いろいろ勉強したり経験するうちに、基礎科学で自分の興味のあることを突き詰めるのがおもしろいのではないかと考えるようになりました。当時は原子核工学を専攻していたのですが、生物、特に脳が物理的(特に原子レベルで)にどのような仕組みで成り立っているかに興味を持ちました。博士号はオランダで取得し、光に反応するタンパク質がどのような仕組みで働くのかを、レーザーを用いた物理学的手法で研究していました。オランダで得たレーザーの技術と物理化学の知識を神経科学で活かすため、現在アメリカでレーザー顕微鏡の研究に携わっています。現在の研究室でポスドクをするのを決めたのは、博士号を取得する半年ほど前でした。
Q. 今のご職業に就くためにどう動きましたか?
オランダの大学の博士課程に在籍していた間、ネットワークを広げることと良い論文を多く書くことを心掛けていました。科学の世界も他の世界と同様、人と人とのつながりが非常に大事です。普段から学会などでたくさんの人と話して知り合いを増やし、また質疑応答で積極的に発言するなどして自分の顔と名前を売り込んでいました。実際に今の研究室のボスとは、国際学会で出会って仲良くなりました。有名な教授にはポスドクポジションの応募が殺到するので、直接知っているかどうかは採用に大きく影響すると思います。また科学者は、書いた論文が仕事として評価されます。ですので良い論文をたくさん書いていると、コイツは仕事ができるやつだと認められ、就職や昇進に有利になります。いい論文を多く書いているとフェローシップやグラントを獲得して自分で給料や研究費を持ち込める確率が上がるため、その面でも論文を書くのはとても大切です。
Q. 他の進路と比べて迷ったりしましたか?
アカデミアで自分が興味があることを突き詰めるのが性に合っていると思ったため、他の職業はあまり考えませんでした。ただしどの研究室でポスドクをやるかは迷いました。自分の現在地と将来のプランを考えて、その橋渡しになりうる研究室を選ぶようにしました。国については、日本で学士と修士の研究、ヨーロッパ(オランダ)で博士課程の研究を行っていたため、さらに異なる研究文化を学ぶために北米でポスドクをしようと考えていました。いろんな研究スタイルを経験しておくと、自身で研究室を持ったときの方針づくりに役立つと考えたからです。近い将来に独立した研究室を持つ際、どの国や研究機関に行くかで迷うかもしれません。ですが迷えるというのは選択肢があるということで、それはポジティブにとらえたいと思います。
Q. 今のご職業を含め生活の満足度は?やりがい?夢?
満足度はかなり高いです。実は博士課程での留学先を探すときに結構苦労して、その間は研究自体を進められない大変もどかしい状況でした。今はやりたい研究を自分の責任で思いっきりできていて、それでご飯も食べられるので幸せです。
科学者としてのやりがいはたくさんあります。研究プランを練る過程は何かを作り出している感じがして楽しく、実験は初めはうまくいかないことが多いんですが、原因を突き詰めて改善していいデータを取ったときは純粋にうれしいです。取ったデータを解釈する過程もパズルを解くようで楽しいです。あとは多くの人が自分の研究を使ってくれる時にもやりがいを感じます。そういう過程が楽しいから科学者をやっているんだと思います。
夢は、上にも少し書きましたが、脳の仕組み、特に記憶の仕組みを原子レベルで解明することです。そのためには原子レベルでの反応を直接脳の中で観ることが必要と考えていて、そのような装置を作りたいと考えています。ただ、いまはまだそれは「夢」の段階で、早く「目標」の段階にもっていかないといけないと思っています。私は科学は人生を楽しむためにやっているので、他にもっと楽しいことを見つけたら科学者をやめるかもしれません。でも今のところは科学が楽しいので、あと15年くらいはやりたいと考えています。
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