[3] ウォールフラワー
「恋になれなかった恋」真っ最中の時、得体の知れない大きな恐怖に怯えながらも彼とラインや電話をしていた頃の話。
私はいわゆるブラック企業に勤めていた。なぜ「いわゆる」なのかというと、そこには大きなやりがいがあって、同期も先輩もいい人達で刺激があって、なんやかんやで楽しかったからだ。
私は9連勤で広島に出張に行った。終日勤務の日も多々ありきつかったが、先輩不在の現場だったのでのびのびできた。
出張中3日目には広島の目新しさもなくなり暇を持て余すことになった。遅番だった日、私は入りたてのアマゾンプライムで映画を見ることにした。ツイッターをフォローしているどっかの誰かがオススメしていた「ウォールフラワー」をホテルの部屋で観ることにした。
観た。胸がへんにドキドキして動悸が止まらなくて涙も止まらなくてなんだかとっても悔しい気持ちになった。
登場人物はそれぞれ壮絶な過去のトラウマを抱えているのだが、苦しんでいる姿の描写は少なく、しかも結局美化されて終わり、だったのだ。残酷で卑怯で深刻な事実はすっ飛ばして、最後だけ綺麗に仕上げられて、見世物にされていると思った。無関係の人々が娯楽としてハラハラ楽しむために作られているだけだった。壮絶な過去について、そこに理解などなかった。理解する気さえなかった。
そして私はレビューを見てさらに失望する。
「奔放で自由なサムが可愛い!」
「明るくてキラキラしてて若い頃を思い出します。」
「爽やかな青春ムービー!」
私は理解できなかった。
チャーリーが受けた性的虐待もサムが受けたレイプも「あるある」なのか?
みんなその苦しみを知っているのか?
つらいトラウマなどとは無縁の大多数の人々がただ脳天気なだけだった。
ぜんぜん真実が伝わっていない。
さらに言及すると、わたしは、サムが性に奔放で誠実な恋愛ができないのは過去のレイプが原因だと思っている。
わたしは少しでも自分を知るために、トラウマについてある本を読んだ。そこには「たとえば不合理な性行為(強姦・レイプ)に遭った被害者で、心が傷つき混乱したがために、性行為の意味を確かめるため好きでもない複数の人と性行為をして意味を確かめるケースがあります」という内容が記載されていた。これはまさしくサムのケースではないかと思う。そしてわたしのケースでもある。
映画ではサムは、そういう性格なのだとされている。そして「美しく奔放な」と形容されているサム。みんなにすべてを伝え切れていないこと、私はそれが悔しかった。
不幸な出来事が生んだトラウマが美化されて娯楽となっていることも悲しいし、ひとつの映画とってみてもこれほど歪んがわたしの感想には悲しさしかなかった。
もう、悲しいことだらけだった。酷く落ち込んでため息ばかりついていた。
またこのような新しい種類の絶望が私の身の回りに誕生した。
まだ湧いて出てくるというのか。
彼には観る前に「ウォールフラワーって映画これから観るんだ」って言ってしまっていたからこの憤慨したやるせない感想を隠すのに苦労した。
そして簡単にこの気持ちを話せないこともつらかった。
ほんとは聞いてほしかったけど困らせたくなかった。
あの「恋になれなかった恋」をして「ウォールフラワー」に憤慨してひどく落ち込んでから約2年半が経つ。
なんでこんなことを記そうと思ったかというと、ふと思ったんだ。
「【私】は過去にレイプされて精神を病んで人間不信になり、ふつうの誠実な恋愛ができない女。」
逆に彼目線になれば
「マッチングアプリで知り合って意気投合したけど4回会ったきりになった女から2年半ぶりに連絡が来た。その女は実は過去に強姦被害に遭っていてそれで人間不信になり、まともな恋愛ができないらしい。」
彼がもしこの事実を知ったらどう思うか想像した。
ちょっとは哀れんでくれるのかな?なぐさめてくれるかな?
返す言葉に困るだろうか。
少しでも不幸にさせたくないから言わないけど真実は悲しい。
日常には見えない悲しい事実がうじゃうじゃ潜んでいるってこと。
わたしはそれをちゃんとひた隠しにしながら生きてて、偉いと思った。