見出し画像

霧が立ち込める故郷の夢について今日ふと、あれは父だったかもしれないと思った





海と地形のためか、もとから一年の5,6割が霧だった。

にしても今日の霧は濃い。

住宅街のレンガの色が記憶より少し赤い。湿り気を帯びた鈍い赤。

誰もいないことに少し怯えながら、暗い建物と植えられた針葉樹の間を先々へ歩いた。

少しひらけたあの広場で人だかりができていた。

変な位置に黒い車が停められていて、その傍には血が道路一面に広がっていた。

そんなおかしな情景に引かれて、いつの間にか近くまで寄りすぎてしまったようだった。

誰かに押されたのか、自分で躓いたのか、前に手と膝をついて倒れ込む。

その後どうなったのか正直あまり覚えていない。とにかく私は帰路についた。

その血どうしたの。

あとちょっとの段差で6階に差し掛かろうとしたとき、前を歩く人にそう尋ねられた。

相手の視線を辿ると、自分の手に血がべっとりついていることに気がつく。

倒れた時についてしまったのだろうか。

綺麗に洗い流さなくては。どこで?どこでもいい。とにかくはやく、洗い流さなくては。

こんなの濡れ衣だ。

ほんとうに?


あれから何年経ったろうか。

あの子はそこにはいなかった。随分昔からいなかったし、たぶんこの先もいないと思うんだ。

霧が立ち込めるばかりだった。


2023.11.15  星期三  くもり

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?