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ギリシャ、エーゲ海、特になにもない島にいく

ギリシャ、スペツェス島。エーゲ海に浮かぶ島のひとつだけど、これといって見どころはなく、特にそれといってなにもない。

かろうじて面白い点を挙げるなら、村上春樹がこの島にしばらく滞在して、小説を書いていたことだ。『遠い太鼓』というヨーロッパ滞在記にそのときのことが書かれている。
村上春樹は、3年間ギリシャやイタリアに滞在しながら、『ノルウェイの森』などを書いていた。現代で言う「ノマド」的な暮らしのスタイルに近い。
昔は、ノマド的な働き方は、小説家や芸術家の特権だった。そう考えると、この時代は、誰でも小説家のように暮らせる時代、と言えるかもしれない。

ガイドブック後ろから三番目の島に行く

僕が、スペツェス島に行くことになったのは消極的な理由。

僕がギリシャに行ったのは7月で、ヨーロッパはいわゆるバカンスのシーズン真っ盛り。ミコノス島、サントリーニ島のような有名な島は、宿代が高すぎてとても手が出なかった。フツウの部屋が1泊3万円もする。
せっかく夏のギリシャに来たので、島に触れたい。

迷ったときは、『地球の歩き方』などのガイドブックの後ろから2番目か3番目に載っている場所に行くようにしている。インドに行ったときも、主要観光地から外れた田舎の街に行って正解だった。
それで見つけたのが、スペツェス島。アテネからも比較的近い。

船に乗る

スペツェス島は、アテネの港から船で2時間くらい。

アテネにいるときに、ネットで船のチケットを予約した。意外と現代的で、iPhone の Passbook に対応している。それをスマホで見せるだけで乗船できる。
乗ったのは高速船。文字通りビュンビュン速く進む。船の名前は、Flyingcat 6号。

船のなかは、クーラーが効いていて快適。携帯の電波を使って、仕事のコーディングをすこしする。

海に浮かぶ島がどれもかわいい。建物も色の雰囲気が良い。

港を歩く

文明らしいところが港以外にそれといってない。
メインアクティビティは港を散歩するということになる。旅行者向けの飲食店も港に集中している。

一通り歩いたあと、ヨットがプカプカ浮かんでいるのをベンチに座って見てぼんやりする。

車の乗り入れが禁止されているから、基本的に車は走っていない。馬車があったりとかして、非現実感がある。
「馬車が主な交通手段」と書かれていることがあるけど、これは大嘘で、島民も旅行者も皆バイクにブオンブオンと乗ってる。通りにでるとかなりうるさい。

島には猫が多い。
よく徒党を組んで集結している。猫ギャング。

ヴァンゲリスの家

宿は Airbnb で取った。家主は、初老のおっさんで、名はヴァンゲリス。元々は、イギリスのロンドンで大工の仕事をやっていたのだが、還暦を迎えたタイミングで故郷のこの島に帰ってきたらしい。

亡くなった父親の家を自分で改装して、2階部分をエアビーで貸している。「ワシは若い頃は海軍にいてのう、船に乗って日本の横浜のほうまで行ったんや」と話していた。

昔ながらの家、という感じだけど、ちゃんとメンテナンスされている。

海で体を冷やす

昼間は暑すぎてなにもできないから、宿から出ない。ソファに寝転んで、ノートパソコンを開いて、溜まった仕事にすこし手を付けたりする。

日差しが弱った頃に近くのビーチを見に行く。
海は透き通ったエメラルド色をしていて、波も穏やかで過ごしやすい。広くはないけど、人は少なくて静か。

人々は泳いでいるというより、海のなかで身体を冷やしている、という感じ。
砂の上に寝転がって、体を日で焼きながら、本を読んでたりスマホを弄ってたりする。

洞穴みたいな場所を見つけて陣取っているファミリーがいてちょっと羨ましい。

チャリで行く

港を歩くのも飽きてきたので、自転車を借りて島の周りを探検する。免許証がなくてバイクを借りれなかった。

なだらかな斜面とオリーブ畑があるのが見える。

どれだけチャリを漕いでも、乾燥した島の土と透き通った海しかない。無力な自転車にはつらい坂道。引き返す。

ヘリコプターで別の島から夫婦がビーチにやってくる。
いくら経済力があっても、泳ぐときは裸に近い格好になることを考えると、海は平等。

スペツェス島にも、ヴァカンスのためにヨーロッパ中からやってくるらしい。
そこで、特になにもせずに普通に暮らす。彼らは、それが本来の人間性を回復することになると信じているらしい。
『遠い太鼓』にもこう書かれている。

どれだけゆったりと費用をかけてどれだけのんびりと旅行をするか、それが彼らの新しい経済効率である

タヴェルナで食べる

宿に戻る。ヴァンゲリスの昔話に30分近く拘束されたあと、おすすめのタヴェルナを教えてもらって歩いて向かう。

タヴェルナ、は庶民的なレストランのことを言う。「食べるな」みたいな語感なのにしっかり食べさせられるとこが好き。

梶井基次郎の小説のなかから出てきたみたいな、瑞々しいレモンがでてくる。

豚肉のグリルをたべる。

赤ワインが美味しい。昔はこの場所でワインを作っていたらしくて、かつて使っていたワインの樽がある。

空の色が暗くなってくると、賑わってくる。ヨーロッパ人の家族がぞろぞろやってきて、テーブルごとに様々な言語を飛び交わす。

なにもない場所でなにもしない選択

2泊だけだったけど、十分楽しめた。このあとイタリアに行きたかったのと、金銭面の問題があったからだ。
地中海でなにもしないのは意外にも高価だ。ヨーロッパではなにもしない旅行がメジャーリーグだからだ。ありったけの金を使って、ただ単に生きることを楽しむ。
バカンス繁忙期を外れて、かつ、まだ暖かい9月の終わり頃にまた行きたい。

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