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日本語教師の国家資格について(1)〜日本語教育小委員会の役割と今後の動き

いよいよ日本語教師の国家資格の実現が見えてきた

日本語教師の資格について,国家資格にしようという話があり,いろいろと報道もされています。この議論,当然のことながら,日本語教育関係者や日本語教師を目指す人たちにとって,大変注目されていると同時に,不安が巻き起こっていると聞きます。そこで,国家資格の議論に委員として参画した立場から,このことについて何度かに分けて書きたいと思います。なお,本件については今後,いろいろな変化・変更があると思いますので,2020年2月現在の私の解釈であることをご理解いただき,あくまでも「参考」として読んでもらえればと思います。

教師の資格に関する審議の流れ

日本語教師の資格については,文化審議会国語分科会で議論されます。この国語分科会には「日本語教育小委員会」と「国語課題小委員会」2つの小委員会があります。日本語教師の資格については,「日本語教育小委員会」で議論しました。

審議の流れに関して,規模の大きい会議体から順に書くと,「文化審議会国語分科会」>「日本語教育小委員会」となり,小委員会の中に「日本語教育能力の判定に関するワーキンググループ」が作られていました。これら三つの会議体を行ったり来たりしながらも,大きな流れとしては,ワーキングで議論したことを小委員会に上げ,小委員会で議論したことを国語分科会に上げ,国語分科会で承認されたものが最終的な報告として世の中に出ていくということなります。

日本語教育小委員会とは

正式名称は「文化審議会国語分科会日本語教育小委員会」です。2020年2月現在,委員が15人いて,日本語教育や隣接領域の研究者,日本語教育の実践家,企業関係者,自治体関係者など,多様なメンバーで構成されている,専門家による会議体です。

小委員会の主たる役割は,日本語教育の制度設計に関して議論をすることですが,その議論の結果や扱いについて,誤解されていることが多いように思います。

まず,小委員会は何か法律を作ったり,制度を決めたりする場ではありません。小委員会は専門的見地から議論を行い「文部科学大臣,関係各大臣,文化庁長官に意見を述べる」のが役割です。つまり,小委員会の報告はあくまでも政府に対する専門家の意見なのです。政府は,この専門家の意見を最大限に尊重し,政策を作ったり法律を作ったりすることが求められますが,小委員会自体が何か制度を作るわけではありません。

もう一つ,小委員会の報告は,専門家の意見であり,文化庁の意見ではありません。でもだいたい,一般的には「文化庁の報告」と言われ,いつの間にか,専門家会議の議論の結果が,役所が作ったものとして誤解されたまま広がっていきます(文化庁は事務局です)。文化庁が政策を作るときは,専門家の議論の結果を尊重して作ります。ですから,小委員会の報告とそこから実現する政策が,実態としてはほぼ重なります(だからわかりにくくなっちゃうんですね)。

今回の日本語教師の資格に関する議論も,「資格創設にあたって検討・留意すべきことを,専門家が政府に意見として述べた」ものです。ですから,これらの意見が制度としてどう実現されるかは,これからの話であり,それは政府と国会に委ねられることになります。

資格に関する今後の展開

2020年度に,政府は日本語教師の資格創設のための動きを開始します。具体的な制度設計を考え,法案を作成して国会を通します。おそらく,世の人々は「資格っていつできるのよ!」というところがとても気になると思いますが,このような作業工程にどのくらい時間を要するか,現段階ではわかりません。国会審議は,そのときの政治状況にずいぶんと左右されます。2020年のうちにささっと法案ができてすぐ通るかもしないし,何年もかかるかもしれません。

また,資格制度が固まったとしても,それを実際に動かすにあたっては「経過措置」が検討され,相応の「移行期間」が設けられるのが通例です。
日本語教師の資格制度に関して移行期間を考える際に,以下の三つのポイントがあると思います。


1)現職者やすでに日本語教師養成のコースを修了している人をどうするか
2)現在,日本語教師養成のコースを履修中の人をどうするか
3)新たに日本語教師養成のコースを履修する際にいつから新制度が適用されるのか

このうち,1)に関しては,今回の小委員会の議論で,出入国在留管理庁が定める「日本語教育機関の告示基準」の教員要件を満たしている人については,新たな資格を満たすとして有資格者として登録を行うのがよいとなりました(繰り返しますが,これは小委員会からの「意見」ですので,これが制度としてどう実現されるかはわかりません)。

2)3)については,十分な移行期間を確保することが必要としています。つまり,制度が確定したとしても,そこから全面実施までには十分な期間が設けられ,履修中の人は履修修了まで旧制度で対応,新規に履修する人にはいつから新制度が適用されるのかが明示されるはずです。ですから,今履修中の人は,「日本語教育機関の告示基準」の教員要件を満たせるようにしたらいいと思います。新制度で資格を取ろうと思う人は,新制度の全貌が明らかになるまで待つしかありません。

以上,簡単ですが,日本語教師の資格に関する議論の経緯についてまとめました。次回以降は,小委員会で議論した制度の中身について触れたいと思います。

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