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「日本語教師の資格」について

2018年11月11日の読売新聞の朝刊一面に,「日本語教師 資格を創設」という記事が掲載されました。また,11月13日には文部科学大臣が,日本語教師の資格整備について,記者会見で明言しました。今まで,日陰でひっそりと(?)生きてきた日本語教育業界にとって,全国紙の朝刊一面を飾るというのは大変な「事件」で,この件についてSNSなどにいろいろな投稿がなされました。この件について,少し現状を整理してみたいと思います。

日本語教育に携わる人に対する「日本語教師」という資格はありません。留学生を対象とした一般的な日本語学校(正式には「法務省告示日本語教育機関」といいます)の教師の要件となっている以下の3つが,実質的な資格のような扱いになっています。

(1)大学又は大学院において日本語教育に関する課程を履修して修了した者

(2)日本語教育能力検定試験に合格した者

(3)学士の学位を有し,かつ,日本語教育に関する研修として適当と認められるものを420単位時間以上受講し,修了した者

これら3つのいずれかを満たしていることが,日本語学校の教師となる際に問われます。一方で,日本語教師の仕事は日本語学校に限るわけではなく,地域で教える,大学で教える,企業で教える,小学校や中学校で教えるなど多岐にわたっています。そして,日本語学校以外で教える場合,極論すれば,上記の3要件をまったく満たしていなくてもかまいません(実際には,各機関が上記3要件を条件にしているケースがよくみられます)。これが日本語教師の資格に関する現在の状況です。

公的資格の議論

2013年に文化審議会国語分科会日本語教育小委員会(以下,小委員会)のワーキンググループが「日本語教育の推進に向けた基本的な考え方と論点の整理について(報告)」を発表しました。この報告には,日本語教育を取り巻く課題をもとに,議論が必要な事柄について,11の論点が提示されています。その中の論点5に「日本語教育の資格について」が挙げられています。この論点5では,現在の日本語教育の状況から,日本語教育の資格を創設すべきだという声があることを踏まえ,「まずこうした現行の枠組みや取組(注:前段で触れた3つの要件)ではどのような理由で不十分であり,想定される資格がその点をどのように克服するものなのか具体的に検証する必要がある」としています。そして,次のような4点に関して,十分に議論しなければならないとしています。

・新しい資格を作るのがよいのか,それとも今あるものを充実する方向で議論した方が良いのか

・汎用性のある統一的な資格を作ることが可能なのか,可能ならどうすれば適切なものができるのか

・専門性によって資格の有無を線引きすることは,地域でボランティアが大きな役割を担っている現状に照らして問題はないのか

・国が資格を作ることを考えた場合,規制緩和への逆行や民業圧迫にならないのか

ここからわかるとおり,資格化ありきではなく,資格化が必要という意見があるが本当に必要なのかどうかという根本から議論するべきだというのが,この論点5の位置付けです。そして現在進んでいる,日本語教師の資格に関する議論は,この報告がベースになっていると言えます。

日本語教育小委員会の議論の進捗

上記の11の論点については,その一つ一つについて順番に小委員会で議論を進め,なんらかの結論や方向性を出すことになっています。その流れの中で,論点5についても,小委員会で議論が始められようとしています。2018年9月18日に開催された第89回の小委員会では,資料6として「『論点5.日本語教育の資格について』に関する意見の整理と主な論点(案)」が提示され,ここで,次回以降の2018年度の小委員会で,資格の議論を行うかどうかが議論されました。まだ確定版の議事録が出ていませんが,ここで,小委員会として何らかの議論・検討を行うということになりました。それを受けて,11月22日の小委員会で,次に「資格の議論について何を議論するか」が検討されることになっています。

規制改革推進会議

2018年6月4日に規制改革推進会議が発表した「規制改革推進に関する第3次答申〜来るべき新時代へ〜」にも,日本語教師の資格について言及があります。「留学生の就職率向上」という項目中の43ページに「就労のための日本語能力の強化」という項目があり,この中に以下の記述があります。

日本語教師の養成・研修の仕組みを改善させ,日本語教師のスキルを証明するための資格について整備する。

これについては,2018年度に検討,2019年度に結論を出し速やかに措置とされています。つまり,政府レベルでは,すでにこの第3次答申の段階で資格について整備することは明言しているわけです。

まとめ

改めて現状をまとめると,日本語教師の資格について議論・検討することについては,すでに2013年度に小委員会で決められており,今年,規制改革推進会議の答申でも明言されていますので,特段新しい話ではありません。では,具体的にどういう方向で資格を創設するのか,それについては,小委員会でこれから議論することになっていますので,まだ何も決まっていません。

小委員会は傍聴可能ですし,小委員会の委員や文化庁に対して「意見」を出してもらえば,前向きなものは検討されるかもしれません。また,いずれ本件はパブリックコメントとして一般からの意見募集も行うと思います(たぶん)。そのときに多くの人が意見を出してくれ,よりよい制度ができるといいと思っています。


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