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エッセイ「燃え殻2」

まだ明るさの残る帰り道。桜島を右手に、会社に通勤していたあの頃と同じ道を走っていた。

すこぶる疲れていた。
新しく習う仕事を覚えるのに頭をフル回転した一日だった。終わってからも何も考えられず、音楽もかけないままハンドルを握っていた。

はあー。疲れは、思考をネガティブに寄せる。今日とは関係ないはずの不安まで大きくさせた。

気持ちを切り替えたくて、radikoを流すことにした。「お気に入り」に登録してあったいくつかの中に見つけたのは、作家の燃え殻さんの番組だった。

その番組は前に一度だけ、聴いたことがあった。燃え殻さんが夜明け前の時間にふさわしい語り口で、思いをつづる番組だった。

前に聴いたとき、わたしはもがきの中にいて、もやもやする気持ちを引きずったまま日々を過ごしていた。その日、たまたま聴いた燃え殻さんの番組でわたしが支えにしている折坂悠太さんの歌が流れて、車の中でおいおいと泣いた。そのときの気持ちを文章にしてnoteにあげたらたくさんの♡(スキ)がついて、今でもその記事を読んでくださる方がいる。

あれからわたしは大きな決断をして、今、パソコンがあればどこでも働ける働き方をはじめている。

クタクタの心と体で、また燃え殻さんのラジオを聴いてみようという気になった。クタクタでも聴けるテンションの番組だと分かっていた。

静かに語りはじめた燃え殻さんは、今年の夏以降に文庫本とエッセイ集が出る予定で、その解説や帯文や書評を憧れの人たちに書いていただけることが決まったと、とてもうれしそうに話した。
「自分の人生よかったね、もういいんじゃない?って思えるぐらい本当にすばらしい方に書いていただける」「その人たちが自分のどの文章を評してくれるのか、それが楽しみで生きています。皆さんも楽しみにしていてください」

燃え殻さんのよろこびが伝わって、こちらまでうれしくなった。そしてわたしにも、自分が出す本に憧れの方たちが解説や書評を書いてくださる未来がきたら、と想像した。とてもワクワクした。想像するだけでこんなにワクワクするしあわせを、わたしも味わってみたいと思った。

はじめて聴いた日、燃え殻さんが言ったことを思い出した。
「パソコンひとつあればどこでも働ける仕事ができていて、今は自由」

ああ、わたしは今、あのときうらやんだ燃え殻さんと同じ働き方をしはじめているんだ。わたしが持つ不安や壁はあの頃のわたしでは持てなかったもので、準備して、決断して、歩みはじめたわたしだからこそ持てているものなんだ。

そう思ったら、自分をめいいっぱい褒めたくなった。
すごいよ!めちゃくちゃがんばったね。今もがんばってる。新しいことをはじめるのって大変だよね。うまくいかない時もあるよ、大丈夫大丈夫。

いつも周りがかけてくれる言葉を、わたしからもかけてあげよう。他の誰でもない、一番大切なわたしからの言葉として。

燃え殻さんは今日、番組内容について告げたあと、こう続けた。

「それでは、今日はこの曲ではじめたいと思います。折坂悠太、みーちゃん」

あのときと同じ。けれどわたしはもう、泣かなかった。



↓はじめて聴いたときのエッセイはこちら

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