【雑考察】冬霞の巴里が描く「究極の愛」(ネタバレあり)

※4/10ソワレ初見時点での考察です

『冬霞の巴里』の描くもの

結局、この復讐劇で描きたかったものってなんなんだろうと思った訳です。復讐のために生きてきた青年の悲劇?姉・アンブルとの恋とも愛ともつかない特別な関係性?格差社会へのアンチテーゼ?

以下、私なりに簡単にこの舞台のテーマについて分析してみました。

1.復讐劇としての面白さ

父親を殺した母親と叔父への復讐のために、ずっと暗闇の中で人生を犠牲にしながら生きてきた青年・オクターヴ(永久輝せあ)が、いざその復讐を達成するために巴里の街へ赴き真実に出会ったとき、自分の心の中に存在し続けていた「優しく」て「子供思い」の父親の人物像とはかけ離れた、悪者としての父親の一面を知ることになり、自分が信じてきたもの、はたまた復讐のために費やしてきた自分の人生とは、正義とはなんだったのか、というアイデンティティの喪失に苦悩する

こんな悲劇的結末である『冬霞の巴里』。

一言で言うと「復讐のために生きても結局幸せにはなれない」。そんな超普遍的テーマが中心になっていると思います。(普遍的テーマ、ということは、一定の面白さは担保されているということであり、逆に言うとマンネリになりかねないということでもあります)

でも、この物語がありふれた復讐劇ではなく、観客を引き込み、心を震わせてしまう理由こそ、もう一つのテーマ、姉との「究極の愛」が存在しているからだろうと思います。

2.共犯者として生きていく

周囲から「そっくりだ」と言われてきた姉・アンブル(星空美咲)とは、幼い頃から共に過ごし、父親の仇を取ることを誓い合った仲である。二人は復讐するという共通の目的のために二人だけで苦悩を共有し、二人だけで罪を共有することを決めて巴里の街に帰ってきた。実の姉弟であることをお互い、そして観客までもが強く意識するようなセリフや演出が随所に見られたので、これはもしや宝塚あるある(だと勝手に思っている)「実は、血のつながりはありませんでした〜!」パターンかな?と思いきや…

やはり、血のつながりはありませんでしたね。笑

そして、演出の指田先生からは間違いなく、恋心を持ってお互いを見つめるように指導されたんだろうというくらい、二人の間には誰も入る隙を与えさせない特別な関係性が1幕からずっと表現されていました。後半には、二人のデュエット曲の中で、もしも姉弟じゃなかったら〜的な内容が出てきて、いよいよ二人が、単なる家族としての愛ではなくそれ以上の感情を抱いていることを明確にしています。

ただ、ここからがこの舞台の特異的であり、一番の裏切りだと思いますが、ラストシーンで示唆されたのは、これからも二人がずっと、共依存しながらも”姉弟”として生きていくということ。

物語の後半でオクターヴは姉と全く血のつながりがないことを知っている訳なので、結婚して夫婦として「永遠の関係」を作る方法もなくはないはずですが、二人は姉弟としての関係を続けていくことを選んだ。その代わり、二人の関係は「共犯者」であることによって永遠になるとアンブルは目を輝かせます。父親の復讐のために、お互いがお互いだけを心の拠り所として生きてきた時間、そして殺人を犯したという消せない事実。この「罪の共有」こそが、二人の関係を二人だけの特別なものにできるというのです。

3.罪の共有=究極の愛

ここからは、超個人的な考察ですが、このシーンを見て私は、湊かなえの著作『Nのために』と、2012年にバウでも上演された三島由紀夫の著作『春の雪』を思い出しました。

『Nのために』に関しては、主人公たちが「究極の愛=罪の共有」だとして、行動の背景すべてにこの考えがあります。ただ、『Nのために』における罪の共有は、自分もその罪に加担する”共犯”ではなく、あくまでも罪を知りつつ相手を守ることなので、「共犯者」と言っている冬霞とは若干異なりますが。(ただ、アンブルは共犯しているつもりですが、実際に手を下しているのは全てオクターヴでアンブルは本当に何もしていない、「ただずっとそばに居た」だけなんですよね。なのでとても、似ているなと。)

そして、『春の雪』に関しては、主人公・清顕とヒロイン・聡子が禁断の恋に落ちるというストーリーですが、聡子が身籠ってしまった際に、「この(子供を宿すという)罪によって、二人の関係が永遠になる」として、希望を見出します。

この「罪の共有こそが、二人の関係性を永遠にし、特別なものにする」という考え方が「究極の愛」として定義されることがあるのだとすれば、今回冬霞で指田先生が描きたかった裏テーマは、彼らが『「究極の愛=罪の共有」に希望を見出し生きていくしかない』という悲劇性なのかなと、思ったりしました。(環境さえ違えば、2人は罪を利用する必要なく、真っ当な形で愛し合えたと思うので。)

まだまだ言足りませんが、取り急ぎの考察でした。(突然終わる)

また数日後に見るので、次はキャスト・演出の感想も含めしっかり書きたいです。

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