永田カビという巨大な才能

永田カビという巨大な才能

永田カビの『現実逃避してたらボロボロになった話』を読んだ。いわゆるエッセイ漫画で、作者の永田カビ氏がアルコールを飲みすぎて「アルコール性急性膵炎」になり、入院することになった事件が描かれている。

永田カビといえばレズ風俗に行ってみたエッセイ漫画、『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』で一躍有名になった人だ。こちらの本も読んだことがある。というより、姫呂が永田カビを知ったのもレズ風俗のエッセイがきっかけだった。この本は「レズ風俗に行ってきてハッピー!」などというものではなく、永田カビが抱えてきた障害と孤独について描かれた哀しい内容だった。

その後は2冊のエッセイ漫画を出したようだが、そちらは読んでいない。今回のエッセイ漫画を買ってみたのはなんとなくだ。「そういえば、あれから永田カビさんはどうなったのかなぁ」という、知人の近況を確認するような感覚だった。

『現実逃避してたらボロボロになった話』を読み、そこで永田カビの才能をまざまざと感じた。レズ風俗のエッセイですでにその片鱗はあったものの、今作で彼女の才能がはっきりとわかった。

漫画の才能の話ではない。永田カビの才能、それは不幸になる才能だ。

作中で多くの自己啓発本を読んだことが描かれているが、いくら読んでも彼女のメンタル面は改善できない。思考のベクトルがとにかく不幸への道へ続いている。ふとしたことがきっかけで前向きになれたと思いきや、すぐにまたネガティブへ。それほどまでに不幸に魅入られている。おそらく、彼女は死ぬまで不幸であり続けるのだろう。そう思わせられるだけの強度があった。

Amazonのレビューを眺めると「自己責任」という言葉を見かけたが、それは違うだろう。永田カビ氏は明らかに精神疾患を抱えており、精神疾患は脳の病気だ。したがって、どこからどこまでが彼女の本当の意思なのか、見極めるのは難しい。彼女の精神は病気に支配されていて、それ故に不幸へ突き進んでいく。

ひと口に不幸といってもいろいろな種類があるが、彼女のように、自分のなかの、自分ではないなにかに精神を支配されている不幸が最も恐ろしい。

ただし、この不幸になる才能にもひとつだけ利点があり、こうしてエッセイ漫画として売り出せることがそれに当たる。逆に言うと、ここまで不幸でなければ売り物にならない、ということでもあるが……。

姫呂も鬱病で不安障害だが、お前程度の苦しみは売り物にさえならないと、彼女から突きつけられているように感じた。あまりに強い。この巨大な才能を前にしては、立ちすくむしかない。


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