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45年前の8mmフィルムカメラを手に入れた。使ってみたら…

僕は昔からあまり映画を見てこなかった人間ですが、大学生のときに暇だったので超有名作品くらいは見ておこうと思って、やたらTSUTAYAに通った時期がありました。映画好きの友人にオススメを聞いて、10本くらい一気に借りて3本しか見ずに返却するのが常でしたが、ずっと前からAmazon Primeに加入していることをすっかり忘れていて、今まで見てきた有名作品の多くがAmazon Primeで見られることにだいぶ後になって気づきました。あのムダな時間とお金は何だったんだと嘆きつつ、TSUTAYAで色んなパッケージを選ぶ体験はそれはそれで楽しかったし良い思い出でした。

友人は当時しきりにクリストファー・ノーラン監督の映画をオススメしてきました。「とりあえずバットマン3部作を見て、そのあとインターステラーとか見るといいよ」などと言われました。スパイダーマンとかスーパーマンとかアメコミ系の映画をほとんど見たことがなかった僕としてはあまり興味がそそられなかったのですが、言われた通りにバットマンビギンズから見始めたところあっさりハマッてしまい、ダークナイトを3周したあとインセプションとメメントを立て続けに見て、今まで映画館など行く人間ではなかったのに、ノーラン新作のテネットが上映されたときは即座に一人で新宿に向かいました。
ノーラン作品は映画初心者の入り口としてちょうど良かったのかも知れません。

またそのときネットでノーラン伝説なるものを見て、映画にかける並々ならぬこだわりに感銘を受けたことも影響していると思います。ノーラン監督がCG嫌いなのは映画好きには有名らしく、グリーンバックも使わずなるべく現実のセット撮影を行うという強いこだわりがあるようですが、もう一つの強いこだわりが、デジタルカメラではなくフィルムカメラによる撮影を行うということでした。

なぜフィルム撮影にこだわるのかは素人の僕にはよく分かりません。よく分からないので、解像度で言えばデジタルの方が勝ってるし、いちいちフィルムを現像する手間が面倒くさいし、メリット無いんじゃないの?などと思っていました。しかしネットで調べたらフィルムはダイナミックレンジが広く、将来的に高解像度でリメイクした時に色の再現性が高いので、フィルムを好むクリエイターも多いという情報を目にして、何となく分かった気になりました。
確かにノーラン監督が使うフィルムの幅はIMAX規格の65mmだそうなので、カメラのイメージセンサーにあたるフィルム面積が非常に大きく、解像度や色情報の多さがデジタルよりも優位なのかもしれません。まあ素人が知識もなしに考えてもあまり意味がありません。

しかし僕もフィルム撮影の良さが全く分からないわけでもありません。静止画での話ですが、僕がまだ幼い頃はギリギリフィルムカメラ文化が残っていて両親がフィルムカメラを使っていましたし、小学校の遠足か何かで「写ルンです」を持っていって、フィルムが残ってないのにシャッターを切りまくって遊んでいたのも覚えています。フィルムが現像・プリントされるまでうまく撮れてるか分からないワクワク感や、思ったよりブレていたりピンボケしていた時のがっかり感、現像されたフィルムを透かして見たときの面白さなんかを昔は味わっていました。もしかしたらノーラン監督も単純にフィルム撮影に映画作りの楽しさを見出しているだけかも知れません。

ところで、近年youtubeが台頭して以来、世間には溢れかえるくらいの自称映像クリエイターが生み出されましたが(僕もその1人ですが)、彼らはいったいどのような機材で映像を作っているのでしょうか。ほとんどの人は興味ないと思いますが、僕は最近ちょっと気になります。というのも、僕も使っているPanasonicのミラーレス一眼カメラ「LUMIX」シリーズが近年は動画性能に力を入れているようで、GH6という新しい動画用フラッグシップ機を少し前に発売したので、そのGH6を使ってyoutube活動している人は誰かいないかな?と気になったのでした。

ちょっと調べただけでは発売されたばかりのGH6をメインカメラにしている有名なyoutuberは見つかりませんでしたが、前の世代のGH5であればかなりユーザーが多く見受けられました。はじめしゃちょーはGH5よりも暗所耐性とオートフォーカスの速度が向上したGH5Sを使っているそうです。あとは僕と同じG8ユーザーを見つけたときは嬉しかったです。その他だとやはりSonyユーザーが多かったですね。youtuberの中にはそもそもビデオカメラ派の人とか、スマホで済ませてしまう人も多いので、LUMIXユーザーは割合としては多くないと思います(追記:ホモサピさんがLUMIX GH6ユーザーでした。LUMIX良いよねと熱弁すると、信者だと言われてしまいました。否定はしません)。

そんな中ふと、フィルムカメラで撮影した映像をアップしてるオタクはいないかなと思って調べてみました。フィルム撮影なんてよっぽどこだわりがないと多大な手間とコストに耐えられないので、ノーラン監督が仮にyoutuberだったとしても普段使いは絶対にしないと思いますが、世の中物好きな人もいるので分からないぞと少し期待しました。

youtubeで検索すると、フィルム撮影に関連する動画を作っているチャンネルがいくつか出てきました。一番最初に出てきたのはフィルムエストTVというチャンネルで、現代の話題や風景を昭和風にアレンジして配信する面白いyoutuberでした。僕は昭和を知らないのに、画質や音質がザラザラしている感じがまさに昭和だと思わされました。しかしもちろん本物のフィルムで撮っているわけもなく、動画編集によって昭和っぽく見せているのでした(それにしたって凄い映像技術ですが)。

他にはフィルムカメラで静止画を撮る人々のカメラ紹介や、昔のフィルム映像を懐かしむような動画がほとんどでしたが、ほんのごく一部のカメラマニアに、「8mmフィルムカメラ」を使って風景や人物の映像を撮って、それをyoutubeにアップしている人々がいました。

8mmフィルムカメラとは8mm幅のフィルムで映像を記録するカメラのことですが、主に1960年代に家庭用として広められた規格のようで(追記:1930年代からあったが、普及したのがそのころ?)、フィルム映画のスタンダードである35mm幅よりだいぶ細いフィルムです。昔は広くホームビデオ的な使い方がされていて、今の40代以降であれば触ったことのある人も多いかと思いますが、8mmカメラ自体がほぼ全て生産終了しているので令和の時代に使っている人はほとんどいないでしょう(追記:逆に今はレトロブーム的な動きもあって、8mmユーザーは増えているらしいです。現像屋さんが言ってました)。

僕が調べた中ではhironさんという方が分かりやすい8mmカメラの解説をされていて、いくつかの実際に現像した作品もアップされていました。

これを拝見して驚いたのが、KODAK社の8mm幅のフィルムがまだ現行品で販売されていることでした。少ないながらもまだ使える8mmカメラが中古で出回っていて、さらには2018年にKODAK社が8mmカメラをリバイバル生産したことがまだフィルムを売っている理由だろうと思われます。

hironさん曰く今でも使える8mmカメラがヤフオクに出回っているとのことだったので、ちょっと8mmをやってみたくなり、ヤフオクを漁り始めました。
8mmカメラの全盛期は40〜60年前なので、状態の良い8mmカメラなどほとんど見つかりません。ほとんどが動かないジャンク品か動作確認がされていないもので、奇跡的にきちんと動作確認されたものが出品されていても、狙っている人が多く落札価格が高くなるので手を出すのは諦めました。

仕方がないのでジャンク品として出品されているものの中から一応動くと書かれているものに手を出すことにしました。ジャンク品扱いならいくつか候補があったのですが、「モーターの動作音がするけど撮れるかは分からない」と書いてあったリコーの8mmカメラを1700円で落札しました。ついでにAmazonでKODAK社のネガフィルムを購入しました。

落札した8mmカメラとKODAKのフィルム

届いたカメラに電池を入れてシャッターを切ると(単3電池で動きます)、カララララララと確かにモーターが動く音がします。ファインダーを覗いてみると不規則に赤いランプが付いたり消えたりします。もしかしたら一発で当たりを引いたんじゃないの?と期待は高まりますが、フィルムも高いし3分20秒しか撮れないのでテキトーに撮影してみるのはもったいない。次の休みに8mm撮影旅行に出掛けることにしました。

待ちに待った土曜日は神戸に足を運びました。神戸に所用があったのと、観光地として北野異人館街があるので、明治頃のレトロな雰囲気が残っていて8mmの映像に合いそうだと思って行きました。狙いの異人館が閉館中だったのと、その日はあまり滞在時間をじっくり掛けられなかったのもあって、フィルムの3分20秒のリミットを使い切ることはありませんでしたが、イギリスっぽいバスとか有名な風見鶏とかも見られて、それなりにいい絵が撮れた気がしたので満足しました。しかし撮っているときも、撮り終えてからも、ちゃんと撮れているのか不安で仕方ありませんでした。自分はもしかしたら何にも撮れていないカメラのモーターを無意味に回し続けているだけかもしれない、と疑念を持ち続けていました。

撮影を終えて家に帰ったらすぐさまフィルムをカメラから取り出し、レトロエンタープライズという8mmフィルムの現像屋さんにゆうパックで送りました。あのカメラが使えるのかどうかは、フィルムを現像してデータ化してみて、神戸の映像が問題なく撮られているかチェックしない限り分からないので、とりあえずレトロエンタープライズさんに連絡して、データ化までの段取りを組んでもらいました。レトロエンタープライズさんは国内で、いやアジアで唯一の8mm現像サービスを行っている会社で、需要縮小と担い手不足で存続の危機にあるようなので、こうして気軽に8mmの現像ができる時代もいつまで続くか分かりません。

レトロエンタープライズさんは最近事業所の移転をされたようで、まだ完全には体制が整っておらず、8mmの現像に2、3週間はかかるとのことでしたが、フィルムを送ったタイミングでたまたま作業時間の余裕ができたとご連絡をいただいて、なんと1日で現像とデータ化まで済ませていただきました。テスト撮影の結果を早めに知りたかったので、本当に有り難かったです。

データ化は低画質のSDと高画質のHDを選べたので、なるべく高画質でお願いしようとも思ったのですが、今回はテスト撮影ということもあって最終的にSDを選びました。今回の撮影で使ったのはKODAKのネガフィルムだったので、届いたネガのデータを反転処理する必要がありました。反転処理については先のhironさんが解説されていたので、AdobeのPremiere Proを使って処理してみました。

果たして、あのカメラはきちんと映像を撮れていたのか…





撮れてた!!!!!!!!!!!!!!!


なんと、想像していたものより遥かに綺麗な映像が撮れていました。撮れているか分からなくて自信なさげに回したシーンも全てはっきり撮れていました。

反転処理してみるとRGB全ての色に問題はなく、レンズも綺麗なため曇りもなく、ピンボケも少なく、ある程度のダイナミックレンジが担保されているので編集の強さによって自在に映像の雰囲気を変えることができました。意外とSD画質でも満足できる程度の解像度でした(フィルム映像=低画質という無意識な先入観があるからかも)。ジャンク品扱いされていた8mmカメラは、全く問題なく使える素晴らしいコンディションでした。

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これから8mmカメラで何を撮ろうか目標も何も無いのですが、今はとにかく何かを撮りたくてたまりません。近所のありふれた景色を映しても、あえて東京の大都会を映しても、友達と旅行に行ったときの思い出を残しても、何を撮っても面白いと思います。8mmカメラが普及したとき、自主制作映画が流行ったのも分かる気がします。

8mmカメラで撮影した令和の世界はより情緒的に見えましたし、神戸の思い出がより良いものだったように錯覚しました。僕も特に大層な作品を撮ろうなどとは思っておらず、ホームビデオ的に思い出に残したい場面や、普段の何気ない風景を切り撮るのが良い使い方かもしれないと思っています。フィルム1本で3分20秒しか撮れないので、1シーンあたりせいぜい5〜10秒しか撮れないのも、切り撮った瞬間をよりかけがえのない思い出にしていると思います。将来の自分が郷愁に浸りたい時のために、こういった形で思い出を残しておくのも良いと思います。

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最後に、1本の8mmフィルムで映像を作るのにかかっただいたいの金額をまとめてみました。

8mmフィルムカメラ:1700円
KODAKのフィルム:3700円
現像1本:3300円
SD画質でのデータ化:4400円
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計:13100円(さらにフィルムの送料や銀行振込手数料、Premiere Proの使用料など)

た、た、高い…!
データ化は10分まで(フィルム3本分)同じ料金なので3本まとめてお願いしたほうが良さそうですが、HDの高画質だと8800円で、3本だとさらに+10000円ほど。
先ほど「ホームビデオ的に〜」とか「日常の何気ない風景を〜」などと宣っていましたが、それは撮影のハードルが低い機材で実現できる話で、1回の撮影に10000〜20000円もかかるんだったらそんな使い方できるかい!

もちろんレトロエンタープライズさんの高い技術・サービスを考えると決して高くはないのですが、絶対的に超えるべき金銭的なハードルが高い。そのハードルを超えたとしても、せっかく撮るならいい作品を撮らなければと強いプレッシャーが生まれそう。僕も次使うときはたぶん、何かしら強い目的とこだわりを以て撮影に臨むと思います。もしくは、近々ヤフオクに動作確認済みの8mmカメラが1700円スタートで出品されてるかも…。

fin.

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