見出し画像

紙幣でわかる、テュルク諸語の親戚関係

先日、旧トルコリラ紙幣についての話を書きました。今日はせっかくなので、それに関連して話題提供をもう一つ。トルコ以外のテュルク諸国を訪問した時に、帰国間際に両替し損ねた紙幣が何枚か手元に残っていたので、それを題材にしてみます。

数字といえば、2019年のセンター試験、地理Bの問題でトルコ語とウズベク語の「親戚関係」を読み取る問題が出題されたことがありました。その時のことは、以前書いたことがあります(下記リンク)。

なんと、センター試験の問題に私の実名が載ったことがありましたのよ…

さて、実際のところテュルク諸語の数字はどれくらい似ているのでしょうか。今日は私の手元にある紙幣から、アゼルバイジャン語、ウズベク語、カザフ語の例として、「現物」を少しみてみることにしましょう。

まずはアゼルバイジャン。通貨は「マナト」です。1マナト札、5マナト札を見てみます。

画像1

トルコ語: bir 「1」, beş 「5」
アゼルバイジャン語:bir 「1」, beş 「5」

他の数詞ではやや違いが出てくる場合もありますが、文字表記がどちらもラテン文字ということもあり、ほぼトルコ語と近似していることがわかります。

両者の違いでは、たとえば「4」だとトルコ語がdört, アゼルバイジャン語はdörd. 「20」ならトルコ語はyirmiで、アゼルバイジャン語はiyirmi...のような違いが挙げられますが、両言語のの近さは数字などで特に顕著にあらわれるといえるでしょう。

ウズベク語はどうでしょうか。ウズベクの通貨は「ソム」(сўм)と言います。どうでもいいですが、キリル文字ウズベク語、イイですよね…(よくないですか?)。


画像2

今も使われている紙幣かどうか自信がないのですが(調べない)、これは100ソム紙幣。で、キリル文字でюз сўмとありますね。ラテン文字表記であれば、yuz so'mとなるでしょう。トルコ語と比べてみましょう。

トルコ語:yüz 「100」
ウズベク語:yuz (юз) 「100」

üとuで使用文字の違いはありますが、やはり対応関係がありそうです。実際、上記リンクでも書きましたが、ウズベク語で1から5まで書いていくとbir, ikki, uch, to'rt, besh(ラテン文字)となるのに対して、トルコ語はbir, iki, üç, dört, beşとなります。

最後に、カザフ語についても紙幣の数字を見てみましょう。カザフスタンの通貨は、テンゲ(теңге)といいます。写真は、5テンゲ札の一部です。

画像3

トルコ語:iki 「2」、yüz 「100」
カザフ語:екі(yeki)「2」、жүз (jüz)「100」

似ているかどうかで判断するとやや危険で、むしろ「音の対応関係」が言語の親戚関係では重要になってきます。

ここでは詳細を省きますが、トルコ語の/i/の音がカザフ語の/e/の音に対応していること、またトルコ語の/j/(注:「ヤ行」の子音を指すとここでは考えてください)の音がカザフ語の/ʤ/(ここでは「ジャ」「ジュ」「ジョ」の子音の部分と考えてください)と対応していることが、両者の「親戚」関係を認める決め手となっていく、というわけです。

画像4

というわけで、限られた数字だけ今回は実例として挙げてみました。
数詞の一覧表のようなものを作ったら面白いだろうなと思うのですが、今回は上記の私の過去記事で提示した表だけ、ここに再掲しておきます。

スクリーンショット 2021-02-25 8.13.34

それぞれのテュルク諸語はどこまでが似ていて、どのあたりが違うのか。数詞は比較的表面的なところといえますが、ここからさらに踏み込んでいくと音と音の対応関係、ほかにも語の構成の違い、接辞の意味の違い、文の構成の違い…と、調べるべき多くのトピックが待っているのです。

さあみなさんもぜひ、春から(今からでもよい!)テュルク諸語をどれか一つ(あわよくば複数)。いかがですか?

記事を最後まで読んでいただき、ありがとうございます。Çox təşəkkür edirəm! よろしければ、ぜひサポートお願いいたします!いただいたぶんは、記事更新、また取材・調査のための活動資金に充てさせていただきます。