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語呂合わせの話:「F将軍は重症だ」、あるいは「ナッツ屋のシャハプさん」

今日は、トルコ語の話をひとつ。やはりアドヴェンター、トルコ語の話は1回くらいはしとかないとだめでしょうからね!

トルコ語には21の子音がありますが、これらの子音はさらに有声子音・無声子音に分類されます。この分類は重要で、たとえば格語尾や付属語の形が有声・無声の区別によって変わってくるということがあるのです。

(1) 
a. ev-de
家-位置格
「家で」
b. banka-da
銀行-位置格
「銀行で」
c. süpermarket-te
スーパーマーケット-位置格
「スーパーマーケットで」
d. sokak-ta
道ばた-位置格
「道ばたで」

(1a)(1b)のように、有声子音や母音終わりの語に位置格語尾がつくときには-de/-daのいずれかがつきます(どちらになるかというのは、「母音調和」という規則によって決められますが、この話は今回はあまり触れないことにします。興味のある方は以下の記事をご参照ください)。一方、(1c)ではsüpermarketの最終母音は/t/で、声帯のふるえを伴わない無声子音になっています。このときは、位置格語尾もそれに同調するかたちで、{-te}というかたちになります。同様に(1d)も、sokakの最終子音は/k/で無声子音。したがって、位置格語尾は{-ta}となります。

理屈としてはなんということはない現象、と思われる方もいらっしゃるでしょう。が、「語学」として考える際にはどうか、という話はあるかもしれません。実際にトルコ語を発話してみようとなると、これはこれで知識として知っておく必要があります。

で、この無声子音がトルコ語にはいくつあるかという話ですが、これも8種と知っておけば済む話ではあります。問題は、実践上の観点からある子音が有声か無声かというのを瞬時に判断できるか。

それで、文法書によっては語呂合わせを提示していたりするのですね。そうやって8種の子音を覚えてしまいなさい、と。この語呂合わせは、それこそ大学学部でトルコ語を専攻した1年目に、恩師から教わったものがあって、25年以上経った今でもよく覚えています。

(2) Fe paşa çok hasta.
F 将軍 とても 具合が悪い
「F将軍は重症だ」

勝田茂『トルコ語文法読本』(大学書林、1986年.p13)

この(2)の文の中に無声子音8種、すなわちç(発音は[tʃ]), f, h, k, p, s, ş(発音は[ʃ]), tが全部入っているというわけです。繰り返しになりますが、これらの子音で終わっている語に、同じく子音ではじまる接辞や付属語が付加されるときには接辞の最初の子音部分もそれに合わせて無声子音にするように、ということで文法的にも重要なパートではあります。

もっとも、自分の経験ではそのうち慣れるので、この語呂合わせもいずれは必要がなくなってくるということはあるのですが。自分のことではなく、ほかの人にこの無声子音のことを教えるときに、人によっては語呂合わせのほうが覚えやすいという方がいるようなら、先人より伝わりし上記の語呂合わせを紹介することになるでしょう。

…と思いながら、今朝がた別の文法書を見てみますと、別の語呂合わせが紹介されてありました。

(3) Fıstıı Şahap
ナッツ屋 (人名)
「ナッツ屋のシャハプ」

Ersen-Rasch and Onası (2015) "Yabancı Dil Olarak Türkçe Dilbilgisi" (İstanbul: Papatya Yayıncılık, p13) 

んーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。
微妙っすなあ。でも、こちらのほうが将軍よりは親しみがあるとも言えますか…(のか?)

ちなみにシャハプという単語、アラビア語起源の語だそうで(şihāb)、意味は「流れ星」。ここではもちろん固有名詞として考えたほうがよさそうですが、なるほど8種の無声子音が全部入ってはいますか。

さてさて。あとはどちらが覚えやすいか、という話ですが、みなさんはどちらで覚えるのが楽に見えるでしょうか。

(2)のほうがいいという方も、(3)のほうがいいという方も、あるいはどちらでも変わりゃせんわぇ、という方もいらっしゃるでしょう…が、ともかくこの8種が無声子音だってことさえ定着してしまえばよいわけですから、さっさと8種の無声子音を頭の中に叩き込んでしまいましょう。

頭の中に定着してしまえば、その時にはもう語呂合わせには用はないですからね…。しかしそれにしても、語呂合わせというものも記憶の定着にはたしてどれくらい有効なのでしょうね…?

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