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福島第一原発復旧工事で白血病にかかった作業員に聞く「おれたち作業員は捨て駒なのか」

 福島第一原発事故で漏れ出した放射線で、健康被害が起きるのか。起きるとしたら、どんな病気が発生するのか。発生以来6年以上「ある」「ない」両面から社会的議論が続いてきた。


 その議論に終止符を打ったのは、同原発の復旧作業にあたっていた作業員二人が白血病(骨髄細胞のがん)になり、一人が甲状腺がんになったことだ。そして、厚生労働省が、この3人の労働災害を認めた。つまり「原発復旧の作業が原因で白血病(甲状腺がん)になった」ということを他ならぬ日本政府が認めたのである。認定の一人目、白血病が2015年10月。二人目の白血病が2016年8月。3人目、甲状腺がんが2016年12月である。

(上下二枚とも福島第一原発で作業中の池田さん)

 正直言って、この政府の決定に私は驚いた。これまでの公害病などの歴史からみて、政府は言を左右にして責任を認めないだろうと思ったのだ。しかし政府はそれをあっさり認めた(もちろん「科学的因果関係が認められたのではない』とかゴチャゴチャと注釈は付けている)。これは世界的・歴史的に見ても珍しいことである。米国のスリーマイル島原発事故(1979年)では、2000件以上の訴訟が起きながら、健康被害と被曝の関係は一件も認められていない。州政府は認めてないのはもちろん、裁判所も認めていない。福島第一原発事故でも、労災の認定に裁判をして30年くらいはかかるだろうと予想していた私の予想は、いい意味で外れた。


 こうして「福島第一原発事故の放射線漏れは、健康に被害を及ぼさない程度の軽度のものである」という政府や県、電力会社の6年間の主張は崩壊した。


 しかし、発生直後から福島第一原発事故を取材し続けてきた私にとって、これは「絶対に起きてほしくない現実」だった。大量の放射性物質が漏れたが、何か奇跡が起きて、発病や健康被害にまで至る人が出ないことを、祈るような気持ちで見守っていた。しかしその願いは虚しく打ち砕かれた。がんという致死性の病気を発病した人が、三人も出たのである。もはや健康被害について議論の余地はない。恐れていた悪夢が現実になってしまったのである。


 旧ソ連のチェルノブイリ原発事故でも、まず重篤な健康被害が出たのは「リクイダートル」と呼ばれる初期対応にあたった消防士や兵士だった。約5000人弱が死んでいる。当たり前だが、放射線の強い現場に近付いた人間から順番に重篤な病気になるのである。福島第一原発事故でも、まったくこれと同じ現象が起き始めた。


 私が非常に不思議だったのは、福島第一原発事故でとうとう健康被害(がん)が現実に発生し、それを政府が認めているというのに、新聞・テレビをはじめとする記者クラブ系マスメディアがほとんど報道しないことだ。人類史上三回しか起きていない原発事故の、放射線によるけが人が出ていて、あまつさえそれを政府が認めているのである。放射線防護はどうなっていたのか。会社の管理はどうなっていたのか。どんな場所で作業をしていたのか。そうした詳細なレポートが出るのかと思ったら、出ない。労災認定されました、とだけ短く報じてほったらかしなのである。その作業の詳細がわからないと、どういう場面で危険な被曝をするのか、経験値がシェアされないのだ。


 私は一人目の白血病で労災認定された池田和也さん(42歳。仮名)に話を聞きに行くことにした。弁護士を通じて連絡を取ったら、快諾してくれた。池田さんは福岡県北九州市に住んでいた。話を聞いてみたわかったのは、ゼネコンによる放射線防護対策のずさんさである。そして病気で倒れた作業員への東京電力の冷淡極まる態度である。


(インタビューは2017年3月23日に約3時間、同市内の池田さんの自宅で行われた)

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福島第一原発復旧工事で白血病にかかった作業員に聞く「おれたち作業員は捨て駒なのか」

烏賀陽(うがや)弘道/Hiro Ugaya

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ジャーナリスト・フォトグラファー 1963年京都市生まれ。京都大学経済学部卒。 コロンビア大学修士課程(軍事学)終了。 朝日新聞社記者を経て2003年からフリーの報道記者。 アマゾン著者セントラル:https://www.amazon.co.jp/-/e/B01MF8GG1A
コメント (3)
読みごたえありました。健康なお体に戻れることを祈っております。お大事にと、お伝えください。
「おれたち原発作業員も捨て駒だと思ってたんかって話になるじゃないですか」うえでつながってるからテレビも新聞もダンマリ・・やっぱ、烏賀陽さんしか出来ないことですね。
この話は本当に伝わってきました。僕たちがこうして何不自由なく生活できるのも、池田さんのような方々が普段から現場で奮闘していたからなんだと分かりました。
池田さんが福島の人たちのために、できることをしたいと行動した姿は衝撃的でした。
どうか、再発しないことを心から祈っております。
烏賀陽さん、このような取材をしていただき、ありがとうございました。
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