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ハイタッチ

 今日、いや、日付またいだから昨日か。今まで生きてきて一番心に残るハイタッチを見た。ほんとだよ。大袈裟でもなんでもない。それも自分のじゃないってのが今でも不思議。

 これまで人生の多くの時間をスポーツと関わってきて、ハイタッチをすることが数えきれないほどあった。ハイタッチは心が相手と通じているからこそできる。いつでもやるものでもないけど、タイミングとかその他諸々が合って初めてハイタッチ(Hi Five)出来るんだ。

 最高のプレーが出来たとき、交代した仲間を励ますとき、目標を達成できたとき、きつくてくじけそうになってたら手を差し伸べられたとき、頑張る味方を支えたくなったとき。僕たちは手と手を少しだけ重ねる。そう、ほんの少しの間だけ。一瞬でいい。

 指導者の方針として、基本叱りたくない。スポーツはやらされるんじゃなくて、自分たちが楽しいからやるものであるべき。ただ高校生だから、全部がそうはいかない。さぼりたくなったり、遊びたくなったりもする。そんな時に、少し道を示してあげるのが役割だと思ってる。

 今日の練習は入りはとても悪くて、その状況を分かっていながらも自分たちで改善できないまま流していた。高校生は優しくて嫌われるのが怖いから、チームメイトを注意することがなかなか出来ない。だから、空気が悪くなることが分かりつつ、叱った。でもさ、やらされてもつまんないだろ。バスケットボールはやらされるものじゃないし、スポーツは本質的にそんなものではない。

 一つのプレーに楽しんで悔しがって、だからまた明日にはプレーしたくなる。そうやって気付いたらもう20年以上も夢中になってたよ。これからもきっとそう。僕自身、バスケットボールに出会わなかったら違う人生を歩んでたんだろうなって思うくらいに大きな意味を持っているものなんだ。

 今監督をしているチームは、個人でとても良いものを持っているのに勝ち切れない現状がある。僕は殻を破ってあげたいけど、プレーするのは彼ら自身。楽しくやるか勝ちを目指すかってムズカシイ。極端にどちらかに振り切れない。まだまだ指導者として全然勉強が足りない。

 叱った後キャプテンが勇気を出して、ミスした同学年に声を荒げた。「衝突することは悪いことではない」。分かっているけど、言いたい事を言えないままにもやもやして過ぎていっても面白くないでしょう。

 それを真に受けて帰ろうとした同学年のやつを呼び止めて話した。やっぱりどこまでも忙しい僕は全然未熟で、彼と上手くコミュニケーションが取れていなかったんだと思った。そいつとじっくり話して気持ちを聞けて、色んなこと整理して練習に戻ってくれた。それだけで嬉しかった。

 残り少ない時間の中でそいつはコートに戻った。キャプテンを呼んで話をした。どちらも悪かった部分を謝って、練習に入ろうとする時に二人は軽く目を合わせて僕の目の前でハイタッチしたんだ。軽く手を握るような、見落としてしまいそうなくらい自然なハイタッチだった。少しだけ言葉を交わして、向き合った二人の手が伸びて、腰の下の辺りで一瞬だけ手が重なって、気付いたらもう練習に向かってた。

 ほんの少しの時間だったけど、僕の頭の中からはまだあの光景が消えない。バスケットボールって、スポーツってこういうものだろう。こうやって僕は悩んで迷って頑張って成長してきたんだな。そして同じような日々を彼らも過ごしている。

 スラムダンクが大好きで、31巻の桜木と流川のハイタッチを何度見たか分からない。昨日現実で見たハイタッチは桜木と流川みたいだった。

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