中野駅 午前0時(AM0:00)

 終電間際に飲み会が終わって、帰っていく皆を北口改札前で見送って、僕は中野通りから大久保通りに向かって歩きだした。会社での久しぶりの飲み会。コロナの間は自粛ムードで全然集まれなかったけれど、3年ぶりに仲の良い同期が揃った。

 入社前の研修で仲良くなって、研修の期間毎日飲んでいた。最終日に寝坊をかまして怒られていた僕を横目に笑っていた4人。その日の夜、打ち上げでどんな風に働いていきたいかちょっと語ったのも中野だった。

 あれから時間が経ってそれぞれ部署は違ったり、誰かが転勤で何年か東京から離れたりした人もいるけど、定期的に集まっては飲んで騒いでいた。転勤先に遊びに行ったこともあれば、会社のBBQを皆で企画したこともある。毎日働く中に彼らがいてくれたことで救われた。

 男3人、女2人でバランスは別に良くはない。けど、揉めることもなくだらだらと過ごしていても飽きることなく、不思議で居心地の良い空間だった。でも、コロナが来て誰とも会えなくなった。会社の対応は早くて、すぐに在宅のリモートワークに切り替わったからだ。時々は同期ラインを動かしながら変わっていく日々を一人で過ごした。外に人がいなかった。スーパーに物が足りなくなった。飲食店が次々に閉まっていった。マスクを手放せない状況にも慣れて、やがて息苦しさも感じなくなった。

 こんな日常が続いていくのかな。前の世界を少し忘れかけていた頃、一人から電話が掛かってきた。

 「元気?」

 「元気だよ。全然会ってないけど、そっちは元気?」

 「うん。皆何してるのかな」

 「わかんないけど、元気にはしてるんじゃない」

 「これが終わったらさ、また飲もうね。絶対だよ」

 「うん、絶対って」

 絶対なんて言葉、そんなに使わないけど、この時は頼もしかった。ああ、ちゃんと世界は動いているんだなって。僕の世界は終わっていない。

 やっと集まれた。いつもみたいにビールで乾杯して、途中から好きなお酒を飲んで、腹いっぱい食べる。そんな日常が大事だったんだ。

 歩いて帰る。イヤホンからはクリープハイプの「月の逆襲」。じゃあね。会おう。またすぐに会える。

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