見出し画像

かぼこ。 〜勇敢な頻尿者へ捧ぐ愛の歌〜

かぼこ。

かぼこ、は、かまぼこの類いではない。
かと言って、スマホにありがちなフリック入力の間違いでもない。

かぼこ、は過活動膀胱の略である。

わたしが勝手にそう呼んでいる。
諦念と愛着を込めての略称である。
過活動膀胱のポップでキッチュなニックネームが、かぼこ、だ。

ちなみに、わたしは、そんなポップでキッチュな過活動膀胱ことかぼこを、『パトラッシュ』と名付けている。何だか、大きくて、温かくて、優しげだ。何より、ピンチの時に助けてくれそうじゃないか。

中高年には説明するまでもないが、不運にもこのnoteを読んでしまう若人のために説明しておかなければならない。

過活動膀胱とは、齢50を越えた殿方の話題のバイラルチャートに急浮上する、アレのことだ。

アレと言っても昨年の流行語大賞ではない。
アレとは、端的にいえば、頻尿・尿漏れ・残尿感が三位一体となった泌尿器症状のことである。

これぞ、まさに、ハイブリット膀胱。時代の先端を行っている気がする。気のせいかもしれない。
その性能のなかでも、突然の尿意は激烈で、即、緊急事態を招く。

かく言うわたしも、そのような症状に、漏れなく当てはまる。膀胱だけに。

かぼこと初めて出会ったのは、いつのことだったか。正確なことは、もう忘れた。忘れた理由は、劇的な記憶喪失でもなければ、運命の悪戯でもない。

加齢だ。

「ここから先、中高年」と書かれた境界線を跨いだけなのだ。まあ、その他に細々としたストレスなどがあったことも関係しているだろう。 

そんな風にしてかぼこと出会ったわたしは、あれよあれよと、電車で一駅乗ることさえままならない状態へと陥った。

その当時、電車に乗る度に、わたしの額では、公共の場での尿失禁の恐怖と羞恥から、あぶら汗のパレードが始まることが常だった。

出番を終えた汗たちが、襟元に染みを残しては、消えていった。

重なる汗染みの柄は、見ようによっては世界一有名なネズミに見えなくもなかった。夢の国のあちらこちらに密かに存在する隠れネズミのしるしだ。ファンには堪らない。

わたしはファンではないが、あまりの苦しさから現実逃避したいがため、夢の国に縋った。
車内のライトに反射するあぶら汗が、リズミカルなテンポを刻むその様子を、無理やりエレクトリカル・パレードに見立て、気分を紛らわせた。

そんな不埒な考えばかりが、走馬灯のように、浮かんでは消え、浮かんでは消えていった。
走馬灯を見つめるわたしの眼は、ほとんど白目を剥いていたかもしれない。
白目を剥いてあぶら汗をリズミカルに流す中年男性は、側から見れば、完全にヤバいやつであっただろう。いっそのこと、

「やぁ、僕、ミッキーマウスだよ、ハハ!!」

と叫んでやれば良かったか。
そうしなかったのは、走馬灯の端に、亡き祖母の顔が見えたからだ。

わたしは、実に、おばあちゃん子だった。不遇だった子ども時代に世話してくれたばあちゃんを悲しませる訳にはいかないという想いが、今でもあった。
それに、ばあちゃんは、生涯、夢の国に行ったことなどなかった。だから、ばあちゃんにとって世界一有名なネズミと言えば、鼠小僧に他ならなかった。

「天が下 古き例は しら波の 身にぞ鼠と あらわれにけり」

調子外れな古風な台詞が、わたしの意識をギリギリこちらの世界に繋ぎ止めていてくれた。
きっと、今は亡きばあちゃんが守ってくれていたに違いなかった。不甲斐ないわたし、いや、締まりない膀胱を。

それからというもの、乗車まえの排尿と、降車駅のトイレへの最短ルートの確認は、自身の膀胱へのエチケットとなった。

今でこそ、流行りのリラックスパンツは、心強い味方といえよう。かぼこの旅人を主役にしたRPGなら、旅の終盤で手に入れる三種の神器のひとつに値するはずだ。

しかし、どれだけ事前準備にいそしんだとしても、都会の交通事情から生まれた怪物の前では、実にあっけなく、無効化させられてしまう。その無慈悲な怪物の名は、

魔王遅延電車。

現代最強の呪術師、いや、天敵、と言っても過言ではない。
到着時間が10分、いや、5分でも遅れようものなら、かぼこたる者の額は、みるみるうちにあぶら汗でまみれ、両の足は震え出す。まるで生まれたての子鹿のように、プルプルプルプル゛、プルプルプルプル゛、と。
その様子は、地獄絵巻に描かれていても不思議ではない。

魔王とかぼこは、互いにやるかやられるかの闘いを終え、降車駅へとたどり着く。
勇者かぼこが見事勝てば、もちろんハッピーエンドだ。エンドロールには、膀胱のオアシス、駅構内トイレが待っている。
逆に、魔王が勝った際は、バッドエンドだ。
想像したくはないが、その様子は、地獄絵巻に描かれていても不思議ではない。

たとえハッピーエンドでも油断はできない。
残党が生き残っていることがある。
便器に放出した量よりも多くの量を、うっかり自前のパンツで受け止めようものなら、黄色いお小水とともに、男としての尊厳までも、流れ落ちてしまう。
はたして、流れ落ちた尊厳が戻ってくるかどうかは、わたしには分からない。
頼む、TOTOに聞いてくれ。LIXILでもいい。

できれば、ここに、『大魔王オリエンタル急行篇』も書きたいところなのだが、くどくなるので割愛する。


かような事情ゆえ、過活動膀胱ことかぼこを持つ者の交通機関での長距離移動には、緻密な排尿計画と、強固な忍耐力が不可欠だということを理解してもらえると嬉しい。

ウィークエンドの、悪魔。


いざ、冒険の本編へ。

時は、緊急事態宣言が解除されて迎えた最初のウィークエンド。わたしも、この週末は、所用で、他県へ出かけることになった。
ひさしぶりの遠出に、わたしの胸は、青春18切符よろしく、高鳴っていたことは否めない。
そんな浮か気分のわたしの背後、遥か遠くの空の向こうから、すでに怪しげな暗雲が近づき始めていたことなど、このときはまだ知る由もなかった。

この日のわたしは、最大の難関であるジャンクション渋滞を前に、直前のSAできっちり排尿をし終えた。

「我が膀胱に死角なし! いざ、参る!」

と、こころの法螺貝を、ブォォ〜、ブォォ〜、と吹きならしながら、意気揚々と車中へと乗り込んだ。
気分は戦国武将。
脳内で、わたしは側近家来を従え、天下統一を志している。かぼこのない天下平成の世を成し遂げようと、パカラッ、パカラッと名馬を走らせる。
そうは言っても、かぼこに油断は禁物だ。
膀胱に伝わる振動は最小限に抑えるに越したことはない。
万全を期し、運転は信頼する家来に任せる。
これでわたしも名将の仲間入りだ。

そのときだった。わたしは何かの気配を感じ取った。
(むむ、曲者か⁈ )
わたしは叫ぶ。であえであえいっ!
不意に現実へ戻させる何者かが現れた。

「オシッコ、、、したい、、、かも。
 ……尿意でござる!」

そんなバカな!
排尿計画は完璧だったはず!焦れば焦るほど、尿意は強くなった。
これが過活動膀胱ことかぼこの恐ろしいところなのだ。

日本人の膀胱の平均容量は300〜500mLと言うが、これは、わたしたちかぼこを持つ頻尿者には、全く当てはまらない。桁が一つ違う。
我らの膀胱の容量は、30〜50mL程度だろう。これは、小サイズのヤクルトほどだ。
さらに、かぼこの位の高い者ともなれば、10mL切りも夢ではない。もはや、スポイトのレベルである。王者の貫禄さえ漂う。

そんな我々に対して、尿意は、試合開始のゴングなどお構いなしに、先制攻撃を浴びせてくる。まるで、試合前のデモンストレーションなど要らぬと言わんばかりだ。
ならば、こちらは防御に徹せねばと、ひとり連想ゲームをして対抗する。

「気持ちを楽に〜、大らかに〜。」
「ひろーい空、みどーりの草原。」

すかさず自己催眠リラックスの呪文を唱える。
オイリーな長髪にサングラスの催眠術師に成り切るわたし。
見た目は痛いが、腕は確かだ。

しかし、どうしたことだろう。その穏やかな心象風景はいとも容易く砕け散る。
縁日の型抜き菓子のようだ。
こう言っちゃ何だが、彼らも商売。そう容易く景品などくれてやるものかと、配られる型抜き菓子はうすうすなのだ。加えて、脆い。

くそう!砕けた!おっちゃん、もう一枚!

ニヤリとほくそ笑みながら、新たな型抜き菓子を手渡してくるおっちゃん。瞳の奥に腹黒い闇が見える。
更にその闇の向こうにも何かが見える。あれは、何だろう?、、、はっ!

ダムの放水だ!!

ダメ!絶対!そんなの見たら、わたしのダムも放水してしまう!
わたしの焦りとは裏腹に、車は全く動く気配がしない。

え? 時間泥棒来ました?

焦るわたしは世界の残酷さを知る。いったい誰が再生ボタンを押したのか、

「にょーい、どん!」

という悪魔のフレーズが、頭の中、リフレインする。
これが、ユーミンの曲だったら、どんなに素敵だったでしょう。
気分は上々、走るは中央フリーウェイ。

しかし、このときのわたしの脳内BGMは「走れコータロー」(現代っ子は、マキバオーと言いたいところか)。
額にはたま粒のあぶら汗。
走るは山間の自動車道。
待てども、待てども、車は、一向に進みません。

エキゾチック・パシャーン。


どれくらいの時が経ったか。
数十秒のような気もするが、数十分のような気もする。わたしからは時間感覚が消えた。

徐々に視界が白ける。
何かが見える。
あれは、星だ。無数の星が、きらきら、きらきら、見えてきた。ああ、綺麗だな。
誰かが、耳元で、呟く。


「パトラッシュ(マイ膀胱)、疲れたろう。
 僕も疲れたんだ……。なんだか、とても眠いんだ……」


この後の流れは、きっとこうなるはずだ。

そっと目を閉じる、わたしとパトラッシュ(マイ膀胱)。

おごそかな雰囲気をまとった大聖堂へと変貌した車内のサンルーフから、清らかな天使たちが舞い降りる。

わたしとパトラッシュ(マイ膀胱)は、天使たちにそっと抱き上げられ、天に昇って行く。

わかります。
美しい賛美歌が聴こえる。まばゆい光につつまれて目を覚ますと、わたしの苦痛はすっかりなくなっている。

あれれ?と純朴な顔で、下腹部に手を当て気付く。パトラッシュ(マイ膀胱)の顔からは苦悶の表情は消えている。わたしとパトラッシュは、

「あは、あははは」
「わん、わわわん」

と微笑みを交わし合う。そして、ふたりは手を取り合って苦しみのない眩い光の中へと消えてゆく。

助手席のシートに、ほかほかと湯気をあげる、ほの黄色い水たまりを残して。

めでたし、めでたし。(恍惚の表情)。


……
………

「いや、それ、完全にアウトでしょ」

静寂を切り裂く声がする。
運転席に座るわたしの家来、、、いや、ツレの冷ややかな声に、ハッと我に帰る。
それと同時にマイ膀胱(パトラッシュ)の悲鳴も音速を超えて戻って来る。
渋滞は続くよ、どこまでも。
カーナビで確認すると、この間、わずか500mほどしか進んでないじゃない。

オーマイガー。

ふだん、決して使うことのない言葉が口をつく。

欧米か!

と自ら古のツッコミを入れるも、ゆかいな気分は瞬時に蒸発する。

ドライアイスか!

その時、運転席から一直線にのびる、現役時代のイチローを彷彿とさせるレーザービームのような視線に気づき、わたしの背筋は凍りつく。
できることなら、視線のレーザービームで跳ね返したいところだが、生憎、わたしは郷ひろみではない。
この状態でエキゾチックになる訳にはいかない。
ジャパーン!と拳を振り上げる代わりに、パシャーン!とナニがエキゾチックしてしまう。
弱まることを知らないツレのレーザービームの圧に、マイ膀胱(パトラッシュ)は追い込まれて行く。
逃げ場を失った被疑者の気持ちが分かる。
「事件は会議室で起こってるんじゃない!」で一世を風靡した彼が叫ぶ。

「尿意は現場で起こってるんだ!」

栄光の架橋を探して。


追い詰められた被疑者のわたしの頭に、邪な考えが芽を出す。

もしかしたら、立ちション、できんじゃね?

それは犯尿という違法行為かもしれない。
でも、まだまだ、車は止まっているんだもの。身動きの取れないズボンにどうしろと言うの?サッと降りて、シャッと出して、シレッと戻れば、いいじゃない。

栄光へと向かう成功のイメージが、浮かび上がってくる。
BGMは『栄光の架橋』。
さわやかな二人組の歌に後押しされながら、可能性の糸を必死にたぐり寄せる。
そこに、再び、イチローのレーザービームが放たれる。


「いや、それ、完全にアウトでしょ」

上手いこと言いますぅ。
ありがとうございますぅ。

これまで、日本国憲法を遵守してきたわたしは、すっかり、法の奴隷だ。
飼い慣らされて牙を抜かれた狼なのだ。
言うならば飼い慣らされたペットである。
ポチと呼んでくれ。
そんな違法行為ができるはずもない。
果敢に立ちションに挑んだあげく、その様子を動画に撮られ、SNSに晒された日にはどうなりましょうか。
二度と、日向を歩くことができなくなるでしょう。
そればかりか、死した後も、

_高速道路で立ちションをした男、ここに眠る。

と、墓石に刻まれ、末代まで恥を晒し続けることでしょう。YouTuberのいいカモだ。すまぬ、子孫よ。


い、いかん。むるぅぅぅーっ!

そう思った瞬間、わたしの脳内に閃光が走る。光だ。
怒涛の速さで処理が行われる。光の速さだ。
まるで、「じつに面白い」が決め台詞の主人公が、その天才っぷりを発揮する時のように。
BGMは『ガリレオのテーマ曲』一択。
エッジの効いたエレキギターの音が、わたしを勇敢な者へと変える。
わたしは、素早く車内を見まわす。
いくつもの情報が、脳内へと流れ込む。
それらの情報を高性能コンピーターのように冷静に解析する。
ホワイトアウトする視界とともに、辿り着いたひとつの仮説。
わたしは、呟く。

「まだ仮説の段階だ。」
「仮説は実証して初めて確かなものとなる。」

起死回生の3分クッキング。


まるで悟った後のネオ(映画『マトリックス』より)のように、迷いが消え去った。

今、わたしは、静かだ。

ここで、わたしがリクエストするBGMは、『キユーピー3分クッキング』。
言うまでもなく、時短界のトップランナーの代名詞だ。やや急かされる小刻みなリズムが、今は何だか心地いい。
そのリズムに合わせて肩を揺らす。

先生「まず、ウエストポーチから、レジ袋とポケットティッシュを取りだしま〜す」

助手「どちらもご家庭にあるもので大丈夫です」

先生「下準備で、レジ袋には、空気をよ〜く入れておいてくださいね〜」

助手「袋に穴がないことの確認をお忘れなく」

先生「では、ティッシュを1枚、取り出してくださ〜い。ポケットティッシュで構いません。はい、そうしましたら、広げて袋の底に敷き詰めま〜す。同じように、残りのティッシュを全部、敷き詰めてくださいね〜」

助手「満遍なく敷けると、良いですね」(なぜ森本レオ風)

先生「残ったティッシュの袋も入れちゃいましょう。は〜い、そうしましたら、出来上がりで〜す!」 

《本日のメニュー》

簡単! 携帯トイレのポケットティッシュ添え。

ふざけているわけではない。
断じてない。
いや、全くないとは言い切れない。
しかし、わたしは、至って真剣だ。
その証拠に、わたしの眼を見て欲しい。
完全に血走っている。

もう、ギリギリなのだ。
男性6人で結成されたアイドルグループのデビュー曲ように、ギリギリで生きていたい、わけではない。
彼らは、現在、個性的なメンバーのイニシャルを並べたグループ名としたことが仇となり、ギリギリで活動している。崖っぷちだ。手段を選んでいる場合ではない。
そう、わたしも、手段を選んでいる場合ではないのだ。

世界にひとつだけの色。

小さく息を吐く。
すでに、次の戦いが始まっている。

親しき仲にも、礼儀あり。
死んだばあちゃんが言っていた。
わたしは意を決して、ツレに、想いを伝える。
心だけは十五のわたしに戻る。純粋無垢な、この想い。

届け、この想い!

「よく聞いてください。わたしはこれから任務に向かわなければなりません。まだ、誰も成し遂げたことのない、危険な任務です。もし、失敗すれば、男としてのわたしは確実に命を落とすことになるでしょう。それほど危険な任務です。しかし、わたしはやらなければなりません。それでも、わたしと一緒に居てくれますか?」


……
………

静寂の時が流れる。
ここだけ、時が止まったかのようだ。

え? 時間泥棒来ました?

ツレは、まっすぐに前方を見つめている。
表情は能面のように、ピクリともしない。
というか、ツレは完全にスルーを決め込んでいる。

おい、ツレよ。それじゃあ、わからんぜよ。
いや、ちょっと待て。そういえば、ないじゃないか。レーザービームのような視線も、アウトのコールも。

(ホッホッホッ)
試合は、試合は終わってない!
(ホッホッホッ)
俺たちは、まだ、戦えるんだ!
(ホッホッホッ)
先生、ホーニョーがしたいです!
(ホッホッホッ)

なら良いのか? 良いと言うことか?
ミーは、ゴーしちゃうよ?
わたしは、年に数回だけ、こんな風なポジティブ・シンキングをすることがある。
その一回が、今、訪れた。

チャーンス!!!

悶絶しながらも笑みを浮かべる激辛芸人の顔が浮かびあがる。
わたしに残された時間は、ごく僅かだ。
決断の時が迫る。
迷っている暇はない。
天も、我に味方する。ちょうど、トンネルに差し掛かったのだ。御天道様から逃れたトンネル内は、ほど良い塩梅の暗さである。
素速く周囲を見回す。
こちらから周りの車の車内は見えない。それは向こうからもこちらの車内が見えないとことを意味する。チャーンス!!

や〜るなら、い〜ましか、ねぇ〜。

富良野の父の声が、僕を後押しする。
ありがとう、父さん。父さんの誠意、ぼかぁ、忘れません。

意を決して、ズボンとパンツをすばやく下ろす。そこに現れた空間に、出来立てホヤホヤの簡易トイレを装着する。袋の縁が内側に依れないように細心の注意を払う。
危機的状況だというのに、不思議と心は落ち着いている。

「パトラッシュ(マイ膀胱)、随分と待たせて、ごめんよ。」

ゆっくりと、すべてを、解き放つ。

ああ…(暗転)

BGMの『栄光の架け橋』も、サビへと移り変わる。
任務を遂行して帰還したわたしの目に、光るものが溢れる。
わたしが流したのは尿だけではなかった。
わたしが流したのは栄光の涙だったのだ。
それは、あぶら汗に塗れながらも、きらきら、きらきら、輝いていた。

九死に一生を得た。
自分に言いたい。

「尿の色は銅かもしれませんけど、、、
初めて自分で自分をほめたいと思います」

おめでとう。
ありがとう。
一人二役でそう呟いたわたしの足元には、屋台の水ヨーヨー大に膨らんだレジ袋が、誇らしげに佇んでいた。

世界にひとつだけの色と、輝きを放って。




かぼこ。
勇敢な頻尿者へ捧ぐ愛の歌。

完。

#創作大賞2024 #エッセイ部門

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?