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夕闇骨董シリーズ          一章:首穴屋敷と幽霊骨董店      5話「色々と見えてる妹様と、憑いてきちゃった巴さん」(前編)

 
「ねぇ…貴方の後ろの女性
 凄い目で貴方の事睨んで首を絞めてるるけど…何で貴方は気が付いて無いの?
 
 なんてね♪
 こんあやし~
 vtuber事務所ゴースト倶楽部2期生オカルト系Vtuber
 バーチャル地獄出身で閻魔大王の孫娘、
 皆の心の閻魔帳!
 妖妖子(あやかし ようこ)だよ!

 今日の怖い話はね…恨み悔やみのお話なんだ
 
 皆はさ、誰か人に恨まれる事なんてしてないよね?
 人に恨まれるって本当に怖い事なんだよ…人の恨みは強い念になって恨まれた本人を不幸に導くの
 
 俺たちは紳士だから恨まれる人い恨まれる憶えなんて無いんんやで…だって?
 本当かなぁ
 だってさ、自分に心当たりが無くても一方的に恨まれる…逆恨みされる…そんな事だって有り得るんだよ?
 
 今回の話は、そんな理不尽な逆恨みによって命話奪われた花魁が、未だに現世を彷徨って何かを探し求めてる、
 そんな理不尽で怖くて、そして悲しいお話だよ

 これは…明治時代のお話
 とある遊廓で起きた悲しい事件が発端のお話なんだけどね

 その遊廓には物凄い美貌と優しさを兼ね合わせた人気の花魁が居たんだ
 その花魁の源氏名は巴桜(ともえざくら)
 没落した武家の娘だって噂なんだけど、そんな噂が流れるぐらい女性として凛々しさと美しさを持ち合わせた人だったんだって
 勿論そんな素敵な女性だから身請けの話も沢山有ったんだけど彼女はその全てを断っていたんだ
 
 「私の様な女が、再びお天道様に顔向けをして世俗に戻るなんて、そんな恥知らずな事が許されるはずが無い」

 って常に口にしてたんだって、
 その言葉の真意は明確に解ってないんだけど、
 遊女と言う職業の事じゃ無くて…遊廓に来る前に何かが有ったんだって言われてるんだ
 彼女は花魁になってからも周囲の、かむろや同僚の遊女達には何処までも優しかったんだって伝えられてるからね
 
 でも、優しいだけじゃ駄目なんだ…憧れられるだけじゃ幸せにはなれないんだよ
 
 彼女の存在に強い影響を受けた遊女達は自立心が強くなって、身請けの話は断る事例が多くなってたんだ
 苦界十年とまで呼ばれる廓勤めの中でも最後の瞬間まで強く誇りを抱いて死んでいこう…そう考える遊女が増えたんだって
 
 そんな巴桜の影響を強く受けた遊女に、身請け話を袖にされた男が巴桜を逆恨みした
 
 あの女さえ居なければ

 その結果
 花魁道中の道半ばで巴桜は刺殺されたの…何でも巴桜に影響を受けた遊女達に身請け話を袖にされた複数の男達が巴桜を逆恨みして共謀したんだって
 …本当に最低な話だよね
 巴桜の最後は、刃物を片手に殺到する男達に対して逃げる事も怯える事もせず
 かむろ達に「怖い事は何も無い、大丈夫だから目を閉じてなさい」と笑顔で告げると
 周囲に塁が及ばないようにと、襲い来る凶刃の全てを抱き込むように…その身を貫かせたんだってさ
 色町の人々は広く嘆き悲しみ巴桜を丁重に弔った
 それだけだったら人間って怖いよねって話なんだけどね…
 
 その後、出る様になったんだよ…巴桜の幽霊が
 
 夕暮れ時の遊廓を流離う巴桜の姿を、そこに住む人々は時々目にしたんだって記録が残ってるんだよね
 別に害が有るわけでも恐ろしい訳でも無い、誰にでも優しく美しかった巴桜が霊になっても遊廓に姿を現してくれる
 それは遊女達の心の支えになった、戦後その町が解体されるまで、その遊廓では巴桜は遊女達の永遠の憧れだった…
 
 京谷亭高齋(きょうやてい こうさい)著、花唄長樂日誌より抜粋
 ってね、昔の怖い話って今の都市伝説とは違った深みや味が有って面白いよね?」

宮藤家自宅  13時15分

 「って、そんな事が昨日は有ってな、その後も何だかんだ有って気が付いたら穴塚の駅前に立ってたんだよ」
 
 「ほぅほぅ、その後の何だかんだも気になるけど…成程ね、それで昨日家に帰ってくるのが遅かったわけね」

 「いや、それはそうなんだけどさ…本当にこんな胡散臭い話を信じるのか?
 もう少しこぅ、何言ってんだ此奴?的な視線を投げつけても良いんだよ?その視線を感じた瞬間兄ちゃんは泣くけどな」

昨日体験した非日常を妹に説明する、
あの後なんやかんや有った後に、気が付いたら穴塚駅に放置されてた俺なんだが、
「やけに人通りも少ないし夜職の人達を多く見かけるなぁ」と思ってスマホを確認したら夜の24時を回っていた、

その事実に焦って自宅へと連絡を入れたわけだが
そんな俺を待っていたのは親や妹からの心配の声では無く「フリーターがこんな時間まで何ほっつき歩いてるんだ」と言う暖かいツッコミの嵐だった
正にアットホームな針の筵状態に追い詰められた俺的に帰宅後の選択肢としては
取り合えず現在圧倒的収入格差で我が家の頂点に立っている妹様へ、

「明日はバイト休みだから、明日起きたら今日有った事を説明するし何ならオマエの活動のネタになるかもしれないからから、取り合えず今夜はもう寝させてくれ」
と説得を試みたわけだが、普段は色々と口うるさい程に絡んでくる妹が、何故だか俺の背後をずっと眺めながら目線すら此方に合わせず
「ん~、じゃぁ明日全部説明して貰おうかな…お父さんもお母さんもそれで良いよね?」と言えばウチの両親は
「まぁ千花がそう言うなら…」「藤吉、あまり自分の妹に迷惑かけるんじゃ無いぞ」と納得してくれた…やっぱり収入格差から生まれる発言権の強さって凄いわ

と言うやり取りが有って、そのまま疲れと憑かれからベッドへと飛び込み、気が付いたら「えっ、もう朝!?」となり
現在へと至る訳だ…寝て起きても何故か妹の視線は俺の背後を捉えたまま、俺の口から自分でも信じられない胡散臭い体験談が飛び出して来ても、
特に何言ってんだ此奴?的な視線を送るでも無く、俺の背後を只管に眺めながら話を聞いてくれている、
何で俺の話に疑問を感じないのか、逆にこっちが疑問を抱くレベルだ…でもそんな俺の疑問にたいして妹は笑いながら此方へ視線を合わせて

 「胡散臭いも何も、バイトに出かけたのに全然帰ってこないし迷子にでもなったのかな?とか思ってたらさ、
 そんな華やかな女の人を背中に憑けて帰って来るんだから…いやはや、流石私のお兄ちゃんだなぁと、むしろ昨日から感心してたんだよ」

と昨日から妹の中では用意されてたのだろう言葉のミサイルを飛ばしてきた

これは…あれだな

 「あ~妹さんよ」

 「なんだい兄さんよ」

 「昨日から俺と視線を合わせずに、俺と話す時は確実に俺の背後を眺めてたのって、
 人と話すときは相手の目を見て話しなさい!と言うコミュニケーションの基礎を忘れてしまった訳では無かったのだな」

 「何それ?ウケルw…明日から兄さんのご飯は猫チュールだけで良いってお母さんに伝えてくるね」

 「俺の失言でしたゴメンなさい」

素直に謝る…だって我が家の食費を全て自分の収入だけで賄ってる妹なら、俺の飯を三食猫チュールにするぐらい朝飯前だからね…

 「それにしても、千花にも巴さんが見えるのか…マジで?」

 「マジでだよ?、その華やかなお姉さんは巴さんって言うんだ、
 てか珍しいね自分に憑いてる幽霊の名前を知ってるなんて、てか憑かれてるにしても距離が近い気もするし…何事?」

ふと漏れた言葉に妹が食いついてきた
そりゃ知ってるよ名前ぐらい…そう思いながら
昨日の店主や未だに背後に憑いてる巴桜とのやり取りを思い出した
  

昨夜
幽刻庵にて

結局あの後、俺が幽刻庵で手に取った商品は華の意匠が施され日本刀を模して造られた簪(かんざし)だった
これが俺を呼んでると言うか、俺の背後に憑いてる女性が長年探してる品物の様な…そんな気がしたから

他にも色々な商品が自分に呼び掛けてきてる気がしたが、強い怨念や蓄積された嫉妬やら
…冷静に見てみるとこの店の商品の大半は、禄でもない呪いがかかってる気がする、
結構本気で、この中の商品に怪異の惨劇なんて物騒な代物を解決出来る品物なんて有るのか?
てかこの中から商品を決めて買わないと、
店主さん曰くバッドエンド一直線って…流石に糞ゲー過ぎるだろ
と頭を抱えて考え込んでた時に、

ふと背後から血の匂いと、
それに混じって微かな桜の香りがした
その香りに誘われて背後に憑いてる女性へと視線をやると、その血に濡れた着物姿の女性は一つの商品を何とも言えない表情で見つめていた

それは古い故郷を思い出すような
今は過ぎ去ってしまった素敵な時間を回顧するような
過去の過ちを悔い改めるような
遠い昔に失ってしまった自分の核を見つけたような

そんな儚げな眼差しを女性が向ける先の品物

桜の華の意匠が施され日本刀を模して造られた簪を

思いの外ずっしりとした

手にした瞬間…その簪が長い歴史を経て垣間見てきた人々の思いが伝わってくるような

暖かいのに不穏で、それでいて凛として

妄執や執念すらも取り込んでるのに…それでいて澄んだ印象を植え付けてく

そんな古ぼけた簪

そんな骨董品

それを手に取り

「あー店主さん、これが欲しいんですけど…お値段はいくらっすか?」

 
 

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