「きのう何食べた?」を見て

アマプラ映画感想日記第7弾。
今回見たのはこちら。

https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B09Z7YCWDN/ref=atv_dp_share_cu_r

中江和仁監督による2021年公開の日本映画。
よしながふみによる漫画を原作とした作品で、2019年と2023年にテレビドラマ化されています。
私はテレビドラマ版は見たことないのですが、全く問題なく劇場版は劇場版として独立した作品で楽しめると思います。

弁護士の筧史朗(西島秀俊)と美容師の矢吹賢二(内野聖陽)による、同姓パートナーの共同生活を描いた作品。
史朗が料理好きで、頻繁に料理の描写が出てくる。
詳細にレシピを説明してくれるし、グツグツと煮える鍋の様子などカメラワークも完璧で、完全な飯テロである。

どちらかというと史朗はクールで、あんまり愛情表現が得意な方ではないし、パートナーのことも周りに知られたくない。
一方で賢二は史朗への愛情が重く、周囲にも自慢したがる。それゆえ史朗の言動の機微に敏感で、色々と考えすぎて傷ついてしまう。
それを象徴するのが冒頭の京都旅行のシーンで、「普段旅行に行きたがらない史朗がどうして…?」「何このロマンチックなシチュエーション?ひょっとしてこの旅が終わったら別れを切り出される?」「まさか病気…?」と勘繰り、史朗に真剣に問いただす。
「死ぬなんて簡単に言うんじゃない」となだめられる。

これが物語の終盤になると、完全に立場が逆転する。
賢二が同僚と歩いている姿を偶然見かけてしまった史朗は、自分の中に芽生える嫉妬を自覚する。
そして気になって尾行する。
賢二が病院に行くところを見てしまい、「まさか病気…?」と勘繰り、賢二に真剣に問いただす。
「死ぬなんて簡単に言うんじゃない」となだめられる。
鏡写しかのような綺麗な対比描写。
このように立場が逆転するに至るまでに、お互いの身にどんなことが起こり、どんな心情変化があったのかに注目してみると面白い。

個人的には史朗が担当する裁判で、ホームレスの被告にかけられた疑いが晴れずに実刑判決となってしまい控訴を勧める中で、被告が史朗に対して「いるだけで目障りだって殴られたり蹴られたりする人間ですよ。戦えなんて余計、傷をえぐるだけ」と言ったシーンが強烈に印象に残っています。
史朗と賢二の交際について親から酷いことを言われ、散々後ろめたさを感じて来た史朗にすごく刺さり、自分と重ね合わせて理解を示す発言をしていました。
でも同僚の上町修(チャンカワイ)が「それは法律に携わる人間の言うセリフじゃない!」と強い口調で言った。
それで史朗もきちんと親に向き合って理解してもらおうと決意したのではないかな、と。
それが結果として賢二との関係にも真剣に向き合うことになる。だから嫉妬もする。
後から考えるとここがターニングポイントになっているような気がします。

2人の人間が愛を育むというのはただでさえ大変なこと。
たくさんの試練があって、それを一緒に乗り越えていかなければいけない。
ましてや同姓パートナーとなると乗り越えなければならない壁も今の日本社会では多いと思う。
本当にたくさんの試練がやってきて、2人が真剣に言葉をぶつけ合うんだけど、でもそのシーンの後には必ずおいしいご飯がやってくる。
「いただきます」
ごの儀式的な挨拶は、2人の愛情を確認し、幸せを噛みしめる、とても大きな意味があると思う。

誰かと一緒に「いただきます」を言って食事をすることは本当に幸せなことなんだなと改めて感じた映画でした。
たくさんの飯テロにお腹が空きましたが、中でもおいしそうだったのがリンゴのキャラメル煮。
それをトーストに乗せて食べる訳ですが、そこで賢二がひらめきます。
ハーゲンダッツのバニラを乗せて、シナモンパウダーをかけます。
いやー、おいしそう。コメダのシロノワールみたいな「熱冷たい」ですよね。
その行動に史朗は一瞬怪訝な表情を浮かべます。
そりゃそうですよね。こだわって作った料理を勝手にアレンジされて味変されたら。
でも最終的には史朗もそのアレンジに乗っかり、「うまい!」と幸せいっぱい。

私は料理は化学だと思っていて。
食材が加熱方法や調味料によって色や硬さや匂いなどが変わっていく過程が面白くて。
「最終的にどうなるのかな?」とワクワクしながら少しずつ完成に近づいていくのを眺めるのが好きです。
でも私は完璧主義でマニュアル人間なところがあるので、基本レシピ通りに作ってしまうんですよね。
調味料も計量スプーンを使ってきっちり量って。
だから大きな外れ値は出なくて予想の範囲内の60~70点に収まってしまうんです。

化学の実験も同じです。
指示書の通りにやったらある程度はうまくいくと思う。
でもそれじゃ既習事項の再現になってしまって全班同じ結果になって「はい綺麗にできましたね」で終わってしまってつまらない。
何人かで一緒に実験すると、薬品を量る人、液体を混合する人、加熱する人、目盛りを読み取る人、データを解析する人など役割分担しますよね。
それぞれの役割でその人の癖というか、エッセンスが出るのが実験の面白いところだと思ってて。
だから結果として各班の実験結果に微妙な違いが出て、それを比べて考えるのが楽しいんです。

この映画にも料理好き仲間が何人が登場します。
スーパーの安売り食材にこだわる史朗、高給で上質な食材や調味料をフル活用する小日向大策(山本耕史)、分量もしっかり量り時間も秒単位で厳密に守る富永佳代子(田中美佐子)、そして無頓着で思い付きでアレンジする賢二…色んな人のエッセンスが加わることで料理の時間はかけがえのないものになり世界で一つだけの味が完成するんだと思います。
まあ、佳代子の「調味料量った後に水量って入れれば洗い物減って楽でしょ?」という発言には「いやいや一度調味料入れた計量カップはちゃんとスポンジと洗剤で洗わなきゃダメだろ(笑)」と思いましたが(笑)。

ワケもなく頑固すぎた ダルマにくすぐり入れて
笑顔の甘い味を はじめて知った
君の大好きな物なら 僕も多分明日には好き
期待外れなのに いとおしく

大好物/スピッツ 作詞・草野正宗

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