万引き家族_

『万引き家族』現実を忘れさせた“家族ごっこ遊び”、その終焉… 6/8(金)~公開

映画鑑賞メモ

英題:Shoplifters 仏題:Une affaire de famille ★★★★★

※上の画像をクリックすると公式サイトに飛びます。

祝!皆様ご存じだと思いますが、本年度カンヌ国際映画祭の最高賞パルム・ドール受賞作品。『誰も知らない』(04)で柳楽優弥が最優秀男優賞を受賞し、『そして父になる』(13)は審査員賞に選ばれていますが、是枝裕和監督、自身初めてのパルム・ドールとなりました。

英題ですと「万引き者たち」という、昨今の韓国映画につけられた日本語タイトルのようで“家族”感がなくなってしまいますが、仏題は「ある家族の問題」ってことになるのでしょうか。

あまり万引き推しにしないでほしいかも。私はこの映画、家族“ごっこ”遊びのそれもかなりガチなやつだと思いましたので。

ネグレクトを描いた『誰も知らない』

異母姉妹を描いた『海街diary』

子どもの取り違えを描いた『そして父になる』

家族の崩壊や母の老いを描いた『海よりもまだ深く』などから続く、是枝監督の集大成です。

機能不全の家族、機能不全の社会が描かれ、歪んで、捻れに捻れた“今”が全て込められております。


東京の片隅、マンションが建ち再開発が進む町にポツンと残された古い家屋。日雇い仕事の父・治(リリー・フランキー)と息子の祥太(城桧吏)は“親子”ならではの連携プレーで万引きを成功させた夜、団地の廊下で凍えている幼い女の子を目にした治は思わず家に連れて帰ってしまいます。

そんな夫に腹をたてる妻・信代(安藤サクラ)でしたが、「5歳」という割には小柄で、体じゅう傷だらけの女の子・樹里(佐々木みゆ)の境遇を察し、面倒をみることに。祖母・初枝(樹木希林)の年金を頼りに暮らすその一家は、治、伸代、祥太と、風俗のバイトをしている信代の妹・亜紀(松岡茉優)に、樹里を迎えて、6人家族になったのですが…。


犯罪で繋がる家族に加わった、日常的に虐待されている幼子。

まるで、彼らはごっこ遊び、家族ごっこ遊びをしているかのようです。

通常はごっこを通じて、現実に気づき、折り合いをつけ、情緒や感性、人間性が成長していくものだと思いますが、

彼らはどうやら、その過程を子ども時代にへてこなかったのです。へることができなかったのです。


リリーさんや安藤さん演じる夫婦の2人は、今、大人になってそれをやっております。

松岡さんの亜紀もそうして遊んでいたはずの時代を鬱屈して過ごし、すでに失われてしまった様子。

城くん演じる祥太は今、現実で、万引きという悪事に触れながらリアルにごっこ遊びをやっています。

その少年はある日、気づいてしまうんです。この家族は、なんだかおかしいことに。

学校にも行かず、もう11〜12歳になっているであろう少年が気づいてしまうのです…。



しかし、そこで生まれて育まれた愛は、嘘偽りではありませんでした。樹里ちゃんが戻っていく日常こそが、機能していない日本の家族と、児童福祉やなんだのかんだの成れの果て。


また、何と言ってもこの映画の魅力は、俳優陣の演技にあります。

この6人が、子役の2人も含めていずれもナチュラルでそこにいる。審査委員長ケイト・ブランシェットが評し、監督自身もおっしゃっていたように「役者のアンサンブルがうまくいった」、ずばり。

オーディションから選ばれた城桧吏くんは、この先が実に楽しみ。

佐々木みゆちゃんはね、だんだん“家族”に慣れてきたら、どんどんおしゃべりになっていくんです、その変化が素晴らしかった。

松岡さんもひと皮向けた気がします。主演作『勝手にふるえてろ』もとても好きですが、今作でも「はっ?」ありますよ、お得意の。

そして、ケイトをも感服させたという安藤サクラさんの泣きの演技。

これは本当に、神がかっているといってもいいくらい、この映画のキーシの1つです。


たぶん、もう一度観ると、いたるところに不穏な伏線や矛盾があることに、きっと、もっと気づくんだろうな。

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