デトロイト

『デトロイト』1/26~公開中 これは語られるべき事実。狂気は今なお続く…

映画鑑賞メモ

http://www.longride.jp/detroit/ ★★★★★ 

1967年、自動車産業の街ミシガン州デトロイトで起きた米史上最大規模の暴動の一夜を、『ハート・ロッカー』キャスリン・ビグローがド直球・ド真ん中の骨太リアルさで描いた渾身作。

『ドリーム・ガールズ』などでも描かれたモータウン・サウンド隆盛の一方で起きていた「アルジェ・モーテル事件」を、当時の記録と当事者の記憶を積み上げて描き出します。

あまりの追体験ぶりに、久々、エンドロールの後もしばし立ち上がれず…。「フェアじゃない」と歌われる今もなお続く狂気の沙汰に、さまざまなシーンや思考が駆け巡ります。見終えて初めて142分もあったのかと気づいたりも。

特にモーテルでの尋問、いえ暴行のシーンは、しばし脳裏で反芻されるでしょう。

これは語られるべき事実です。広く見られるべき映画です。


あらすじ

1967年7月、デトロイト。無許可営業のバーの摘発をきっかけに、せきを切ったように始まった大規模な暴動。発生から3日目の夜、アルジェ・モーテルの別館から銃声が轟く。狙撃者捜索のためデトロイト警察、ミシガン州警察、陸軍州兵、そして近くにいた黒人の民間警備員がモーテルに押し寄せた。

そこに居合わせたのは、1人のベトナム帰還兵をのぞけば、いずれも10代の若者たち。その中には地元のR&Bグループ、ザ・ドラマティックスのリードボーカルであるラリーや、オハイオから来た2人の白人女性もいた。州警察は「人種問題にかかわるのは厄介だ」とばかりに立ち去ってしまう。やがて、差別主義者の警察官たちによる尋問は、脅迫、暴行、拷問となっていくーー。


ビグロー監督が即興演技をもとに選んだという、昨今の話題のドラマ、映画で活躍する注目の若者キャストがずらりと揃っています。

制服姿で銃を持つ民間警備員ディスミュークス役のジョン・ボイエガは、この修羅の場を何とか収めようとしますが、うまくいきません。彼は確かに「(彼らの言うことを大人しく聞いて)この夜を生き抜け」という言葉を発しますが、それをキャッチに持ってくるのは何だか違うような気がしています。

しかし、ボイエガくんは『スター・ウォーズ』と『パシフィック・リム』の間にこうした作品を選ぶというのは、実に素晴らしい。

また、差別主義者の警察官たちの先頭に立つクラウス役は、ウィル・ポールター。彼の成長をあらためて感じますが、『レヴェナント』ではトムハのことをちゃんと告発していたじゃないかっ!? と悲しく、悔しくなってきてしまうほど。

童顔の彼は、紛争の中で銃を手にいきがる少年兵のようにも見えました。彼が演じたのは3人の実在の人物を混合させた架空のキャラクターだそうですが、撮影中には「もう耐えられない」と泣き崩れてしまったこともあったのだとか。


そして、この一件以来、モータウン・サウンドを「白人のための音楽」として自らから切り離してしまったザ・ドラマティックスのラリー役には、今回初めて拝見しましたアルジー・スミス。彼の歌声には泣けてきます。

彼が、今も健在のラリー本人とコラボした「Grow(グロウ)」なども素晴らしいのでサントラをぜひに。

同じく、モーテルに囚われたラリーの友人フレッドには、『メイズ・ランナー』で知られ、ウィル・スミスの『素晴らしきかな、人生』では【死】を演じていたジェイコブ・ラティモア

カール役には、Netflix『マッドバウンド 哀しき友情』に主演している、『ストレイト・アウタ・コンプトン』『キングコング:髑髏島の巨神』のジェイソン・ミッチェル

その仲間のリー役には「Marvelルーク・ケイジ」のペイトン・アレックス・スミス

同じくマイケル役には「LOST」でウォルトを演じていたマルコム・デヴィッド・ケリー(彼も成長してた!)

そして巻き込まれる美容師のジュリーには、「ゲーム・オブ・スローンズ」ジリや『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』のハンナ・マリーが体当たり演技。

その友人カレンには、『ショート・ターム』でブリー・ラーソンと心を通わせる少女を演じていたケイトリン・デヴァーなど。


ベトナムの帰還兵には、マーベル作品のファルコンで知られ、『ハート・ロッカー』にも出演していたアンソニー・マッキー

仲間の白人警官には『シング・ストリート』『ローズの秘密の頁』(2/3公開)のジャック・レイナーと、『ハクソー・リッジ』のベン・オトゥール

『13時間 ベンガジの秘密の兵士』『プロミスト・ランド』などのジョン・クラシンスキーまで登場します。


ブラックフェイスについて、いろいろという前に、まずはこれを観てほしい。

なぜ彼らにとっては、見るも不快な許されざることなのか。関心を持つということ、知るということの大切さが見に沁みます。


あまりにもド直球すぎたのでしょうか…。アカデミー賞ではまさかのスルー。作品賞等に多数ノミネートされている『シェイプ・オブ・ウォーター』や『スリー・ビルボード』は、ファンタジーやバイオレンスなオリジナルの“物語”の中にメッセージを巧みに盛り込み、よりシネマティックに作られている気がしています。

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