見出し画像

企業会計において今後着目するトレンドは?(国内編)

企業会計において今後着目するトレンドを整理しておこうと思います。

まずは国内企業に限定した話をします。直近!といえば、決算発表会でしょう。

1. 決算発表、株主総会がどうなる?

決算日である3月31日を過ぎてからは次の様なプロセスで進みます。

①単体の数字を固める
②連結の数字を固める
③決算短信の作成、公表(4月末から5月上旬)
④計算書類・連結計算書類の作成、承認
⑤株主総会の招集通知作成、発送(6月)
⑥有価証券報告書の作成(5月)*内部統制、財務諸表監査も含む
⑦株主総会(6月中)
⑧有価証券報告書の公表(6月末)

となります。

今は決算短信の作成、公表時期、いわゆる決算発表の時期に当たります。

決算短信とは、適時開示、いわゆる速報値としての会計数値ですね。

この数値が公開されるのがちょうど今ぐらいの時期になります。

ホンダIRカレンダー

こちらはホンダが公開しているIRカレンダーになります。

このように決算発表(適時開示、短信)が、4月-5月の時期(前年度の決算結果)が行われ、株主総会の収集通知が5月中、定期株主総会か6月中に行われることが分かります。

いくつかの企業においては既に公開されています。

たとえば、

ANAの決算短信データ(2020年3月期)はこちらから

https://www.ana.co.jp/group/investors/irdata/summary/

JALの決算短信データ(2020年3月期)はこちらから

https://www.jal.com/ja/investor/library/results_briefing/

取ることが出来ます。

ただし、既に決算短信(決算発表)を延期している企業もあります。

例えば、大手自動車メーカーでは

トヨタ、ホンダ 5月12日(予定通り)

日産:5月28日に延期

マツダ:5月13日(予定通り)

スバル 5月18日(予定通り)

スズキ:5月26日に延期

となっています。決算発表が遅れるということは必然的に株主総会も遅れると考えられおそらく1~2週間遅れでの対応となると思います。

ANAやJALの事例でも分かるように決算発表に当たっては各社今後の見通しも示さなければならないため、この状況下(緊急事態宣言中の自粛期間)で対応するのはかなり困難だったと思います。

ANAやJALが予定通り決算発表した背景には、実質的な業務がストップしており、そうした意味では余力があったことともあるでしょうが、ある程度今後の見通し(たとえかなり悲観的なものであったとしても)を示しておかなければならないという点もあります。

 2020年3月期決算の公表時期に差し掛かった。5月6日までに3月期決算2,406社の11.4%にあたる276社が決算短信を発表した。このうち、次期(2021年3月期)の業績予想を「未定」とした企業は約6割に達した。新型コロナウイルスの終息が見えず、世界規模で影響が拡大し、今期の業績見通しが立たない企業が増えている。
 一方、決算発表を従来予定から延期したのは、上場企業の13.1%にあたる495社。在宅勤務の導入などで期末後の決算処理や監査の現場に、大きな混乱が表面化してきた。

私の印象ですが、かなり多くの企業が予定通り決算発表を行った印象があります。この辺り、どうやってこの状況の中で各社対応したのか?その辺り、是非聞いてみたいですね。


ちなみに・・・有価証券報告書の提出期限については9月末まで延長される旨出されました。

この点について結構スケジュール通り出せるんじゃないの?という気もしてますが、この点については、5月7日付に日本公認会計士協会の会長声明で拙速な決算発表および監査について警鐘を鳴らしています。

当協会は、このような事態に備えて、関係団体及び関係省庁と連携して、6 月末までに行われることが予定されている定時株主総会について、その延期や継続会の開催も含めて、例年とは異なるスケジュールや方法とすることの検討を企業に要請してまいりました。しかしながら、これまでに、定時株主総会の 7 月以降への延期又は継続会の開催を決定した企業は少数にとど
まっています(注3) 。
企業の財務情報開示の適正性を担保するためには、十分な時間を確保して、質の高い監査を行うことが不可欠です。会員・準会員各位には、引き続き、企業決算及び監査に関わる方々の健康と安全を最優先しつつ、財務情報の適正開示という関係法令が確保しようとした実質的な趣旨を没却することのないよう、定時株主総会の延期又は継続会の開催の必要性について、企業経営者及び監査役等と十分に議論をし、適時適切に対処するようお願いします。

つまり、早く会計監査を行ってしまいたい企業側と監査の現場との齟齬がうかがえます。

決算スケジュールを決めるのは企業に選択権があるでしょうから、企業主導で6月に決算報告を行う、といえば、それに対応せざるを得ないかもしれません。しかし、現状において質の高い監査を出来るか?といわれれば、その答えはNOでしょう。

一方で企業側からすれば、早く決算を終えて、次のフェーズに進んでいきたい!という気持ちもあります。この意識の違いが表れています。

2. 会計上の見積りはどうなる?

会計上の数値には様々な見積り(将来の見通しも含む)が必要になります。

いちばん身近な例は、引当金でしょうか?

こちらについては4月24日付で以下の様な記事が出ています。



こちらの留意事項(その4)に記載されていることが記事になったのだと思います。

銀行が引当金を計上する際に、柔軟に(適切に計上しなくてもよい?)すること容認しているような記事になっていますが、本文(留意事項(その4))を読んでいるとそこまでは言及していないことに気が付きます。

新型コロナウイルス感染症の影響については、企業会計基準委員会から2020年4月10日付けで議事概要が公表されており、今後の広がり方や収束時期等も含め、企業自ら一定の仮定を置くことになり、企業が置いた一定の仮定が明らかに不合理である場合を除き、最善の見積りを行った結果として見積もられた金額については、事後的な結果との間に乖離が生じたとしても、「誤謬」にはあたらないものと考えられるということが示されている。監査人は、銀行等金融機関の貸倒引当金の見積りの監査において、上記の企業会計
基準委員会の議事概要を踏まえた「新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その2)」(2020年4月10日公表)を参考として対応することに留意する。また、監査人は、金融機関の採用する貸倒引当金の計上に関する会計方針が、財務諸表利用者の理解に資するように、適正かつ十分に記載されているか検討しなければならない点は4号報告に記載のとおりである。

つまり、計算予測に間違えがあったとしても仕方ないよ、といっているのであって適当に計算しても大丈夫、といっているわけではありません。

一方でこの点についても言及されています。

なお、「新型コロナウイルス感染症の影響拡大を踏まえた事業者の資金繰り支援について」(麻生財務大臣兼金融担当大臣談話(2020 年3月6日))において、「返済猶予等の条件変更した場合の債権の区分など、個別の資産査定を含め、民間金融機関の判断を尊重する方針としていることから、この趣旨も踏まえ、積極的に事業者支援に取り組んで頂くよう要請する」というメッセージが発出されていることや、2020 年4月 20 日に閣議決定された緊急経済対策において、「民間金融機関による迅速かつ柔軟な既往債務の条件変更や新規融資の実施等を要請し、検査・監督の最重点事項として取組状況を報告徴求で確認し、更なる取組を促す。また、返済猶予等の条件変更を行った際の債権の区分など、個別の資産査定における民間金融機関の判断を尊重し、金融検査においてその適切性を否定しないものとする。」とされていることにも留意する。

非常に興味深い記述です。なぜかというと、貸倒引当金は、一般債権、貸倒懸念債権、破産更生債権等などに区分され、その回収可能性に応じて貸倒引当金の設定が行われます。

つまり、こうしたバックアップがある状況においては、ある程度柔軟に判断できる、とも読めます。これは海外での対応においても言及したいところですが、貸倒のリスクを政府が保障する場合、その分を勘案して見積ることができるのではないか、という事です。

現段階においては日本政府はそこまで強い援助策(債務免除)をしていませんが、海外は異なるようです。

これに関連したところで言えば減損や繰延税金資産などの見積りを必要とする資産についての取り扱いも重要になってきますね。

引当金については債務免除などの措置があれば、その分を織り込んで見積ることは可能でしょう。一方で、減損や繰延税金資産などにおいてはそうはいかないでしょう。

日本公認会計士協会が憂慮しているのも引当金の見積りよりは、資産(のれんも含む)の減損や繰延税金資産にあるでしょう。

繰延税金資産では、回収可能性が大きなポイントとなります。繰延税金資産が将来の支払税金を減額する効果があるかどうかが問われるわけです。

繰延税金資産の算定基礎である将来減算一時差異には、それが解消する時に将来の課税所得を減額(マイナス)する効果があります。ただし将来の課税所得がなければ、税金は安くなりません(この辺りはまた追々言及していきましょう)。

簡単に言えば、業績が悪化すれば、その分だけ繰延税金資産の回収可能性の判断を変更する必要がある、という事です。

減損の判定はより困難かもしれません。

減損の有無を判断するためには、将来キャッシュ・フロー(その資産からどの程度のキャッシュが得られそうか?)ということを見積もらなければならないわけですが、その将来のキャッシュフローを見積もることが、おそらくこの状況下では容易ではありません。


3.新型コロナウィルス対応に関する情報開示(クライシス・コミュニケーション)

最後に重要なポイントはコロナ対応に関する情報の開示でしょう。この点については東京証券取引所が以下の様な通知を出しています。

◆2020年3月18日、JPX、東京証券取引所(東証)は、「新型コロナウイルス感染症に関するリスク情報の早期開示のお願い」、「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた対応方針について」を公表した。
◆この中で、新型コロナウイルス感染症の拡大が事業活動・経営成績に与える影響に関する開示について、①決算短信・四半期決算短信の添付資料等における積極的なリスク情報開示、②業績予想における前提条件や修正時の理由等に関する記載の充実を求めている。
◆加えて、上場廃止基準のうち「債務超過」、「意見不表明」、「事業活動の停止」の運用について、特例措置を講じる方針を示している。


例えば、ソニーは以下のようにまとまった開示を行っています。

とはいえ、これはかなり古い情報になります。

今後(緊急事態宣言解除後)は、withコロナ時代における対応をどのように考えているのか?

それが有価証券報告書に盛り込まれると考えられています。

また決算発表においても「わが社はこう対応します!」というメッセージを発していると思われますので、その点にも注目ですね。

トヨタ自動車の豊田社長はかなり強いメッセージを発しています。これは自動車工業4団体としてのメッセージです。


こちらもいいですね。

これからすると、経団連はやや弱いですね。メッセージが・・・。

企業としても団体としても強いメッセージを出すことが必要です。

ただ、強いメッセージだけでは足りません。

起こりうる様々なリスクにどのように対応する備えをしているのか?

それをみんな知りたがっている訳です。

折しも有価証券報告書の記述情報の充実が2020年3月期決算から求められています。

企業のwithコロナ時代での対応力が試されていますね。

4. 浮き彫りになる企業会計(監査)の問題点と企業の対応力

企業会計上、というよりは監査上の問題点も明らかになっています。

適時開示と法定開示においては、適時開示は速報的な情報開示が、法定開示においては会計監査を経て確実な情報開示が、求められている訳です。

法定開示においても、企業は遅い決算発表は望んでいない、ということが明らかになっています。会計監査上対応が憂慮される事態にあっても決算発表スケジュール通りを行うのは、スピード感を持って対応したいという企業側の意識の表れでしょう。

公認会計士の立場からすれば、慎重に監査をしたいにも関わらず、企業側がそこに十分に協力しよう、という姿勢はあまり見られません(決算発表の延期も1~2週間程度の場合が多くあります)。

有価証券報告書の提出時期が9月末まで延長されましたが、実際に主要な上場企業がそこまで延長するとは考えにくいと思われます。

そうなると事後的な決算の修正をどこまで認めるのか?

ということになるかもしれません。

特に減損の有無については、実は2020年3月期時点で減損すべきだった・・という事案が出てくる可能性もあります。

東芝では、減損の認識時期を巡って、監査法人と対立しました。

ただ、簡単ではないのが、法定開示とそれに伴う株主総会は、剰余金の分配まで決めますから、後で間違えでした!と修正されることは許容されれるのか?

という問題があります。

いずれにしても多くの重要な判断を伴うため、企業と公認会計士の対立が私たちの見えないところで生じる(生じている)可能性は否定できないと思います。

こうした企業会計、監査上の問題は多々あるものの、より注視していくべきは、企業のリスク情報かもしれません。

過去の財務内容よりはこれからどう対応するのか(withコロナ時代での対応力)を関係者は重視しているともいえます。

ただ、財務内容とも結びついているところはあると感じています。

トヨタに代表されるように比較的、財務基盤がしっかりしていている企業は余裕をもって今回の対応をしていることがうかがえます。

社長がかなり強いメッセージを発していますね。

実際にトヨタは、BCP(事業継続計画)を綿密に練っていて、今回の事態におけるダメージを最小にすべく動き出していることが伝わってきます。

余裕のない企業ほど対応が後手に回ってしまう傾向にはあるかもしれません。

いずれにしても、企業会計という枠組みにおいて開示される情報(IR情報も含み)は企業の現在地を探るうえで、様々なことを示唆してくれてくれる情報であることは間違いないですね。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?