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吸入薬の種類と使い分け

こんにちは、上西内科副院長の中畑征史です。
今回は気管支喘息の治療薬の中核をなす、吸入薬の種類と使い分けに関してまとめてみました。

吸入薬といっても様々な種類があるのでわかりにくいと思いますが、まずは一番重要な吸入ステロイド薬(ICS)についてです。
もう20年以上前ですが、ICSの登場により喘息患者の死亡や入院率は非常に低下しました。昔の話ではありますが、呼吸器病棟では喘息発作の人のために常に数人分病室が用意されていたこともあったそうです。
僕が医者になった頃には、喘息発作の入院はそこまで多いものではすでになくなっていました。

基本的に喘息発作がひどい時には、内服や点滴のステロイド剤を投与しますが、いわゆる全身投与は長期になると様々な合併症が問題になります。
具体的にはステロイド誘発糖尿病や、骨粗鬆症、胃潰瘍、易感染性、不眠などの精神症状です。そういった長期の合併症を防ぐために開発されたのが、吸入ステロイド剤です。

口から薬を吸入することで気管支表面のみで作用し、体内に吸収されないことで全身副作用を軽減しています。
内服で投与する場合、ステロイド剤はmg単位での投与になりますが、吸入ステロイドは1回投与量自体が少ないμg(1/1000mg)単位になり、そもそもが非常に少ないです。
また、吸入されたステロイドのうち半分くらいは消化管に入っていきますが、それは不活性化されてステロイドとしての作用ができなくなります。
肺から入るもう半分は多少吸収されると言われていますが、量自体は非常に少なくなります。

気管支喘息として、発作が起きて経口ステロイドを使うのと比較すると、吸入ステロイドで「経口ステロイドを使わないで過ごせる」方がかなり副作用としては軽減されるはずです。
逆にほとんど症状がないところまで安定した場合には、吸入薬の減量は常に検討し、少ない副作用をさらに少なくする配慮をしています。(減量しすぎてぶり返さないよう慎重にゆっくりではありますが。)
副作用は少ないものの以前より検討されているものとしては、小児での低身長があるのではないかというものや、下垂体-副腎皮質機能の低下などがあります。

https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJM200010123431502?url_ver=Z39.88-2003&rfr_id=ori:rid:crossref.org&rfr_dat=cr_pub%20%200www.ncbi.nlm.nih.gov

吸入薬のブデソニドを使って、小児から成人になるまででの身長の変化を検討している研究になります。
吸入ブデソニドの長期治療が成人身長に及ぼす影響を調べることを目的として、喘息の小児を対象とした前向きの研究です。
成人身長に達した211例の小児についての報告で、内訳はブデソニドの治療を受けた喘息の患児が142例、吸入コルチコステロイドの治療を一度も受けたことのない喘息の対照患児が18例、残りの51例はブデソニド群の患児の健康な兄弟です。
ブデソニド群の患児は、成人身長に到達するまでに平均で9.2年間のブデソニドの治療を受けており、ブデソニドの平均 1 日投与量は412μg(110~877 μg)でした。
また、ブデソニドの平均累積投与量は1.35g(0.41~3.99g)でした。
成人身長の測定値と目標値の差の平均は、ブデソニド治療患児が+0.3cm、喘息の対照患児が-0.2cm、健康な兄弟が+0.9cmでした。
成人身長は、ブデソニド治療開始前における小児の身長に有意に依存していました。ブデソニドの治療を開始してから 1年目までに成長速度が有意に減速したものの、成長速度の変化と成人身長とのあいだには有意な関連は認められませんでした。
一時的には使用後に鈍化するものの、最終的には変化がなくなるという判断になります。

2020年の吸入ステロイドに関する副作用のレビューですが、感染や、骨関連の副作用、糖尿病や眼の合併症について触れられていますが、ざっくりのまとめると、特に明らかに増えるものはないがデザインや調査人数で断言ができないという内容です。
個人的には吸入ステロイドが大量に世界で使われているので、それではっきりした結果は出ていないことは、個人的には副作用は容認できる範囲と考えます。

さて、吸入ステロイドの副作用についてある程度解説した後ですが、吸入薬の使い分けに関する話です。
ここからはエビデンスというよりは、個人の私見になることをご容赦ください。

吸入ステロイドの剤形に関しては、基本的にはドライパウダーという粉を自分の力で吸い込む製剤(DPI)と、ボタンを押すことで噴射されるものを吸い込むpMDI製剤があります。
DPI製剤としては、代表的なものとしてはエリプタというデバイスを使うアニュイティ、レルベア、テリルジーと、タービュヘイラーを使用するシムビコート、パルミコートがあります。またpMDIとしては、フルティフォームや、ビレーズトリ、オルベスコなどがあります。

基本的には、「しっかり吸える力があるか」と「タイミングを合わせることができるか」がポイントです。
DPIは、自分のタイミングで思い切り吸えばいいので吸う力があればしっかり吸えます。pMDI製剤は吸うタイミングが合わないとうまく吸入できませんが、それを補うスペーサーという補助具もあります。
DPIは若い女性などで吸う力が弱目の人にはやや難があるのと、粉での喉の違和感やカスレはやや多くなるのが欠点です。
逆にpMDIはエタノールが含有されているものもあり、それが刺激になる方もいます。

それ以外には、レルベアなどのエリプタ製剤は1日1回で良いというメリットがあります。他の製剤は吸入回数が多いので、その煩雑さは吸入アドヒラランスを下げることになりかねません。
これも逆ですが、たまに1日1回製剤だと、どうしても調子悪くなる時間があると言われる方もいらっしゃり、その場合も増量よりも1日2回製剤に切り替えて改善することがあります。

吸入自体の相性に関してはやってみないとわからないことも多い部分でもあり、吸入開始後も改善に乏しい方には吸入の増量よりまずは剤形の変更などをトライしていくことが多いです。
また、妊娠合併喘息に関しては、基本的にはパルミコートのエビデンスが一番強く頻用されています。
喘息のICSの胎児に関する有害な報告はほぼなく、むしろ治療中断して喘息発作が起こることで胎児の低酸素負荷から流産や発育不全が増えるとされています。
吸入ステロイドと併用するLABAに関してはICSほどはっきりした安全性は確立しておりませんが、無理矢理減らして喘息発作が出る方が有害という考えが呼吸器内科医の中では一般的です。

いずれにしても、本人の年齢やADL、体格や合併症、その他色々な条件を加味して、なるべくその人に合わせた治療を今後もしていきたいと考えております。

愛知県小牧市
糖尿病・甲状腺 上西内科
副院長 中畑征史

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