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今月書いた短編を振り返る
今月、4作の短編小説を書き、noteに投稿した。
4月も今日、というかもうすぐで終わる。
連休で時間的に余裕があるため、今月に投稿した4作の短編小説を書いた経緯や、作者である自分なりの解釈みたいなものを、忘れない内にここに書いておこうと思う。
タイトルの通り、自分の作品の振り返りだ。
1作目、『空想少女と風のリアリスト』
構想自体はおよそ1年前からあった作品。
内容があまりにもナンセンス過ぎるかと思い、これまで文章に起こすのを躊躇っていた。
ストーリーをざっと説明すると、公立図書館で借りた本を返却しに行く少女が、風の精霊である『風のリアリスト』と邂逅するという内容。
風のリアリストはありとあらゆる突拍子もないことを言って、少女を困らせる。
タイトルの『空想少女』、一見主人公である少女にはどこにも空想の要素がないと思われるかもしれない。
しかしこの作品に登場する風のリアリスト、彼は実在してはおらず、少女の空想上の存在なのだ。
つまり、少女は作中で常に空想に耽っているということになる。
だから少女は『空想少女』なのである。
風のリアリストとは、少女の所謂イマジナリーフレンド的な存在に該当するだろう。
風に乗って気まぐれに現れ、風に乗って気まぐれに消えていく。それが風のリアリストだ。
当初は、この作品にはまだ続きがあった。
少女は図書館で本を返却し終えた後、近くのコーヒーショップに寄り、昼食を摂る。
少女はコンビーフサンドとアイスコーヒーを注文するのだが、いつの間にかコンビーフサンドが戦車に変化していた、という内容を考えていた(本当に荒唐無稽でナンセンスだと思う)。
しかしその内容は今の情勢的に配慮が足りないだろうと考え直し、省くことにした。
短いストーリーになって、結果的に良かったんじゃないかと思っている。
2作目、『逆回転寿司の逆襲』
言葉遊びから生まれた作品。
回転寿司を主題にした作品を書きたいと考えるものの、当然通常の回転寿司では面白くない。
そこで、『逆回転寿司』にしたらどうだろうと考えた。
寿司が載せられるベルトコンベアが回転するのではなく、客席が回転するのだ。
そのシステムを採用したのが、逆回転寿司である。
僕は基本的に平穏で安寧なストーリーは書かない傾向にあるので、作中で逆回転寿司が通常通り営業することはない。というか、させない。
だから、何らかのトラブルが起こることは免れない。
飲食店におけるトラブルで代表的なものと言ったら、やはり無銭飲食だろう。
自然と、逆回転寿司で客による無銭飲食が多発しているという設定が思い浮かんだ。
逆回転寿司の店主であるコオリヤマは、とある突飛な方法で無銭飲食の常習犯に『逆襲』をする。
逆回転寿司の、逆襲だ。
個人的には薄ら寒いジョークから思いついたような作品なので、あまり大した思い入れはない。
3作目、『部活終わりの銭湯』
先月の春休み中、『サマータイムマシンブルース』という日本の青春SF映画を観た。
その映画の冒頭では大学生である主人公たちが、行きつけの銭湯に通うシーンが描かれている。
多分そのシーンにインスパイアされて、銭湯にまつわる作品を書きたいと思ったのだろう。
この作品には、卓球部員である三人の男子高校生が登場する。
『僕』と筒井と石持の三人だ。
卓球部員という設定は、松本大洋による『ピンポン』という卓球がテーマのスポ根漫画から影響を受けている。
僕が唯一ハマったスポ根漫画で、アニメ、実写映画共に、全て好きな稀有な作品だ。
鎌倉が舞台で、江ノ電が日常的に登場するのも個人的に気に入っている。
僕の卓球に関する微々たる知識は、全てこの作品から仕入れたと言っても過言ではない。
以上の経緯から、登場人物は卓球部員の高校生、舞台は行きつけの銭湯という設定がまず最初に決まった。
次はストーリーだ。
銭湯で男子高校生が3人が、普通に湯船に浸かるという内容は書いても意味がない。
普通なら、絶対に有り得ないはずの状況を設定したい。
銭湯で絶対に有り得ないはずの状況とはなんだろう。
男湯に女がいること。あるいは、女湯に男がいることではないだろうか。
今作の登場人物は男なので、舞台は男湯。
なので、男湯に女がいるという非現実的な状況を採用した。
しかしその女は生きている人間ではなく、幽霊。髪の長い裸の女の幽霊だ。
登場人物の一人、筒井だけにその存在が視認できる。
どうして昔ながらの銭湯に女の幽霊が-それも男湯-にいたのか、それは作中で明らかになっていない。
作者である僕自身も、その非常識な設定を思いついただけで、無責任にもその理由や原因は全く考えていない。
ただ、個人的にはホラー寄りのミステリー作品に仕上がったと考えていて、我ながら結構気に入っている作品。
通い慣れたはずの銭湯にもう通えなくなったというオチも、虚無的で面白いんじゃないかと思う。
因みにサムネイルの銭湯の絵は、東京の神楽坂にある『熱海湯』を描いたもの。
歴史を感じさせる建築物と、比較的新しいコインランドリーの一体化が、なかなかユニークな外観になっていると思う。
最後、4作目、『ドーナツショップ』
僕自身ドーナツが好きで、以前からドーナツショップを舞台にした作品を書きたいと考えていた。
ドーナツショップを舞台に描くとするなら、登場するのは10代の若い女の子、女子高生が相応しいだろうと考え、自然と2人の女子高生が織りなす会話が中心の作品になった。
ガールズ・イン・ドーナツショップ。
時間は放課後の夕方に設定した。
当初、ドーナツショップは実在のドーナツチェーン、『ミスタードーナツ』や『クリスピー・クリーム・ドーナツ』を作中に使うのは憚れるので、架空の店名にしようかと考えていた。
例えば、『ミスタードーナツ』をもじって、『ミセスドーナツ』とか。
『ダンキンドーナツ』をもじって、『ドンキードーナツ』とか。
ただ以前Twitterに、サンフランシスコにある『ゴールデンドーナツ』という店名のドーナツショップの絵を挙げていたのを思い出した。
それをそのまま今作のサムネイルに流用することにし、必然的に作中のドーナツショップの店名は、『ゴールデンドーナツ』に決まった。
奇しくも今作は、ゴールデンウィークの前日に投稿することになったのだが、これは全くの偶然である。
しかしその偶然性を気に入ったのか、『ゴールデン』という言葉に無意識に引っ張られたのか、
作中には『金魚』が登場することになった。
行き当たりばったりでストーリーを書き進めていく中で、何の前触れもなく『金魚』という存在がパッと頭に浮かんだのだ。
多分、いやかなり高い確率で、『ゴールデン』という言葉に引っ張られのだろう。
この作品を書いたのが金曜日だったなら、それはもう決定的だったと思う。
この『ドーナツショップ』という作品では、金魚が重要なキーとなっている。
主人公たち、沙也香と莉奈のクラスでは教室で金魚を飼っているのだが、今月の頭、水槽から一匹の金魚が消えている事件が発生していた。
『金魚消失事件』だ。
ピクサー映画の『ファイティング・ニモ』のように、金魚が自らの力で水槽から逃げ出したとは考えにくい。
誰かが金魚を水槽から逃したのだ。
やがて沙也香と莉奈の2人はとある理由から、クラスメイトであり、クラス委員であり、バレー部の副部長である中谷さんが犯人であると想定する。
真面目で優等生、責任感が強く、クラスのまとめ役でもある中谷さんであるが、2人は何の根拠もなく彼女が犯人であると決めつけた訳ではない。
放課後の教室で、中谷さんが水槽から金魚を出してそれを食べる様子を、莉奈は教室の外から目撃していたのだ。
莉奈は沙也香とは違い、語り手ではないので、彼女自身が本当のことを証言しているかどうか、読書は断定できない。
しかし語り手であり主人公である沙也香は、親友の嘘は見抜ける自信があるし、莉奈は本当のことを言っていると信じている。
作者である僕自身も、金魚消失事件の犯人は中谷京子であると明確に設定している。
因みに中谷さんという名前は、週刊少年ジャンプで以前連載されていた漫画、『SKET DANCE』に登場(?)する『A組の中谷さん』から拝借した。
この『A組の中谷』さんであるが、作中で度々ヒメコというヒロインのキャラクターから語られるのだが、彼女が本格的に登場することは最後までなかった。
『A組の中谷さん』を主題にした回が描かれたのにも関わらず、彼女の顔が明らかになることは決してないのだ。
個人的に『A組の中谷さん』は、『SKET DANCE』における最大の謎だと思っている。
話を『ドーナツショップ』の方に戻そう。
沙也香と莉奈の2人は、これから学校に戻って、中谷さんに話を聞きに行こうと決意する。
ゴールデンドーナツを後にして、学校までの道のりを駆け出すところで、物語は幕を閉じる。
つまり、彼女たちが中谷さんに会いに行く場面は描いていないのだ。
この作品における『中谷さん』も、登場人物によって語られるだけで、実際には登場していない。
敢えて彼女を登場させないことによって、中谷さんというキャラクターをミステリアスな存在として描く効果を演出している、とそれっぽく言ってみる。
せっかくなので、ここで作中で描かれなかった、その先のストーリー展開を大まかに想像してみようと思う。
『ドーナツショップ』の続きだ。
①沙也香と莉奈の2人は、体育館でバレー部の練習中の中谷さんを、こっそりと外に呼び出す。
②中谷さんに金魚消失事件のことをそれとなく尋ねると、彼女は犯行を認め、自供する。その目には涙が溢れている。
③沙也香と莉奈は中谷さんにある提案をする。街(千葉市内)のホームセンターに行って、そこで金魚を2匹買おう。買った金魚を、こっそりと教室の水槽の中に放すのだ。
先生やクラスメイトなど、中谷さんがやったことは誰にも言わない。彼女たち3人だけの秘密。つまり、沙也香と莉奈も共犯の意識を持つことに。
④中谷さんはその提案を受け入れる。泣きながら、2人に感謝する。
中谷さんの部活終わり、辺りは真っ暗。3人は近所のホームセンターに向かい、そこで金魚を2匹購入する。
翌日、早朝。誰もいない教室で、3人は水槽の中に2匹の金魚を入れてやる。これで一件落着。
クラスでは、消えたはずの2匹の金魚が突然帰ってきた訳だから、更なる混乱に包まれることに。
⑤その後、沙也香、莉奈、中谷さんの3人は深い友情を結ぶ。
これから教室から金魚が消えることは、きっとないだろう。多分。
以上が、描かれなかったその後の内容だ。
この作品、『ドーナツショップ』は書き始めた当初、2人の女子高生が放課後に駅前のドーナツショップでただ会話するだけ、という内容しか思い浮かばなかった。
なので、最終的に友情やミステリーの要素を描くことができて良かったと思っている。
今回、自分の作品に対する自分なりの考えとか解釈とかをそれなりに文章に起こせて、意外な発見とか再認識とかを自分なりに得られたんじゃないだろうか。
所詮は、文庫本に掲載されているあとがきの、自己満足バージョンだろうけど。
自分の作品の振り返りは、気が向いたら月末にまたやるかもしれない。
あとがきを書くのって、結構面白いんだなあ。
最後に1つだけ。
アメリカのドーナツチェーン、ダンキンドーナツが日本から完全に撤退したことは、この国で起きた悲劇の1つに数えられるんじゃないだろうか。
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