消費者政策の新展開を読み解く~「消費者法制度のパラダイムシフト」~【全6/7】
ここまで、5回にわたって消費者庁の報告書(「消費者法の現状を検証し将来の在り方を考える有識者懇談会における議論の整理 」)を見てきました。ここまでお付き合いいただいた方、ありがとうございます!
今回は、この報告書の問題意識を引き継いで、新たに昨年12月27日から議論を開始した消費者委員会の「消費者法制度のパラダイムシフトに関する専門調査会」について、見ていこうと思います。
そもそも「消費者委員会」とは?
専門調査会以前に、消費者委員会って何?消費者庁とは違うの?というところをまずは確認しましょう。
上記の通りですが、消費者委員会は消費者庁を含む各省庁から独立をして、消費者問題についての調査や審議を行う機関になります。事務局は内閣府に設置されています。詳しくはこちらの内閣府のホームページを参照ください。
「消費者法制度のパラダイムシフトに関する専門調査会」のミッション
この専門調査会の設置・運営規程によると、「超高齢化やデジタル化の進展等消費者を取り巻く取引環境の変化に対応するため、消費者の脆弱性への対策を基軸とし、生活者としての消費者が関わる取引を幅広く規律する消費者法制度のパラダイムシフトについて、委員会の求めに応じて、調査審議」をするとされています(強調は筆者)。
消費者庁の報告書、あるいはここまでの記事を読んでいただいた方にはすぐにわかると思いますが、報告書で示された課題をそのまま引き受けたようなテーマ設定になっています。
専門調査会のスケジュール
年の瀬迫った2023年12月27日に第1回会合が開かれていますが、その後、ほぼ月1回のペースで会議が開かれています。
第1回会合で提出された「今後の進め方(案)」によると、今年(2024年)の夏から秋にかけて中間的な整理を行い、さらに1年ほどかけて、来年(2025年)夏ごろにとりまとめを行う予定とのことです。「パラダイムシフト」を銘打つだけあり、丁寧に議論を進めていく方針であることが見て取れます。大まかな議論のテーマなどもあわせて示されていますので、ぜひリンク先の資料もご覧ください。
これまでの議論の内容
第1回では、消費者庁から報告書の内容を含む課題提起(「消費者取引の環境変化を踏まえた消費者法制の見直しについて(消費者庁提出資料)」)がされ、先に紹介した「今後の進め方」なども議論されました。
第2回以降は、委員や有識者からのヒアリングが続いています。1つ1つ取り上げるとキリがないのですが、各委員・有識者のプレゼンタイトルだけでも大変興味深いです。
「EU消費者法の展開と展望」【資料2】 カライスコスアントニオス教授提出資料(PDF形式:381KB)
「アメリカ消費者法:現代化の諸相」【資料3】 川和功子教授提出資料(PDF形式:1596KB)
「AIの開発・利活用の現状及び今後 欧米(特にEU)におけるAI政策の我が国への影響」【資料1】 中川裕志氏提出資料(PDF形式:3656KB)
「消費者法の位置付けと変容」【資料2】 大屋雄裕委員提出資料(PDF形式:1262KB)
「個人データ取引の規律を基礎づけるいくつかの視点について」【資料1】 髙秀成准教授提出資料(PDF形式:557KB)
「消費者取引と情報法」【資料2】 石井夏生利委員提出資料(PDF形式:3386KB)
「独禁法・競争政策と消費者」【資料1】 滝澤紗矢子教授提出資料(PDF形式:2232KB)
「<アテンションエコノミー×AI>と消費者の自律的な意思決定」【資料2】 山本龍彦委員提出資料(PDF形式:1210KB)
「経済学からみた「情報と交渉力の格差」および消費者保護政策」【資料1】 室岡健志委員提出資料(PDF形式:376KB)
「消費者の「脆弱性」に関する諸問題」【資料2】 黒川博文准教授提出資料(PDF形式:419KB)
「厚生経済学と消費者保護パラダイムシフト専門調査会」【資料3】 宮城島要教授提出資料(PDF形式:311KB)
1つ1つ読み解くのもかなりの労力、知的体力が要求される面は否めないものの、「パラダイムシフト」が看板倒れでないことが伝わってきます。(経済学を学んできた人間としては、特に第6回がアツいなという気持ちです)
こうしたプレゼンを軸にした会合が続いているので、中間とりまとめでどのような論点が示されるのか、など調査会全体としての方向感はまだ伺い知ることができません。時間を見つけてそれぞれの資料、論点を勉強しつつ、今後の議論を追っていきたいと思っています。
まとめにかえて
消費者法制について、これだけ大きな議論がなされているのですが、残念ながらあまり話題になっていないように感じます。かくいう私も、たまたま内閣府の更新情報をウォッチしていて、「パラダイムシフト」という強烈なタイトルに目を引かれて追いかけ始めたのが実情です。
静かな環境で丁寧に議論が進む、というのもこうした議論では大事なのかもしれませんが、多くの消費者・生活者(国民)、(主に消費者向けサービスを提供する)事業者に関係する議論ですので、もう少し注目されてもよいのではないか、というのが率直な感想です。
いや、知ってるよ、むしろ何でわざわざこんなnote書いてるの?なんてツッコミがはいることを期待してます。結論に近づいたころに慌てて各所が騒ぎ出す…みたいなことになると本当にもったいないので、そうならないように、こうした細々とした発信も含めて、勝手に注目・応援していこうと思います。
いかにも最終回っぽいまとめになってしまいましたが、まだ続きますので、よろしければ引き続きお付き合いください。(続く)
<このシリーズの過去記事>