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クリス君が辞めてしまった。さて、我が社はいくら損したんだろ?


「大変だ。会社がいくら損したのかを計算しよう!」
ブラックなボスである私、nobuさんはすぐにそう考える。

「従業員を大切にしない会社はだめですよ」と言う声があちこちから聞こえる。そのとおり、認めます。でも、計算くらいさせてくださいな。

「クリス君は我が社のプランニングを担うホープだ」と鳴り物入りで(僕の頭の中では)入社してきた。でも入社して、3カ月と1日で辞めた。昨日一緒にランチしたのに・・・。一週間前にビーチで、彼の奥さんも参加したBBQで盛り上がったのに・・・。辞めた。

香港で会社を始めた最初の頃は、スタッフがこんなふうに短期間で退社すると、おろおろしたし、己のマネジメント能力の無さのせいだと落ち込んだものだった。けれど、香港ではそれが日常的だと気づくまでにそう長くはかからなかった。

正直に言うと、3カ月ならまだ良い方だ。これまでに入社一週間以内で退社したスタッフも、実は5人いる。辞める方も、辞められる方も、周囲も、実にあっさりしたものだ。

さて、香港でも多くの企業が人材紹介会社に採用活動の多くを頼っている。人材紹介はこうした環境にあって通常、「ある人材が3カ月以内に退社するか、契約解除となった場合、代わりの人材を一カ月間に限って見つかるまで紹介する」ことになっている。

3カ月以内の退社であっても、1カ月以内に首尾よく代わりを見つけることは簡単じゃない。決定までに3回面接するならば、1カ月間に会えるのはせいぜい3人ぐらいだろう。お、いい人だな、と思ってもサラリー(給料)は前任者と同じかどうか。前任のサラリーを超えれば紹介料の額ももちろん上がる。

紹介料は、会社にもよって多少の差はあるけれど、若手人材の場合なら年収の17%から20%となっている。我がクリス君は27歳、月収が日本円に換算すると約30万円だった。年収はボーナスを上乗せするので(ダブルペイ。旧正月の一月にもうひと月分上乗せするもの)30万×12+30万=390万円。その20%の約80万円が紹介料となる。

クリス君にかかった総額はこうなる。

①3ヶ月と1日分の給料

クリス君には30万円x3カ月プラス1日なので(プラス1日は年収から加重でやはり1万円くらい)91万円。こんな言い方をして申し訳ないけれど、3カ月ではようやく慣れた程度だから、まぁ、丸損と言っていいと思う。

②人材紹介会社に支払う紹介料

3カ月を超えたので全額を支払う。390万円の20%だから。78万円也!!い

クリス君はもちろん3カ月、彼の時間を会社に捧げてくれた訳だけれど、会社側から見ると、ほぼ何も残らなかった。つまり91万円+78万円=169万円が3カ月でぶっ飛んでしまったのです。

香港の人材市場を見る時、お互いに合わないと思えば短期間の猶予を持った通告、或いは、その分をお金で払うというだけで雇用関係をちゃらにできる。そこさえきちんと手続きをしていれば、そうそう揉めることはない。

日本は人材に流動性が無いことを、嘆くような意見もあるよね。それはそれでわかる。でも、香港にいてこのドライで、ショート・タームな関係性を見ていると人材の流動性って本当にいいですか?と思う。

大きな会社はいいかもしれない。ビジネスモデルがはっきりしているから、各人の役目も細分化されている。同様に企業のカルチャーもまた、確立されたモデルによって育まれていくことが普通だ。とてもじゃないけど僕ら、中小企業には難しい。30歳までに5社。平均1年少ししか、一つの会社に在籍しないのが香港のリアルです。

つらいよー。まじで(笑)。アジアにおける人材マネジメント。日本もこんな風に人がどんどんどんどん流動していけばいいのか・・・。

でも、そんな環境で23年間、面白いことに僕の会社は、別の素敵な採用のパターンが出来上がってきた。うちを一年やそこらで辞めて、数年間を数社で過ごした、中堅からシニアの元スタッフがまた一緒にやりたいと出戻って来たり、社外パートナーとして互いにエキサイティングな仕事をするようになってきていることだ。お互いに若いときは、パーマメントなベースではうまくいかなかったものが、形を変えて協業できるようになった。

僕は、このことをとてもうれしく思っているし、香港のワイルドな環境下で、してやったりだな、とも思っている。

一方で・・・。それでも、僕は169万円がぶっ飛んだことが、忘れることができない日本人なのでもある・・・。

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