見出し画像

教材を深く読み解く思考法NO3

本号が、教材を深く読み解く思考法の最終号となります。本号では「人間の本質から教材を読み解く思考法」について私なりの見解を述べていきます。

3 人間の本質から教材解釈を深める

人間には、強さや弱さ、楽しさと悲しさ、信頼と裏切りといった表と裏の感情があります。
もっというと、欲望や嫉妬、正義や差別など根深い部分も存在します。
そして、このような人間の本質は無意識に働いていて、大人の私たちでさえ、判断を間違うことがあるのです。
例えば・・・
人は無意識に自分の考えを、周りの人に合わせたり同じような行動を取ったりします。
それを「同調圧力」と言います(心理学的には「集団思考」とも言うそうです)。
このように、無意識に周りに合わせたり、空気を読んで行動したりして人間の本質のまま(無意識)に行動してしまうと、知らず知らずに差別や偏見を生んでしまうのです。

このような無意識に働く人間の本質を意識化することが、本号で主張したいことです。

そのために、まずは教師自身が教材に隠れている人間の本質を解き明かしていかなければなりません。

とはいえ、どのような人間の本質が隠されているのかを見つけるのは容易なことではありません。
そこで、今回は教材でよくみられる3つの人間の本質(無意識に働く)を紹介いたします。
それは、以下の3つです。

⑴人は誰でも自分なりの正義を持っており、それを押し付けようとすると差別や偏見をしてしまう。
⑵人は自分にとって異質な人(考え方・身体・国などが違う)に対して、最初からマイナスのフィルター(バイアス)をかけてしまう。
⑶人は「よりよく生きたい」と願っている。それは、時として行き過ぎた欲望に変化することがある。

このような無意識に働く人間の本質を明確することで、「同調圧力に負けない自分を作ろう」と善に向かうことができるのです。

では、詳しく1つずつ説明します。

(1)正義が差別や偏見を生む

人は誰でも、自分なりの正しさ(正義)を持っています。
ということは・・・
他者の正しさ(正義)と衝突するのは必然です。
例えば・・・
現在、行われている「ウクライナ侵攻問題」で考えてみましょう。
私たちは、「他国を侵攻侵略するなんて、ロシアは最低だ」と思うはずです。
しかし、「ロシアは滅びるべきだ」「ロシアは世界の国から攻撃されても当然だ」と考えるのはどうでしょうか。

そこに正しさ(正義)はあるのでしょうか。

もっとエスカレートすると、「ロシア人は排除すべきだ」「ロシア人は差別しよう」と人種差別にまで発展する可能性も否めません。
そうなってくると、正義とは呼べなくなってきます。

なぜ、このような考え方が生まれるのか。
それは「自分の考え方が正義だと信じる麻痺」が原因だと思うのです。

・・・だからこそ、気づくことが難しい。

では、どうすればいいのでしょう。
答えは簡単です。
「正義が差別や偏見のもとになる」ということを意識化することです。
そのことに、子どもに気づかせることができれば、

「自分の正義は、差別をしてないか」
「自分の正しさで、友達を偏見していないか」


と、自分を見つめ直すことができるのです。

以上の考え方をもとに教材を読むことがポイントです。
「どこに差別や偏見のモトが隠れているか」
「誰の正義が差別や偏見を生んでいるのか」

このように教材を深めていくのです。
そして、隠されている人間の本質を見つけることで、次のようなねらいを設定することができるでしょう。

*関連教材:「どれい解放の父 リンカン」

(2)「知らない」がバイアスを生む。

バイアスとは、「思い込み、深く信じこむこと」です。
そして、人は無意識にマイナスのバイアスをかけてしまっていることがあります。
例えば・・・
「中国人観光客はマナーが悪い」
「日本人は欧米に比べて劣っている」

などです。
*全員がそうではないとは思いますが少なからずいるはずです。
このような考え方(バイアス)がなぜいけないのか。
それは、時として「怒り」や「妬み」に変化し正しい判断ができなくなるからです。

なぜ、そのようなバイアスが生まれるのでしょう。

それは、「知らない」ということが一番の要因でしょう。

人は「知らないこと」への拒否反応があります。
それを、心理学的には「自己保存」といい、自分の現状を守りたいという本能が働き、知らないことへは「近づきたくない」「それは間違っている」という考えに陥ってしまうのです。

そのような考え方を変えるためには・・・
相手を「知る」ということが効果的です。
「知る」ことで、自分の経験と重ねて考えられるようになります。
例えば・・・
「外国人」は、私たち日本人とは違う。
という考え方を・・・
外国人も私たちと同じように、「守るべき家族がいる」「守るべき生活がある」「大切にしている文化がある」「喜怒哀楽の感情がある」ということを知ることで、
私たちが礼儀を大切にするように、他国ではコミュニケーションを大切にしているんだ」と身近に引き寄せて考えることができるのです。

以上の考え方を、先ほどと同じように教材に当てはめて考えていきます。
「教材のどこにバイアスが掛かっているのか」
「誰のバイアスで起こった問題なのか」

このように教材を深めていき、隠されている人間の本質を見つけていきます。
そして、見つけることができたら次のようにねらいを設定することができるでしょう。

*関連教材:「ペルーが泣いている」「ブランコ乗りとピエロ」

(3)行き過ぎた欲望への変化

3つの人間の本質については、実は最初の「教材を読み解く思考法」に記載されています。
*「金色の魚」を活用した思考法を参照して頂けると幸いです。

以上が、「人間の本質から教材を深める思考法」です。
今回は、字幅の関係上3つの観点から述べてきましたが、人間の本質から起こる問題は数多く存在します。
そのため、全て述べることは難しいです。
それよりも本号で述べたいことは、人間の本質から教材を深めることで無意識を意識化することです。

このような視点を持ち教材を読み深め、よりよい授業実践を行っていただければ幸いです。

今回で、「教材を深く読み解く思考法シリーズ」は最終号となりました。

次号では、「発問研究のポイント」について、私の考えを述べていきます。
*私のnoteでは、2週間に一度、「道徳科授業づくり」について書かせて頂いております。興味のある方はフォローをして頂けると幸いです。よろしくお願いします。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?