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[読書] ONE MISSION

この本はアメリカ軍(特殊部隊)の組織についての本。軍の話なので読む人によっては嫌悪感を感じるかもしれない。
しかし、組織論・戦略論は軍由来のものも多いのも事実(ランチェスター戦略など)。
気にならなければ読んでみる価値がある。

複雑な問題に適応できる組織とは?

アメリカ軍の変革はアフガニスタンとイラクでの21世紀の新しいタイプの敵への苦戦から始まった。
彼らは簡易爆破装置でアメリカ軍を攻撃し、その様子を携帯電話で動画撮影し、プロパガンダのためのインターネットチャットルームで投稿した。
彼らにとって共感できるストーリーを持ち、自主的になんども形を変えアメリカ軍に立ち向かった。
従来の階層型の中央集権型組織では変化に対応できなかった。現場から提供された情報を中央で分析している間に、現地での状況はすでに変わってしまうからだ。

変化する柔軟な敵には、同じく柔軟に適応できる組織であることが大切だ。これは軍事だけではなく今日のビジネスで重要。
複雑な問題に対応するには、自立性を持ち分散型意思決定する組織モデルが必要となる。

分散型意思決定の組織モデルが成功するには、それぞれの小さなチームとチームが自主性を持ち、意思決定しながら連携する必要がある。それを可能にするには、チームとチームが、そして組織のメンバー全員が共感できるストーリーが必要だ。

アメリカ軍では「信頼の元に連携する」というストーリー(ONE MISSION)が作られた。これは

信頼 = 実証された能力 + 誠実さ + 人間関係

というシンプルな方程式からはじまる。アメリカ軍では「実証された能力」「誠実さ」はもともと持ってた。欠けていたのは「人間関係」だ。他チームや協力パートナーとの「人間関係」を構築し、「信頼」のもとに小規模チームや組織が互いに結びつくことを説いた。これはあらゆる場で繰り返し説明された。

組織の形

官僚制組織

組織図を書くと多くの組織はトーナメント表のような形になる。企業なら 社長 → 部長(複数) → マネージャー・係長(複数) → 担当 のようなものだ。トップダウンに適している反面、官僚的になりルールと秩序が個人より優先される。個人の生産方法のばらつきを抑えることで生産性を上げてきたが、組織から個人や人間性を奪ってしまう。そして縦割構造はチーム間の連携も阻害してしまう。縦割り構造のため他のチームと協力体制が築けないケースがある。

ネットワーク組織

個人が共通のストーリーの元に自由に仲間を作り絶えず形を変えて行動する組織だ。例えば2010年代にSNSでのつながりを元に自由化運動を展開した中東諸国の運動のようなもの。SNSにビデオや主張を拡散し、仲間を増やし、官僚制組織を持つ政府に対抗した。ネットワーク組織は過去においてはそれほど多くの力を持つことができなかったが、インターネットやスマートフォンが規模を大きくした。中央集約的な管理が全くないため組織を運営することに適さないという欠点がある。

ハイブリッド組織

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官僚制の組織体系を秩序を維持しつつ、ネットワーク組織のストーリーによる協力の利点を取り入れた組織。チームの中には上長でなくとも、他のチームのメンバーと人間関係を築いている「ハブ」や「インフルエンサー」と呼ばれる影響力の大きい人間がいる。そういったインフォーマルな人間関係を従来の階層型組織を維持したまま作ることで適応力のあるハイブリッド組織を作り上げた。

(図    実線: 階層型組織  破線: ネットワーク型組織 ○: ネットワーク組織におけるハブ  )

そうしてチームとチームの連携がとれるようにした上で、権限委譲を行い現場での適応力を高めた。

協力のストーリーを浸透させるために、インターネットを活用した数千人単位の90分のフォーラム(Web会議)を繰り返し実施した。つまらないパワーポイントのプレゼンをきくのではなく、オープンな情報交換と議論を展開した。階級は尊重されるが提案することは妨げられない。

そうして、アメリカ軍のチームとチームは自主的に連携し、権限を与えられ、複雑な問題に適応できる組織へと生まれ変わった。

権限委譲と連携

各チームが権限委譲され、自主性を持つほどにチーム間の連携は難しくなる。それらを解決するには2つのポイントがある。

1.共有意識創出と意思決定権分配とのバランス

共有意識がないと意思決定がバラバラになる。しかし、意思決定が遅いと迅速に行動されなくなる

各チームの共有意識を持つ時期と、各チームへ権限委譲をして意思決定してもらう時期のリズムが大切になる。外部が変化し新たな問題を生む速さと、自分たちの組織がその変化にどれだけの速さで適応する必要があるかによってリズムを決める必要がある。

変化が起こったタイミングで共有意識を持つ場を持ち議論する。その結果をチームに持ち帰り、チームに与えられた権限で意思決定を行う。組織のオーガナイザーはバランスを保つように努める必要がある。

2.権限委譲の範囲 躊躇と逸脱、制約

権限委譲には同時に制約が必要になる。なぜなら自由すぎる権限は迷いを呼び、迷いは躊躇を呼ぶ。情報と権限を持つ人間が自分の責任をおろそかにすれば、組織はかならず失敗する。

また、権限委譲は時に逸脱を呼ぶ。逸脱は今も昔もトラブルメーカーと言われる。しかし、ポジティブな逸脱は歓迎しなければいけない。「逸脱していても機能するなら、それは逸脱ではない」。官僚制はポジティブな逸脱を排除または罰するようにつくられている。しかし最も適応力の高いリーダーとして重視し、報いようとしなければならない

ただし、制約「絶対に守らなければならないルール」は必要。絶対に守らなければいけないルールがあれば、逸脱はポジティブな逸脱に収まることができる(ことが多い)。また、どこまでしていいか分からなければ意思決定者は萎縮する。

まとめ

ネットワーク型組織はアメリカ軍のみならず、いろいろなビジネスのシーンで活用されている。日本でもIT企業などで活用されているのではないだろうか?

数千単位のフォーラムは多くの企業で採用しているSlackやMicrosoftTeamsによる共有となり、ポジティブな逸脱はメルカリでいうところの「Go Bold 大胆にやろう」になる。

また、各メンバーの仕事はより複雑に、専門的になり上長がすべて把握するのは不可能になっている。専門的な知識をもつメンバーは他のチームへ影響を与え、組織を超えた専門的な知識をもったメンバーの集まりが会社の複雑な問題に適応してゆく。

極限のリアリズムの中で生まれたハイブリッド組織の考え方は、変化する組織に適応できない人も、積極的に組織を変えてゆこうという人も参考にできる本だと思う。


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