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読書_会計の世界史

社会人になると業種にかぎらず会計と関わることになる。
仕事の結果としてもP/L、B/Sはもちろん、日々の業務も予算を達成ことが目標になる。
経営戦略の一端を担うようになれば事業計画、予算作成も行うことになるだろうし、公認会計士への説明資料作成も大切な業務になる。
しかし、これだけ世間一般の中で会計が重要なのに、会計についての教育が十分だと思えない。
少し前に読んだ、「コンサル一年目が学ぶこと」では、社会人1年目で、会計まわりの知識が皆無でひたすら独学で勉強したとあった。
そして、会計を学ぶときの思うのが「なんで、こんな面倒なことをやるのだろうか?」という疑問だ。
本書はその疑問に答えてくれる良書だ。学生か社会人数年目の人の必読本にすればいいと思う。

会計の歴史に関しての本は以前にも読んだことがある。

まだnoteに書いていないけど「帳簿の歴史」という名著もある。

それら2冊も良書だけど、今回の「会計の世界史」も負けず劣らず良書だし、分かりやすさと守備範囲の広さでいえば一番いいかもしれない。

会計の歴史は簡単にいうと、「出資者にいかにフェアに利益を分配するか?」という歴史になる。

まずは15世紀に地中海貿易を牛耳るヴェネツィアなどの海洋都市国家で複式簿記が使われるようになる。一回の航海にて親族を中心としたの出資者に利益を分配するためだ。

やがてフィレンツェのような内陸の都市国家でも使われるようになる。出資者は親族から都市国家内の有力者(仲間)に広がり、継続的な事業の利益分配になることで複雑になった。また、メディチ銀行など銀行業がさかんになった。ヨーロッパ各都市にうまれた支店銀行の業績は帳簿により管理された。

都市国家から国家へ権力構造が変わると、国を挙げての経済力推進が必要になる。そんな時にうまれたのがオランダの「東インド会社」。ヴェネツィアが親族、フィレンツェが仲間から資金を募ったのに対し、東インド会社は部外者から株という手段で資金を募った。しかもその株は売買可能だ。株式会社と証券取引所の誕生だ。しかし、同時に粉飾決算の誕生でもあった。
経営状況が正しく分からないと出資者が損をするという状態が生まれたのである。

次は鉄道の時代。鉄道は初期投資が非常にかかる業種だ。そこで生まれたのが減価償却という考え方。長年使うものは、購入した年に全額費用計上するのではなく、毎年すこしづつ費用計上するというルールだ。現金におけるお金の流れと、会計における収益、費用の流れが異なることを意味します。これにより「現金主義」から「発生主義」へと会計が変わりP/LとB/Sがの体系が整いました。しかしわかりにくい「発生主義」は粉飾決算が横行します。例えば減価償却費の割合を変化させて利益がでているように見せたりしていました。その結果、利益が出ているのに倒産する「黒字倒産」のようなことも発生し、出資者である株主が損をすることが度々発生しました。

次の舞台はアメリカ。広大な国土を持つアメリカの鉄道建設は莫大な資金が必要でした。しかし、経営状態が分からないのでは出資者は安心して投資できません。そんな中で役割が増したのが「公認会計士」。
かれらが企業の経営状態を監査することにより、会社の経営状態が健全かチェックするようにすることで、出資者がフェアに出資できるようにしました。

本書で一番面白い、ケネディ大統領の父「ジョー・ケネディ」の話になります。
ケネディ家はアイルランドのカソリック教の一家が、じゃがいも不作によりアメリカへ入植しました。ケネディ大統領の4世代前の話です。初代はコレラは若くして無くなりましたが、2世はアイルランド社会で成功し政治家にまでなります。そして息子の3世目の「ジョー・ケネディ」をハーバード大に送り込むことに成功します。
「ジョー・ケネディ」は父親の薦めで銀行監査官に就任し、B/S、経営分析、信用評価を学びます。そして銀行監査官の業務を通じて企業の裏情報を仕入れます。

インサイダー取引が良心の問題とされていた時代。会計上の知識と、裏情報をもった「ジョー・ケネディ」はインサイダー取引で莫大な富をうみます。また仲間と株を共同購入し株価を吊り上げ、一般投資家が集まった段階で高値で売りさばく手口を多様していました。さらに禁酒法の時代には酒の密輸で莫大な利益をあげました。
そして世界大恐慌の時には空売りで莫大な利益をあげます。
「儲けるのは簡単だ。取り締まる法律ができる前にそれをやればいい」というのが「ジョー・ケネディ」の生き方でした。
そして大統領選では「ルーズベルト」に肩入れし、彼を当選させます。
しかし困ったのはルーズベルト大統領。大悪党として名はせた「ジョー・ケネディ」に容易に重要なポジションを渡せません。
そこでまさかのポジションを「ジョー・ケネディ」に与えます。

それは「初代SEC(証券取引委員会)長官」。ルーズベルトは「泥棒を捕まるには、泥棒が一番なんだ」と腹をくくります。

世界大恐慌から立ちなるためにニューディール政策を実行していきますが、金融・証券取引改革は重要でした。
「ジョー・ケネディ」はSEC長官の役割をうまく勤めました。インサイダー取引、株価操作の禁止、そして投資家保護のためのディスクロージャー制度。「ジョー・ケネディ」の関心は金儲けから名誉の確保に代わっていたのでしょう。息子を大統領にするという野望のために。
「ジョー・ケネディ」の活躍もありアメリカのSECは重要な役割を果たし、アメリカは最も優れた会計基準と監査基準を持つ国と言われるようになりました。アメリカはビジネスが強く起業家が生まれやすい国と言われますが、上記と無縁ではありません。

「ジョー・ケネディ」の息子、ジョン・F・ケネディは見事に大統領に就任します。しかし、その後のケネディ家の不幸は歴史が知る通り、ジョン・F・ケネディは暗殺され、大統領を目指した弟のロバート・ケネディも凶弾に倒れます。
そして、ジョー・ケネディは1969年に静かに息を引き取ります。

僕は長年、ケネディ兄弟が社会的弱者に手を差し伸べ続けた理由が分かりませんでしたが、ようやく理解できました。かれらもひいおじいちゃんの時代は貧しいアイルランド系移民という社会的弱者だったのです。そしてプロテスタント系が強いアメリカ社会の中でカソリック系でした。

本書は、国際会計基準、連結決算、管理会計、「原価 vs 時価」の話につながりますが、ここまでとします。

非常に良書でしたので、ぜひ読んでみてください。



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