童話「たぬきの親子ときつねの親子」


 むかしむかし、あるところに、おじいさんとおばあさんがいました。毎日、おじいさんは山仕事に、おばあさんは畑仕事に行きました。
 あるときおじいさんが山に行くと、そこにはこだぬきがいました。こだぬきはおじいさんを見ると、すぐににげてしまいました。おじいさんはこだぬきがひとりぼっちなことが気にかかり、こっそり後をつけてみました。するとこだぬきは、やぶの中でこぎつねと話をしていました。
「こぎつねやい、こぎつねやい。なにか食いもんをわけてくれねかい。ひもじくてたまらねが」
 こぎつねは答えました。
「そげなこと言ったって、おらだってかつかつだが。そうさなあ、きれいな反物とならかえっこしてもいいよ。反物ならおらのおっかさんが喜ぶすけ」
 そういえばここのところ、夏になっても暑くならず、冬になっても寒くならず、作物がうまく育ちません。おじいさんは帰ったらおばあさんに相談しようと思いました。

 一方、おばあさんは畑に行きました。おばあさんはだいこんやにんじんを育てています。ですが近ごろは、夏になっても暑くならず、冬になっても寒くならず、作物がうまく育ちません。おじいさんとおばあさんはひもじい思いをしているのでした。
 そこに一ぴきのきつねが現れました。りっぱな金色の毛をもつ親ぎつねです。親ぎつねはおばあさんを見ると、ふいとにげてしまいました。おばあさんは畑をあらしにきたのかと思いましたが、きつねがやせていて、またひとりぼっちなことが気にかかり、こっそり後をつけてみました。
 すると畑の道具を入れる小屋のうしろで、親ぎつねと親だぬきとが話をしていました。
「たぬきさん、たぬきさん、近ごろ食いもんが少ねすけ、どうにもひもじいがだ。ちょっと分けてくらっしゃい」
 親だぬきは答えました。
「そげなこと言ったってねえ。おらかて、食いもんが足りなくて、自分が食うぶんを全部こどもにやっているがだ」
 親だぬきはりっぱな銅色の毛をもっていますが、やはりやせているように見えます。
「どうだね。きれいな反物とならかえっこしてもいいよ。こどもに冬着をこさえたいすけ」
 おばあさんはむかしの苦労を思い出し、むねをうたれました。おばあさんは帰ったらおじいさんに相談しようと思いました。

 その日の夜、おじいさんは山で聞いた話を、おばあさんは畑で聞いた話を、おたがいに聞かせてやりました。そしてふたりは顔を見あわせてにっこりしました。冬のあいだ、雪がふって畑仕事ができないおばあさんは、反物を織ってくらしているのでした。おじいさんは自分たちのためにとってあった反物の半分を町で売り、食べものに変えました。おばあさんはもう半分の反物を四着の小さい冬着に仕立てました。
 そうして次の日、おじいさんは山へ、おばあさんは畑へ行きました。おじいさんはやぶの中に、おばあさんは小屋のうしろに、食べものと冬着とを置きました。たぬきもきつねも、見あたりませんでした。ふたりが仕事を終えて帰るとき、もう一度見てみると、置いたものはなくなっていました。かわりにたぬきときつねの足あとがありました。

 それからふたりのもとに小判がとどくこともなく、米だわらがとどくこともありませんでした。おじいさんとおばあさんは、晴れた日は「たぬきのおんがえしだて。これで作物がよく育つろう」と言い、雨の日は「きつねのおんがえしだて。これで作物がよく育つろう」と言ってくらしました。冬になり、雪が降りはじめると、「たぬきときつねのおんがえしだて。これで作物があまくなるろう」と言いました。実際、ひさしぶりの大雪だったのです。
 ある日、おじいさんがいろりの前で縄をない、おばあさんがくるみのからをわっていると、家の前でなにかが走り回る音がします。おじいさんがまどを開けてみると、そこにはたぬきの親子と、きつねの親子がいました。それぞれ、そろいの冬着を着て雪遊びをしているのでした。
 おばあさんがむいたくるみを投げてやると、たぬきもきつねもじっとおばあさんを見るだけでした。ですが、ふたりがまどを少しだけ開けてのぞき続けていると、たぬきときつねがくるみを食べているのがわかりました。
「やあおじいさん、たぬきときつねが頭をさげて、あいさつしてるように見えねえかね」
「なに言ってるがだ。自分で食いもんを投げておいて」
 ふたりは笑いました。春になって雪がとければ、山からすきとおったきれいな水が流れてくることでしょう。それは作物を育てる栄養をたっぷりふくんでいるのでした。

おわり /2018.06.16

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あとがき

 朝目覚めたとき、頭の中に音楽が流れていることってありますよね。それと同じように、朝目覚めたとき頭の中にあり、無性に書きたくなって書いた創作童話です。


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