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映画のコト〜思い出の映画について〜

映画館に一人で行けるようになったのは、大人になってからである。
それまで、映画に行くなら恋人や家族、友だちと行くことがほとんどだった。
しかし、友だちと行った記憶は数える程度しかなく、私は母親と見るか恋人と見るかのどちらかだった。
母と私は読書や映画の趣味が比較的似ており、何かの折に出かけたらついでに上映時間を調べて一緒に映画を観たり、お互いに本を貸し借りする仲だ。

恋人と映画に行くこともあるが、どちらかと言うとそれも多い方ではない。
映画館で観るよりは、レンタルで観ることの方が多かった。
学生時代は映画よりも他のことにお金を使っていたからだろう。
(使途不明金多数)

そんな私が初めて一人で映画を観に行き、初めてなのにいきなり2本観ると言う無謀な計画を成し遂げた。
1本観終わったら30分後には別の映画を観る。
これはこれで効率的でなかなか良い!と当時一人で変な達成感を覚えた記憶がある。
しかし、2本目に観た映画はしょうもなかったのか、記憶にあまり残っていない。

そして私の中での映画の思い出と言えば、ある映画館での話だ。
既にその映画館はなくなってしまった。
思い出の場所がなくなってしまったのは非常に残念ではあるが、記憶はまだ鮮明である。

その映画館は所謂流行りの大きな映画館ではない。
椅子が動いたり風が吹いたり香りがしてきたりなんて一切しない。
ただ、その分スクリーンに近いし、周りとの距離感も近いように思われた。
ふかふかの椅子ではないけれど、色とりどりの椅子がかわいくって、入った瞬間の高揚感は今までに感じたことのないものだった。
そんな映画館に、恋人と行ったのだ。

普段の彼はあまりはしゃぐことはない。
大騒ぎするタイプでもなく、自己主張するタイプでもない。
ただ、映画や音楽、他にもいろんなことに興味を持ち、それぞれに理解が深く、いろんな話を聞く時間が何よりも好きなのだ。
その日観た映画は、私は初めて観る監督の映画だった。
彼の好きな監督である。

映画の最中、彼は静かに泣いていた。
彼が泣いているのはそれまで見たことがなかった。
それどころか、彼が泣いたのは後にも先にもこの時だけだったかもしれない。
そしてそっと手を握ってくれた。
それが嬉しくて、その後の映画に集中するのはなかなか大変だった。

映画の後は、お互いの感想を思うままに語り合った。
どれくらいの時間そうしていただろう。
時間も忘れ、コーヒーを飲み、ケーキを食べた。
レアチーズケーキ。
私は感情のままにその映画のブルーレイボックスの予約までした。
そして後日届いて、また彼と映画の感想を語り合った。

映画館はなくなってしまったけれど、今でもあの色とりどりの椅子を思い出すことができるし、いつまでも話していたいと思ったあの喫茶店の風景は、今でも容易に思い出すことができる。
コーヒーにケーキセット。
エスプレッソのお砂糖をじゃりじゃり言いながら食べていた彼。
今でも忘れられない景色がたくさんある。
あの時のブルーレイボックスも、大切な宝物だ。
私の大切な思い出である。

映画館の思い出というよりも、喫茶店の思い出のようになってしまったのは、気のせいだと言うことにしておこう。

#映画館の思い出


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