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真夜中の電話

その人とは、二回しか会っていない。
でも、その二回が、結構私の性的な冒険の引き金になったと思っている。

一回目は、夜、駅前の駐輪所で。
女子高の夏服は、もう切り替えの時期で
秋の風を感じていたのを覚えている。

「あの、すみません。電話番号教えてもらっていいですか?」

茶髪で、少し年上の印象だった。
当時、大好きだった彼氏とうまく行ってなくて、距離を感じていた私は、すぐに番号を教えた。街中で声をかけられるのも、初めてだったので、少し嬉しかったのだと思う。

夏服の季節はあっという間に過ぎていく。
しばらくして、姉の結婚式があり、北東北まで出掛けていった。
豪華絢爛な結婚式の真ん中で、姉はとても美しく、輝いていた。
父は、やはり、閉鎖病棟に入ったままだった。
姉は、二次会で、「旦那さんのどこが好きになったの?」という質問に
堂々と、彼のお股に手を当てて、にこにこと笑っていた。びっくりした。

そんな真っ直ぐに自分の直感に従って幸せを選んでいく姿が、眩しかった。

家族はもう一泊するとのことで、受験の控えていた私は、
一人で新幹線に乗り、地元に帰ってきていた。

姉が取られてしまった寂しさと
本当のことを話せない辛さ、もどかしさ
家族って何?
幸せって何?
わからなくて、夜中はぼんやりとしていた。
網戸の向こうから、夜風が流れ込んでくる。
もう眠りかけたような時間に、PHSが振動する。

倉木麻衣のSecret of My heartが単調に鳴り響く。

知らない電話番号で、少し危機感を感じながらも、取ってしまった。
魔が差す、とは、このことだな、と感じながら。

「はい。」

「あ、もしもし。こないだ自転車置き場で会った◯◯だけど」

家には誰もいない、高校三年生の夏、夜中の11:30。

なぜか、彼に会いに、出掛けてしまった。

彼は、近所のスーパーの駐車場に車を停めて待っていた。
その…車がまたすごくて。
なんせ光という光が青く改造されていた。

やばいところに来ちゃったな…
近所なのだから、黙って引き返せば良いのだけれど
姉の「一抜けた!」で幸せになった姿を受け入れられなくて
何かその世界に突進していってしまったのだ。

何がどうなって、そうなったのかは、すでに覚えてないけれど
明け方の川沿いの道で朝を迎えた
その時の景色だけははっきりと覚えている。

その人は
「あいちゃん、僕と付き合おう」
と申し出てくれたけれど
それは流石に
「またエッチなことしたいんだな…」と感じて拒絶してしまった。

その本質はわからない。
きっと、彼の世界に、当時の私のような存在はいなかったのだろうし
からだの部分だけじゃなくて、こころや魂も感じたものがあったのかもしれない。

それでも、私には、大好きな彼がいたので
(遠距離恋愛中だった)
謹んでお断りしたのだ。

彼と付き合おうが、付き合わまいが、
その影響が甚大であった事は明白だった。

勉強に身が入らなくなってしまった。
だって、ただでさえ、打ち明けられない葛藤をいくつも抱えていたのに
もう一つ、重大な秘密を抱えてしまったのだから。

そんな時に、話せる相手が
いたら、どんなにか救われただろうなと思う。

私にとっては
誰にも打ち明けられないという経験をすることが必要だったし
自分に自信を持つ、その方法を性的なことに見出すという
迷路に迷い込むことが、必要だったんだ。


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