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『響け!ユーフォニアム 誓いのフィナーレ』 ひたすら面白い映画に会いたくて 〜87本目〜

 「上手くない」。この言葉が真面目に頑張っている人に向けられたとき、どうなるのか。本作では高校生になってから吹奏楽部に入部し、楽器の練習を始めた初心者たちにスポットライトが当てられる。オーディションに受からなければ、コンクールに出場することさえ叶わない。それは、初心者にとって厳しくも乗り越えなければならない壁である。彼らは小さい頃や中学から練習してきた経験者に実力で勝てるとは思っていない。だけど、コンクール出場を諦めているはずもない。毎日腐ることなく一生懸命上手くなるために自分と向き合い続けている。そんな本作の「上手くない」先輩たちの戦いに目が離せない。「頑張ることに意味はあるのか?」。その答えがここにある。

『響け!ユーフォニアム 誓いのフィナーレ』(2019)

脚本 : 花田十輝 / 監督: 石原立也

                  「上手くない先輩」

物語の概要

 2年生になり先輩となった「黄前久美子(黒沢ともよ)」が、過去の自分と少し似ている後輩のユーフォニアム奏者「久石奏(雨宮天)」を成長させていく物語をメインに描いている。久美子は1年生のときに、「高坂麗奈(安済知佳)」や「あすか先輩(寿美菜子)」という本気で音楽と向き合う人たちと関わり合う中で、自身も真剣に音楽と向き合えるまでに成長した。今度は自分が後輩の背中を押してあげる番。先輩として成長した久美子の姿が輝く1作であった。

本作の魅力

 今年の北宇治高校吹奏楽部の目標は、「全国大会で金賞を取ること」。新入生歓迎会での吹奏楽部の演奏から始まり、「サンフェス」「あがた祭り」「オーディション」「夏合宿」「コンクール」といった北宇治高校吹奏楽部1年間の活動の全てが詰まった完全新作は、最高の出来で観客を迎えてくれる。鑑賞後の余韻が尋常じゃなかった。感想がすぐには思い浮かんでこなかったことをよく覚えている。

 本作はテレビシリーズなら13話のところを2時間ちょっとで駆け抜ける。時間こそ短いが、その分情報量がものすごく多い作品に仕上がっており、一度観ただけでは消化しきれない見所たっぷりの作品となっているのである。本当に密度の濃すぎる素晴らしい作品であったなあ。

 自分には来年もコンクールに出場するチャンスはあるが、3年生の先輩にとっては今年で最後のコンクール。実力は自分のほうがその先輩よりも上だけど、先輩に出場してほしい。本作の久石奏のように悩んでしまう人も多いかもしれない。私も中学や高校の時に同じような場面に出会ってきたから奏の気持ちはよくわかる。印象的なのは、奏がオーディションの際に、わざと下手に演奏したことであろう。先輩に花を持たせてやりたいという気持ちが強いのはわかるが、それはフェアじゃない。

 「全国大会金賞」が部の目標であるので、最高のメンバーで演奏するのが、その先輩も含めて心残りのない選択なのではないか。上手い人がオーディションに受かってコンクールで演奏するのが1番いい。実力不足でオーディションに落ちるのであれば、それはそれで諦めもつく。毎日腐ることなく一生懸命上手くなるために自分と向き合い続けてきた人たちは、結果がどうなろうと受け入れる覚悟ができている。だから、後輩であっても余計なことを考えず、ただ目の前のことに全力で取り組んでいけばいい。本作にこのような大切なことを教えてもらった。

 そして何よりも『リズと青い鳥』を鑑賞してから、本作を観に行って大正解であった。劇中のコンクールでの「リズと青い鳥」の演奏に心が震えた。本作で初めて「リズと青い鳥」の演奏をフルで体験できるのである。何が一番感動を誘ったか。それはもちろん、のぞみのフルートの演奏が、みぞれのオーボエソロに合わせるまで完成されていたことである。このシーンにはグッときたものだ。『リズと青い鳥』を鑑賞した人ならば、涙が自然と流れてしまうに違いない。感動の涙が止まらなかった。

1番好きな場面

 久美子と奏がお互い本音をぶつけ合うシーンが1番好きだ。奏は久美子に「頑張ることに意味はない」とこぼす。それに対して久美子は次のように自身の思いを奏に語る。「ユーフォを上手くなりたい。将来のこととか考えていないけど、上手くなりたい思いで毎日頑張る。それは無駄なことじゃない。意味があることだし、そこには何かある。がむしゃらに頑張った先にはきっと何かあるはずだよ」と。この久美子の考え方、私は大好きである。

 このシーンを見たとき、1期の12話で久美子が「上手くなりたい!」と涙を流しながら夜の京都を走っていたシーンが鮮明によみがえってきて、胸が熱くなったものだ。久美子にあすか先輩の姿が重なって見える。久美子もあすか先輩に負けないぐらい素敵な先輩に成長したのだなと感慨深くなってしまった。

 久美子は中学生のとき、真剣にユーフォに取り組んでこなかったこともあり、コンクールで負けても本当の悔しさの意味を理解できないでいた。だが、本気で悔しがる麗奈と出会い、彼女と仲良くなっていくうちに、自らも毎日一生懸命ユーフォに向き合っていく。そして、高校1年生のときのコンクールで初めて本当の悔しさを全身で感じることができた。今度はこの「頑張ることの意義」を後輩に自分が伝える番である。奏にその久美子の思いが伝わったことがまた感動的であった。

 「部活動に一生懸命打ち込む意味ってなに?」そんな今まであまり考えたことのなかったことを真剣に考えさせてくれる本作は、とても魅力的な作品であった。

最後に

 頑張ることに意味がある。自分は何のために頑張るのか。その答えが純粋であればあるほど力を発揮する。そんな久美子の姿にすっかり心を打たれてしまった。大人になったいま本作を観ると、あの頃に残してきた大切な忘れ物を思い出させてくれる。今まで本作シリーズを見てきて良かった。この作品から得た学びは数多い。映画は人生に彩りを与えてくれるとよくいうが、本当だ。鑑賞後に自分も「もっと頑張ろう」そんなポジティブな気持ちが溢れ出てくる。本当に素晴らしい作品であったなあ。

 さて、次はいよいよ3年生になった久美子たちの物語。どんな物語を私たちに見せてくれるのか。「久美子3年生編」がとっても待ち遠しいばかりだ。

(【YouTube】KyoaniChannel 『響け!ユーフォニアム』特別告知 久美子3年生編制作決定PV)

予告編

『響け!ユーフォニアム 誓いのフィナーレ』(2019) の予告編です。

(【YouTube】KyoaniChannel 『劇場版 響け!ユーフォニアム〜誓いのフィナーレ〜 本予告)

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