寝ても覚めてもマンガの虫 ~服部昇大『邦画プレゼン女子高生 邦キチ!映子さん』~ (下)

服部昇大『邦画プレゼン女子高生 邦キチ!映子さん』集英社

物語の概要

登場人物:小谷洋一「映画について語る若人の部」創設者
     邦吉映子「邦キチ」趣味は映画観賞
     東洋洋(トンヤンヤン) 「東洋电影(アジア映画)研究部」代表

 小谷洋一は映画の話を誰かとしたい!もうしたくてしたくてたまらない。そんな17歳の高校生だ。しかし、進学校に通っており、周りの友だちは受験と闘う日々で映画鑑賞する余裕を持ち合わせていない。なので、なかなか映画を語り合えない日々を送っていた。

 そんな洋一の前に、念願の新入部員が訪れる。「好きな映画は、実写版『魔女の宅急便』」という斜め上をいく邦画好きな女の子が現れたのであった。洋一はこの日を境に邦キチによる「邦画プレゼン」地獄の沼にはまってしまう。がんばれ、洋一。今日も負けずに邦キチのプレゼンにツッコミを入れまくっておくれ!

13本目:「KING OF PRISM-PRIDE the HERO-」

 今回のテーマは、「応援上映」。邦キチが語ってくれる作品は、『キンプリ』の続編である『キンプラ』だ。『キンプリ』はロングヒットして、応援上映ブームを世に広めた作品と解説してくれる。『キンプリ』ってそんなにもすごい作品だったのだな。全くそんなこと知らなかったので、勉強になった。ただのイケメンアニメではないのか。

 でもやっぱり男性一人で応援上映に乗り込むのはかなり場違いの作品であるに違いない。なぜ、お前がそこにいるのだ?と厳しい視線を突き付けられる可能性が高いように思える。観に行く勇気が湧いてこない。内容的にも邦キチの話を聞く限りでは、相当ぶっ飛んでいる作品なのかもしれない。興味本位で1度は観てみたいとは思う。映画館ではなく、レンタルで。

(出典 : 【YouTube】avex pictures 劇場版「KING OF PRISM-PRIDE the HERO-」劇場予告)

14本目:『ドラゴンボール EVOLUTION』

 今回のテーマは、「ドラゴンボールとは?」である。ついにきたか、実写版『ドラゴンボール』の話が。小さい頃に1度観たような気もするが全く内容を覚えていない。しかし、当時小学生の間でもかなり酷評が飛び交っていたことだけは記憶にある。今となっては、そんな酷評の映画をわざわざ時間を取って観るのは時間のムダではないかと思っていた。

 だけど、この話に出会ったおかげで、ここまで伝説級のダメ映画だと理解し、これは観ておいた方が後々どこかで役に立つのではないか。ちょっと観てみようかな。そんなことを思うようになってきた。実写版『ドラゴンボール』を観て、真剣に感想を書いてみたいものである。

 どんなにダメだと言われている作品であっても、自分が観ていないままその良し悪しを語るのはマナー違反だ。まずは自分の目で確かめてみる必要がある。それから、その作品の良し悪しを判断すればいい。

 部長の「ドラゴンボールは義務教育だぞ!?」という発言には不覚にも笑ってしまった。通過儀礼といってもよいかもしれない。

   全く『ドラゴンボール』していないハリウッド版『ドラゴンボール』。1度勇気を出してチャレンジしてみよう。Gokuが、ハイスクールの冴えないいじめられっ子という設定からして完全に『ドラゴンボール』する気が感じられない。こういう作品は、ツッコミを入れながら観るのがよいのかもしれない。

(出典 : 【YouTube】20th Century Fox Dragonball : Evolution | Trailer | 20th Century FOX)

描きおろし:『デビルマン』

 今回のテーマは、「邦キチの相手ができるのは洋一だけ」。1巻の最後を飾るのは実写版『デビルマン』だ。「え、そんなの作られていたの?」という感じである。この邦キチは実写版『○○○』がちょっと好きすぎやしないか。異常なほどに実写版にこだわる彼女には、誰も勝てるものはいない。彼女のプレゼン圧に屈して作品に手を出してしまいかねない。

 「シネマサロン部」に勧誘される邦キチ。この描きおろしでまさかの洋一のハリボテ映画通さがばれてしまう。洋一はアメコミ馬鹿であったか。たしかに、アイアンマンとか、バッドマンとかばかり話していた印象しかないな。残念だが、部長にとっては冷酷な現実である。邦キチは、マイナー邦画愛好家として有名になっていたんだな。果たして、この通り名は嬉しいものなのか。

 実写版『デビルマン』ってそんなに製作費かかっていたの!?という衝撃を受けてしまった。10億円かけて興行収入が5億円というのは、いかがなものかと。実写映画の失敗作をことごとくプレゼンする邦キチのブレなさには尊敬できる。酷評されている作品って、確かに見方を変えれば、「奇跡」を表現できるのかもしれない。

 評価の良い作品ばかり観るのではなくて、たまには評価があまり芳しくない作品を観ることもどこかで役に立つはずだ。そう思って本作で紹介されていた作品をいくつか観ていこうかな。話題作りにも最適かもしれない。

 一応、部長洋一と邦キチの2人の間に少女漫画の雰囲気を出しているのかな?という終わり方であった。本作に「恋」というものは似合わないはずなので、今後もそういう展開は期待しないが、なんか最後にはこの2人がくっついて終わって欲しいなと思っている。

最後に

 作者のあとがきも面白い。仕事中に観るものがないので映画でも流しておこうかと閃いて、「有名な面白すぎる作品だと、つい観てしまって仕事がはかどらない」という事で、「なんか、そこそこ絶妙な、そこまで有名でも無名でもない作品」ばかり大量に観るようになったらしいのだ。もうこの時点で面白い考え方である。

 マニアックな映画の「ヤバさ」を上手く料理し、自身の作品に落とし込んだ作者のアイデアは素晴らしい。ニッチなとこをよくぞこれほどまでにも大胆に攻めていったものである。「ヤバい映画」を魅力たっぷりにプレゼンする作者の能力はかなり高い。私も見習いたいものだ。かなり面白い映画を題材にした漫画であった。少女漫画だからといって敬遠してしまうと非常にもったいない。

 まずは1話を読んでみてから、続きを読むか、読まないかを決めて欲しい作品だ。本作は、少女漫画の皮を被った「超絶マニアック邦画」プレゼン漫画なのである。

 みんながすすんで観たいとは思わないあの映画のことを詳しく邦キチがプレゼンしてくれるのがおすすめだ。これのおかげで、これらの映画を観なくても、本作で仕入れた知識を用いれば、マニアックな邦画も恐くない。酷評映画の中身を学べる時間短縮漫画として捉えることもできるだろう。今までに出会ったことのないジャンルの漫画であった。

 リリー・フランキーの映画エッセイ『日本のみなさんさようなら』に少し似ているなと感じた。あの本ももう一度読み返してみようかな。本作からは、どんな映画にも意味がある!ということを教えてもらえた。SEASON2もぜひ読みたい。邦キチと共に「邦画の海」へと出かけようではないか。邦画をもっとエンジョイするぞ!

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