寝ても覚めてもマンガの虫 ~服部昇大『邦画プレゼン女子高生 邦キチ!映子さん』~ (上)

 かなりオススメの1作だ。映画好き以外にもぜひ手に取って、とりあえず1話を読んでもらいたい。特に「邦画なんて観ないよ」という人には、おすすめである。もちろん、邦画好きの人も大歓迎だ。しかしその場合、本作に登場する映画をあなたは何本見たことがあるかという「邦画好き」の真価が問われることになるだろう。ちなみに私は15本中2作だけ観ていた。0作だときっとあなたはまともな「邦画通」である。

 アジア映画を除くと、13本中何本観ているかという基準になってくる。それでも私が観たのは、2本であった。修行がまだまだ足りないなと感じさせられる。全部観ている人には素直に賞賛の拍手を送りたい。まさに修行のようなラインアップがあなたを待っている。「Season2」、「Season3」と続編も発売しているので、たっぷりと「マニアック邦画プレゼン」を浴びることができるのもおすすめのポイントの一つだ。

服部昇大『邦画プレゼン女子高生 邦キチ!映子さん』集英社

物語の概要

登場人物:小谷洋一「映画について語る若人の部」創設者
     邦吉映子「邦キチ」趣味は映画観賞
     東洋洋(トンヤンヤン) 「東洋电影(アジア映画)研究部」代表

 小谷洋一は映画の話を誰かとしたい!もうしたくてしたくてたまらない。そんな17歳の高校生だ。しかし、進学校に通っており、周りの友だちは受験と闘う日々で映画鑑賞する余裕を持ち合わせていない。なので、なかなか映画を語り合えない日々を送っていた。

 そんな洋一の前に、念願の新入部員が訪れる。「好きな映画は、実写版『魔女の宅急便』」という斜め上をいく邦画好きな女の子が現れたのであった。洋一はこの日を境に邦キチによる「邦画プレゼン」地獄の沼にはまってしまう。がんばれ、洋一。今日も負けずに邦キチのプレゼンにツッコミを入れまくっておくれ!

1本目:『魔女の宅急便』

 1本目のテーマは、「邦吉映子の好きな映画」である。監督が『呪怨』の清水崇だったとは全く知らなかった。ホラー要素を少しでも入れているのかチェックしてみたくなるなあ。というか、原作者はよく実写版のOKを出してくれたな。児童文学×ホラー映画監督ってこの組み合わせ自体面白すぎる。
 
 また、主演が小芝風花だと知り、観てもいいかなという気持ちが一気に高まった。私は『トクサツガガガ』を観てすっかり彼女のファンになっていたようだ。昔の小芝風花を観ることができるだけでも価値があるかもしれないな。私はぜひとも実写版『魔女の宅急便』を観て感想を書いてみたい。

 少女漫画の絵柄が新鮮である。映画をプレゼンするマンガを少女漫画でするという発想がすごい!本作のような一般受けしていないような邦画の魅力を面白可笑しくプレゼンしてくれるマンガは今までなかった。着眼点からまず面白い。1話目から完全に笑いのツボにはまってしまった。実写版『魔女の宅急便』を観たくなってしまうぐらいに面白かったのだ。1話から本作の世界に引き込まれてしまったよ。

(出典 : 【YouTube】シネマトゥデイ 映画『魔女の宅急便』予告編)

2本目:『DOG×POLICE純白の絆』

 今回のテーマは「バディムービー」HOT FUZZ vs DOG×POLICEである。いきなり『HOT FUZZ』紹介から始まるのがいい。この映画は私も大好きだよ、洋一くん。洋画通だから「洋一」なのかな。あだ名は「洋キチ」でいいんじゃないか。洋キチ×邦キチのコンビがお送りする人気映画プレゼンvsマニアック映画プレゼン大会かな。作者はかなり映画を観ている人なのだろうか。

 今回は『HOT FUZZ』に対して、『DOG×POLICE純白の絆』が邦キチから洋一にプレゼンされる。「サイモン・ペッグ×ニック・フロスト」に対して、「市原隼人×犬」。もうこの比較から可笑しすぎて笑ってしまう。やっぱり、邦キチが1番好きなシーンを話すのはいいな。しっかりと自分の意見を持っているということがよくわかる。プレゼン的にはかなり優秀な方なのではないか。

 熱い市原隼人が理想だというのは、ものすごく共感できる。彼には熱い演技を期待してしまう。そして邦キチの好きなシーンが細かすぎてイチイチ笑わずにはいられない。2本目は完全に「市原隼人」回であった。一般受けしているようには見えないマニアックな映画でも、面白さはどこかに転がっているはずだ!という姿勢が邦子のプレゼンからビシバシ伝わってくる。

 本作はかなり攻めた作品な気がしてきた。面白い映画についてそれを語るという形のマンガはこれまでに読んできたことがあったが、本作のように一般受けしていない映画、特に邦画をこんなにも熱く語る作品が今まであっただろうか。初めて出会った。どんな作品であっても、伝える人が面白いと思ったならば、その作品は魅力的に思えるものなのかもしれない。

 本作に関しては、一般受けしない作品たちを熱く語る女の子を用いて、上手くディスりギャグを穏やかなものにしている。これならば、読んでいても不快になることはない。素晴らしい作品である。どんな作品に対しても、リスペクトの気持ちを忘れない。そんな大事な心構えを本作から教えられたな。

 お気に入りの1作に早くもなってしまった。駄作と叩かれている作品も、一度この目で確かめてみるのもいいかもしれないな。そんなことを本作から学ぶことができた。

3本目:『電人ザボーガー』

 今回のテーマは、「ロボットもの」。 アイアンマンvs電人ザボーガーだ。洋一はアイアンマンが好き。アイアンマンを契機に映画ファンになったとか。ことごとく邦キチのおすすめする映画は観たことのない作品ばかりでめちゃくちゃ面白い。作者はどれだけマニアックな路線を開拓しているんだろうか。このニッチな感じがたまらなくいいね。これは人気が出るよな。マニアックなことは武器になるね、ほんと。しかもプレゼンされる映画を観てみたいかと言われるとそうでもないのが絶妙なところだ。この辺りが本作の特徴と言えるのかもしれないな。

 絶妙に微妙なラインナップで攻めてくる映画紹介マンガである。ギャグマンガというジャンルに間違いなく分類される作品だ。かなり笑ってしまうので。何を真面目に熱く語っているのだ!と腹を抱えて笑ってしまうぞ。邦キチのプレゼン能力の高さも面白いポイントであろう。この映画、ホントに初めて聞いたよ。間違いなく本作を読んでいなかったら、この作品のことを知らずに長い人生を送ることになっていただろう。いや、知ったところで観ることはないのだが。面白かった、今回も安定に。

 何本も邦キチのプレゼンを聞いていたい気持ちになってくる。この作品は中毒性があるんじゃない?

(出典 : 【YouTube】シネマトゥデイ 映画『電人ザボーガー』予告編 (ディレクターズ・カット版) )

4本目:『ゲゲゲの鬼太郎 千年呪い歌』

 今回のテーマは、「音楽映画」。まさか音楽映画の回で、邦キチの一押しとして『ゲゲゲの鬼太郎 千年呪い歌』が登場するとは一体誰が予想できた?ウエンツ主演のあの黒歴史のような作品が再び陽の目を見ることになるとはな。そう考えると、ものすごい作品だな。洋一のウエンツの寸評が面白い。「ロケをあれだけやれるイケメンは貴重だ…」という。

 さりげなくハットリくんの実写版のディスりが入ってきて吹いてしまう。いや、本当にハットリくんにしては大きすぎるよな、香取慎吾は。183cmのハットリくんなんてただの「ハットリさん」じゃないか。

 鬼太郎のチャンチャンコがファーになっているなんて、面白すぎるだろ!ファーのボーダーベスト。なんておしゃれな鬼太郎なんだ。佐野史郎はすごい。最後完全に佐野史郎1人に持っていかれてしまったな。彼の「蛇骨婆」を観るためだけにこの映画を観てもいいかなと思ってしまうほどのインパクトであった。やっぱりプレゼンが上手すぎる。

寝ても覚めてもマンガの虫 ~服部昇大『邦画プレゼン女子高生 邦キチ!映子さん』~ (中) に続く…。

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