「ひたすら面白い映画に会いたくて」48本目『アメリカン・スナイパー』
クリス・カイル。彼は、イラク戦争で4度にわたる従軍を経験し、アメリカ史上最多の160人以上を狙撃した「伝説」のスナイパーだ。国内で「英雄」と呼ばれた彼の物語を、英雄化せずに「1人の人間」として描き切ったことが、本作最大の特徴であろう。
48本目 : 『アメリカン・スナイパー』(2014)
『アメリカン・スナイパー』(2014)
脚本 : ジェイソン・ホール /
監督 : クリント・イーストウッド
「日常に戻れなかった英雄の最期」
本作の魅力
本作を観て「人はこんなにも簡単に命を失ってしまうのか」という戦争の恐ろしさをカイルの仕事ぶりを通して、感じてしまった。
クリス・カイル(ブラッドリー・クーパー)のような「伝説」のスナイパーの手にかかれば、自分が狙われているということもわからないまま即死してしまうのだ。
特に、イラク側に雇われていた元五輪選手の狙撃手ムスタファとカイルの対決は、非常に見応えがある。
この2人の対決には、息をするのも忘れてしまうほど緊張感が漂っており、手に汗握る場面の連続であった。
カイルとムスタファ。この2人のスナイプぶりに、「戦場では狙撃手の存在が、戦局を左右する」ということを思わずにはいられなかった。
このように本作は、戦争におけるスナイパーの重要性が非常によくわかる1作となっている。
私の1番好きな場面
私の1番好きな場面は、次の場面だ。
それは、カイルがムスタファを撃ち抜く、距離約2000mからのスナイプシーン。こんなにも現実離れした狙撃が今までにあったであろうか。
まさに戦場の「救世主」が、「悪魔」的なスナイプを見せてくれたのである。この素晴らしいスナイプには、本当に圧倒させられた。
この距離からは普通、相手の存在をスコープで確認することすら困難である。だが、「伝説」はこの狙撃を見事成し遂げたのだ。
ムスタファとの決着は、カイルが戦争に参加したことによって生まれたある種の「宿命」であった。カイルは、自らの「伝説」にようやく幕を下ろすことができたのである。
最後に
だが、物語はここで終わってはくれない。「英雄」であっても、自身の運命に逆らうことはできなかったのだ。
「戦争にはもう行かない」と固く心に決めて戦地から我が家へと帰ってきたカイルを待っていたのは、「PTSD」であった。
常に死と隣り合わせの世界で生き延びるためには、日常生活では不要の並々ならぬ警戒心や精神力を持ち合わせていなければならない。戦場での経験が増えると、これらの感性が次第に研ぎ澄まされていくのだ。
この戦地で磨かれた感性は、戦場では上手く機能するのだが、普段の生活では不具合を生じてしまう。例えば、いつも何かに怯え、ちょっとしたことで激怒し、暴力が抑えられなくなってしまうのである。
危険な戦場と平和な日常。この二つの世界の差によって生まれるギャップが「PTSD」となって、彼の中に現れてきたのだろう。
このように「戦争」が、日常生活にも支障をきたすほど、カイルの「心」を蝕んでいたのである。
本作は、ただ英雄が活躍するだけの戦争映画ではない。これは「英雄」と呼ばれた1人の人間が、戦争に心を奪われてしまう物語であったのだ。
予告編
↓映画『アメリカン・スナイパー』の予告編です↓
(出典 : 【YouTube】ワーナーブラザース公式チャンネル「映画『アメリカン・スナイパー』予告編【HD】2015年2月21日公開」)