今演劇へ考えている事(②1回辞める直前の事~作家性との出会い~)

どうも、内田啓太です。

コロナ氏が猛威を振るう中、こんな事書いてもなあと思いつつも、一切関係の無い事を今日も書きます。

【前回までのあらすじ】

両親が一番面白かったと言った「JUNAN~私のお父さん~」という私が作・演出した作品は、舞台芸術か否かではなく、エンターテイメントしているか否かしか考えず創った作品だった。それは私が演劇をどうやって始めたのかが、大きく影響していたのだった。

さて、今回は次に訪れる、演劇観への大きな変化を綴って行こうと思います。当時こう思っていたということもあれば、こういうことだったのではないか、という事もありますが、何せ10年以上前の事なのでご容赦下さい。

・・・

私は大学5年生(!)の時、卒業公演をやらせて貰う事になってました。

そこまでの2年間の間、色々な変化が起きてました。

1年下後輩が青年団に入り、代表の平田オリザ氏は勿論、五反田団の前田司郎やままごとの柴幸男、果ては踊る大捜査線の本広監督などと芝居を創ります。そして彼の持ち込んだ「現代口語演劇」というはっきりしたメソッドが上智の中でも、特に彼の後輩にはトレンドになっていきます。フワッとしたメソッドにしか支えられていなかった、その頃の上智の演劇が、はっきり演劇のアイデンティティを自覚し始めた瞬間だったのかもしれません。

私に関しても嫌でもその臭いみたいなものは感じてしまいます。自分のスタイルは変わらないつもりでも、何が起きているのだろうかと勉強はどうしてもしてしまいます。

また、メインは役者なので、役者をやる上でも、もっと他の創り方は出来ないものかと試行錯誤します。それは悪い事ではないのですが、全然上手く行った感覚がありません。当然です。勉強してないから引き出しが少なかったのです。そうすると演劇に関してちょっと勉強します。すると何となく、「くそつまんないものを創ってた先輩方が何をやろうとしていたのか」、つまり「演劇の持つ多様性」みたいな所にちょっと気付いてしまいました。

そんな最中、動画配信サービスが充実を始めます。演劇の過去の名作が、良くも悪くも無料で見られるようになってしましました。

卒業公演の事が頭をよぎる中、大学のパソコンルームで、先人達がどんなものを創っていたのか、というのを観ていた中、私は1本の演劇に出会ってしまいました。

「ふくすけ」 (私が観たのは1997年版)

松尾スズキ作・演出で、当時は日本悲劇綜合協会、今では大人計画で何度も再演されてる名作です。今回のエントリーの為にわざわざ見直すなんて事はしませんが、当時の後味を思い出すと、危険な所に踏み込んで踏み込んで笑いをとって、その笑いの像が全てひっくり返され、笑っていた自分の心の醜さや偽善を白日の下に晒された気分になり、しばらく放心していました。演劇を観て、いや、創作物を観てこんな事になるのは初めての経験でした。思えばこの時、本当の意味で「演劇」と出会ってしまったのかもしれません。演劇ってこんな事が出来るのか、これがライブでやってたのか。その凄さたるや、説得力たるや。その後、クドカン作品も含め、大人計画の作品は何本か見ましたが、兎に角このふくすけみたいな後味の作品が創れないものか、と考えるようになりました。

ふくすけと出会ったのと時同じく、卒業公演の題材を考えていました。前回と全然違うものを創りたいなあというのが第一にあって、恋愛ものとかやっちゃおうかな、とか、SMクラブの話(行った事もないのに!)書こうかな、とか、余り覚えてないですが、その中に「仮面ライダーやったしウルトラマンやろうかな」という超単純な案もありました。超単純ですが、特撮をテーマにした演劇は兎に角きちい。世界観を創り込むのに色んな事をしなきゃいけないし、安っぽくなるリスクもある。卒業公演で取るリスクじゃないな、と思ってました。そんな時に、また出会ってしまうのです。

帰ってきたウルトラマン33話「怪獣使いと少年」

ウルトラマンファンの間では語り草となっている名エピソードにして大問題作です。しかし当時、幸か不幸かこの作品の事を知りませんでした。ウルトラマンより仮面ライダー、ウルトラマンでも詳しいのは初代、セブン、タロウで、イマイチ地味なイメージのある帰ってきたウルトラマンには食指が動いていなかったのです。

正直、当時どうしてこれを観たのかは覚えていません。ただ、この作品にやられたのは間違いありません。子供番組でこれだけの事が出来るのか…何でこんなものを創ったのか…「作家性」というものを強く意識した瞬間でした。多分キツい闘いになるが、そういう事をしなきゃ意味がない。卒業公演だから平和にとか関係ない。ウルトラマンやろう。ウルトラマン×大人計画…うわこれは観た事の無い物が出来るぞ…益々キツそうだけどキツさよりワクワクがやばいな…そして当時、周囲の演劇人に愛想が尽きて(派閥みたいな雰囲気があったり、他の劇団を貶めて自分の所が凄いと呑み屋でくだまいたり、そういう先輩の太鼓持ちしたりするくだらない感じ)、演劇が嫌で嫌で仕方無くなっていたこともこういう作品を創ろうというモチベーションになっていました。

こうして出来た作品が2009年度上智大学演劇研究会卒業公演の

「帰らない」

という作品です。作中の主人公の決断にかけてるのがメインですが、「帰ってきたウルトラマン」をリスペクトしてるのに帰らないとか、また、卒業してから演劇に帰らないとか、上智に帰らないとか、色々掛かってて我ながらいいタイトルだなと思います。

あらすじは以下の通りです。

怪獣が現れる世界で、ウルトラマン的な存在の男、モロボシ・ソラは地球防衛軍の一員として、時に防衛軍の施設を使って盗聴などをしながら楽しい日々を過ごしていた。一方、隊員の一人であるイトウ隊員はSMクラブに通うオジサン、マツノトシゾウに、いつも指名している嬢・ハブ美が宇宙人に攫われたに違いないと捜索を依頼する。そんな中、登山客が帰って来ない山の調査にMDFは向かう。調査中、イトウは女性隊員のホシカワに告白して、フラれる。イトウがホシカワを襲おうとすると、周囲の岩が元は人間である事に気付き、急いで基地に戻る。モロボシは圧倒的体調不良になり、上司に母性に帰るよう言われるが、(不純な意味で)人間の女性が好きになったから帰りたくないと言う。その頃、マツノは独自のルートでハブ美の正体を知る。その事実に心の動揺したマツノは家族の幻覚を見る。その後、人間を岩にする宇宙人、バーロック星人が地球侵略を開始するが、各々が各々の事情で動いてしまう事で、自体は最悪の展開になる。それを間近で見たモロボシは…

という話である。

この話を思い付いた時、全くとんでもない最高傑作が出来るかもしれないと、俺は天才かよと、正直思いました。ウルトラマンの世界観を下地に、SM、人のエゴ、テロリズム、謎の小ネタ連発…こんな話誰も思いつかないぞと、大興奮したもんです。今でも、途中までは最高傑作だなと思ってます。

が、しかし、結果は賛否がバッツリ分かれる、いやむしろ否の方が多かったといえるでしょう。

それは勿論色々な要素が絡み合っているので一概に作家性が邪魔をした、とはいえないのですが、演出論に踏み込むとなるとまた別の話になってしまうので、作家性にフォーカスします(この現場で起きた様々な失敗はまた別の機会があったらするとしましょう)。

主に戯曲の所で否定的だったのは、生々しくなり受け入れる人を選ぶ下ネタや、私の当時の本音ダダ漏れの瞬間がまる見えだった所でした。いわゆる自意識ががっつり見えるということ。登場人物の中に埋もれさせたつもりではありましたが、そこを強く出した、というのはある種狙いでもありました。それでも、という事だったのでしょう。ただ一方で、今まで観た演劇の中で一番面白かった、という人もいました。それは、そういう創りだったんだろうなと思います。

まとめます。

この頃私はこんな事を思っていただろうと思いますし、こういう事だったんだろうと思います。

・人を不快にするかもしれなくても、本音を舞台に載せなくては面白いものは出来ない。強烈に心に刺す事は出来ない

・勿論、バカ8割理論を捨てる訳ではなく、そういう文法も入れるべきだが、それを捨ててでも、全てが伝わらなくても言葉の強度を上げていかないといけない

・理想は大人計画と帰ってきたウルトラマン「怪獣使いと少年」

・また、幸か不幸か演劇に関して多少勉強した

・つまり、いわゆる世の中に出ている「演劇」にやや寄ったものが出来た

・結果として、エンタメとして捉えた時に、お客さんにとってあまりにエゴイスティックなものが出来たのではないか

そして、この結果を踏まえ、じゃあ次どうしようか何て事は、大学卒業後起きず、2度と演劇なんかやってたまるかと思い社会人になり、5年半のブランクとなります。

※※※

そして、話すだけではアレなので、稚拙な戯曲ですが載せます。完全な上演台本のデータはなく、一歩手前のものだと思います。今観ると、ハァ~と思う台詞や展開はあります。大風呂敷も無理くり閉じてるし。なのでたまに見返しては台詞を書き換えたりしてます。ただ、展開や節々に光るものは、我ながら個人的にある戯曲なのでゴリゴリに改訂したものをいつかやりたい戯曲でもあります。コロナでお暇かと思いますので、10年前、世間知らずの大学生が最後まで何かと抗った印としてこちら、お読み頂ければ幸いです。(因みに父のアンケートでは、印象に残ったシーンは唐突に挟まれる「うんち」の下りだったようです)

次回は5年半の社会人経験やらで演劇観がマイルドになった結果こうなった、って話になると思います。宜しくお願いします。


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