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和ろうそくを巡る冒険〜歴史編〜

最初の記事を投稿して早1ヶ月。実は和ろうそくの歴史を色々と調べていました。せっかくなので過去の文献やウェブ情報を基に自分なりにこれまでの調査の纏めとして書いてみようと思います。和ろうそくに興味のある方も、灯りが好きな方にもぜひご一読して頂ければと思います。


今回の調査にあたってベース資料として日本ナショナルトラストより2003年に出版されました「自然と文化」72号の蠟燭特集を使っています。見方によっては要約になってしまっている部分も多々ありますが、この本に追加情報と自分なりの考察を加えて書いていきますので、多少の妄想が混ざります。ですのでこれは完成版ではありません。これから時間をかけて「和ろうそく史」を改めて編纂していきたいと考えています。もし間違いや、良い文献がございましたらぜひご指摘、ご紹介よろしくお願いします!それでは「和ろうそく」の歴史を調べるにあたって、その原料であるハゼノキがあった中国の歴史から振り返ってみます!

■中国における蝋燭の歴史


中国の蝋燭の歴史は意外にも?秦・漢時代の紀元前200年前後から始まるようです。この時に使っていたのは蜜蝋でした。蝋燭の「蝋」の字には「虫」が入っていますが、これは蜜蜂のことであり、蝋燭が虫に起源する道具だと言うことがわかります。文字には意味があると言う良い例ですね。まずは時系列を追って蝋燭の歴史を考えていこうと思います。

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晋~南北朝時代において、蝋燭は既に一般的な用語として確立しており、慶弔の儀礼や仏儀として使用されていたと考えられます。「世説新語」においては蝋燭は燃料用として記載されておりこの頃はまだ固形燃料だったようです。唐の時代に入ると「蝋涙」という熟語が生まれていますが、これは溶けた蝋が蝋燭から垂れる様を表した熟語であるため、南北朝〜隋への時代変遷の中で現在のような棒状の蝋燭が作られていったと「国清百録」の記載内容から推察できます。この時代の蝋燭は、日本に伝わっている蝋燭から考えても蜜蝋と言うことになりそうです。

■蜜蝋の代替えとしての鳥桕木蝋と蟲蝋

このように紀元前から始まった蝋燭の歴史は蜜蝋から始まりました。ここから植物油や虫の分泌物を利用した蝋燭へと製造方法が拡大していくことになります。唐代には上元節など祭事にも使われるようになり、需要の増大に伴って少量しか取れない蜜蝋では対応しきれなかった事情もあるようです。解決策としては、「養蜂」による、安定供給化(養蜂に関しては元代の1273年「農桑輯要」の中に記載がある)、あるいは代替え手段が必要ということになったようです。

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その代替え手段が「鳥桕木」つまり、ハゼノキ(正確にはナンキンハゼ)でした。すでに晋代の「斉民要術」で植物油の抽出方法に言及されていましたが、8世紀にはその精製方法の記述があり、この頃から地域の植物油獲得と合わせて蝋燭が作られていたと推察できます。また、その地域が現在の湖北省や江西省の南部地域であることが文献から推察できます。もう1つの代替え手段として「蟲蠟」は13世紀以降に普及し始め、蟲蝋の普及とともに蜜蝋が衰退していったと考えられます。ちなみにこの蟲蝋を「チャイニーズワックス」とも呼ぶようです。

■鳥桕木蝋の製法

前述の通り植物油の抽出方法に関しては532年頃に成立した「斉民要術」に記載があります。さらに8世紀前後の「本草拾遺」や17世紀の「天工開物」には鳥桕木からの精蝋方法の記載があります。ざっと絵にするとこんな感じで精蝋していったようです(絵心なくてすみません。。。)

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このように割とシンプルな精蝋方法でつくっていたようです。この製法は8世紀ごろの製法のようですが、「天工開物」にも同じような製法が記載されており、中世から近代まで大きくは変わっていないようです。付け加えると他の植物油と比較しても灯りの質として鳥桕木が最も優れていた点も鳥桕木での製蝋が普及した要因でもあるようです。(先程の天工開物に比較として記載があります)

完全に余談ですが、これだと身近な物で再現できそうなので、どこかで「中世の蝋燭作りワークショップ」でも開いてみようかと思います。。

■日本への伝来と独自性に関して

今回は「和ろうそく」の歴史をたどる前に、ハゼノキが伝わってきた中国の歴史に関して振り返ってみました。17世紀ごろにハゼノキは中国から根占に伝来したと言われていますが、製法に関してはどうだったのでしょうか?普通に考えると材料と製法はワンセットになって伝わっていると考えるのが自然です。実はこの辺が根占に伝来した時期を推察するヒントになるのでは?と考えています。詳しくは後編で書きますので、今回の本筋からそれますが個人的には、この「伝来の後の製蝋方法」の伝わり方こそ「和ろうそく」が日本独自の工芸品である証明でもあると思っています。そのあたりに触れたくて先に中国の歴史を振り返ってみました。

さて、今回は蝋燭の成り立ちを中国の歴史から振り返ってみましたが、次は日本の蝋燭をその歴史を紐解いてみようと思います。前半と後半で終わるつもりでしたがこの分量だと中編を挟むかもしれません。。。もしよければ最後までよろしくお願いいたします!

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