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「温暖化対策に向けて必要だと思うこと」は何か――日本のハイティーン1000人の答え(の計量的な分類)

「温暖化対策」と聞いて、真っ先に何が思い浮かぶでしょうか。
日本のハイティーンたちの答えは、大きく分けると6~8種類ぐらい出てきたようです。

RE:CONNECTを京都大学とともに実施する日本財団は、「18歳意識調査」というものを2018年9月から継続的に実施しているようです。日本で18歳というと、投票権が付与されたり2022年4月より成人年齢になったりと、近年新しく法的に「最年少の大人」になる年齢です。その法的な大人の境目にあたる17~19歳の男女1000人を対象に、様々な主題でアンケートを行っているのがこの調査です。結果は要約のスライドとともに、自由記述の内容も公開されています。そこで今回は、「第21回 – 気候変動 –」(2020年1月31日公開)の自由記述データをテキストマイニングしてみます。

分析対象とするのは、「第21回18歳意識調査「テーマ:気候変動について」自由回答集4 温暖化対策に向けて必要だと思うこと」(日本財団『18歳意識調査』調べ)という自由記述のテキストデータです。「あなたは、温暖化対策に向けてどのような対策が必要だとお考えですか」という問いに対する1000人分の記述内容がPDFとして公開されているので、これをCSVファイルに落とし込んで前回も使用したKH Coder向けに整形します。今回のデータの特徴としては、各文書が1文程度と短いことから、「温暖化対策」として真っ先に思い浮かんだ、個々人にとっての代表的な事柄がおおよそ1人1個挙げられているとみることができそうです。

実は、公式の報告ですでに回答の分類がされているので、KH Coderを用いたテキストマイニングで得られるデータの風景(landscape)と比較してこの方法の有用性を確かめつつ、回答の傾向を計量的に把握してみます。もしかすると「18歳意識調査」の中の人はKJ法などでなく同じくKH Coderで解析しているのかもしれませんが、計量的なデータとしては結果が報告されていないので、まあやってみましょう。

まず、単語全体の出現頻度を文書単位で分析した結果がこちらです。

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「減らす」が1位(10人に1人の回答に含まれていた)で、3位も「削減」、他に名詞だと2位の「ガス」や「二酸化炭素」「電気」があって、何となくよくある回答が想像できますね。


動詞と名詞それぞれでもみてみましょう。先に名詞から。

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二酸化炭素を含む温室効果ガス、排出元となる自動車、電気を含むエネルギーに加え、「ゴミ」も上位10語に入ってきました。たしかに、どれも排出や使用を減らすに越したことはなさそうなものばかりです。また、「意識」や「対策」といった単語も上位にあるのが興味深いです。個人の問題と制度への言及も一定数あったことを示していますね。

続いて動詞です。

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「わかる」が2種類ありますが、公式の報告スライドによると約2割の回答が「わからない」や「特になし」といったものだったようなので、これらは対策の種類の言及ではなさそうです。「増やす」や「出す」は「減らす」を否定形で表現したものも含んでいるようです。「思う」も単に語尾によく出ていただけと推測できるので、実質的には「減らす」が群を抜いていて「使う」が次に多かったという感じでしょうか。

ではそれらがどんな単語と結びついていたのかを、最後に共起ネットワークでみてみましょう。全体の1%にあたる10件以上の回答に出現した82単語を対象としています。

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都合、8つのクラスターに分けることができました。
まず目立つのは右下の赤いクラスターで、①〈温室効果ガス全般、それからゴミを減らそう〉、という回答のようです。
次に中央から左側にかけての水色のクラスターは、②〈身近に出来ることをやろう〉という個人主体(下の方)と、〈政府や企業の取り組み〉といった組織主体の対策が含まれています。
それから上の方の紫のクラスターでは、「意識」「社会」「全体」あるいは「国」が頻出語として結びついていて、いわば➂〈社会常識の面での対策〉が言及されている格好です。
中央右側の黄色のクラスターもわかりやすく、④〈電気自動車〉が道具的な変革の代表として一定の回答者の頭に浮かんだようです。これはその上の緑のクラスターの⑤〈再生可能エネルギー〉や、左端のピンクのクラスター⑥〈火力発電〉といった新旧のエネルギーの転換とも親和性がありそうです。
最後に小さいながらクラスターとして浮かび上がった、右上のオレンジの⑦〈森林を増やす〉と、左下の⑧〈資源の節約〉については、自然環境が念頭にありそうな言及です。
一定数の回答者が連想したといえる温暖化対策は、テキストマイニングでみるとこんな感じです。どれもあなたが思い浮かべたものでしたか?

一方、公式の報告では次のようにまとめられていました(要約版16ページ):
1. 一人一人の努力・意識・身近なところから取り組む
2. 車やバスを使わない/電気自動車の普及/公共交通機関の使用
3. 省エネ/節電/資源の無駄遣いをしない
4. 再生可能エネルギーの普及
5. CO2・温室効果ガスの削減
6. ゴミの削減/リサイクル/ゴミの分別

ふむふむ…。
共起ネットワークの8つのクラスターは、概ね上記の6分類を包摂していそうです。一方で――結局これも解釈ですが――やや異なった分類、たとえば組織主体の対策、森林を増やすなども提案しています。公式のまとめが文脈を踏まえて回答を整理していたとしたら、対してテキストマイニングでは頻出の単語に着目して回答群の文脈を再構築した形です。今回のように文書ごとのテキストが比較的短い場合だと、大きな差異のない分類ができるといえそうです。

ただし、KJ法などの質的な分類にせよ、テキストマイニングでの計量的な分類にせよ共通する限界として、まとまりのない少数派の言及が零れ落ちることが挙げられます。原理的に当然ではありますが、もしかするとそこには専門家からみてより有効な――ただし専門的過ぎて周知されていない――対策があったり、あるいは思いもよらない画期的な提案が隠れているかもしれません。

ちなみに、同調査の「温暖化対策は誰が中心となるべきか」という質問に対して、最多の回答が「社会全体」(48.8%)で、2位の「行政や政府」(25.7%)とは大きな差がついていたようです。そうした意味では、多様な主体が多様な取り組みを継続していくという、単一解や王道のない事業が温暖化対策なのでしょう(まず1人あたりの二酸化炭素排出量の多い国々の役割が大きい、という話もありますが)。
筆者としては、とりあえず専門家の方から今回の共起ネットワーク図を見て、「妥当な言及」「妥当でない言及」、そして「出てくるべきだけどそこにない対策」(食肉のカーボンフットプリントの話とか)にどんなものがあるか、伺ってみたいところです。
ではまた次回。

リンク
日本財団公式ウェブサイト https://www.nippon-foundation.or.jp/

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