![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/136947406/rectangle_large_type_2_99167907f6025fc8517f322d728df1d5.jpeg?width=800)
名前が秀逸だと思う香水②
もうすぐ、薔薇の季節がやってくる。
ここフランスに根付く薔薇の生命力は、日本のそれよりすごい。
車がビュンビュン通る道路脇にも生えているし、家の軒先にも、もちろん森林にも、太陽の姿を追いかけながら力強く自生している。
そんな逞しい姿には、カタカナのバラではなく、アルファベットのROSEでもなく、漢字の薔薇という文字がよく似合う。
「薔薇」
・・・強そう。・・・なにこの無双感。
キーボード変換じゃないともう、正しく書ける自信がない。
![](https://assets.st-note.com/img/1712935128647-dzWlMCJ5Q5.jpg?width=800)
さて、スウェーデン発のフレグランスメゾン『バイレード(BYREDO)』に、「ローズ オブ ノーマンズ ランド(ROSE OF NO MAN'S LAND)」というオードパルファムがある。
2015年に発売されたジェンダーレス香水だ。
「ローズ オブ ノーマンズ ランド(ROSE OF NO MAN'S LAND)」・・・
直訳すれば、「無人の地の薔薇」となる。
しかしこれは、“第一次世界大戦中に活躍した従軍看護婦を讃えて”つくられた香りだという。
つまり本当の意味としては、「荒野に咲く薔薇(ROSE OF NO MAN'S LAND)」となるのだ。
第一次世界大戦、続いて第二次世界大戦。
わたしも含めてほとんどの人が実情を知らないが、フランスでもやはり、戦地に出向いた男たちは、筆舌に尽くしがたい運命をたどったという。
男たちは生きて帰れぬという運命を背負って戦った。
緑豊かだった故郷は戦場となり、挙句の果てには荒野と化した。
そんな場所で働いた看護婦たちは、兵士から「薔薇」と呼ばれていたそうだ。
![](https://assets.st-note.com/img/1712936514603-X39zGpp0mk.png?width=800)
わたしは未だかつて、これほど緊張感を伴うトップノートを嗅いだことがない。
消毒液?
病院の匂い?
それにしても、やけに鋭い。
先入観がそうさせているのかもしれないが、ガラスの刃を持った誰かに、背後から狙われている感じがした。
フェミニンで春うららな薔薇香水ではない。
そんな香りをイメージしていようものなら、「ローズ オブ ノーマンズ ランド(ROSE OF NO MAN'S LAND)」に(往復で)ビンタされてしまいそう。
それくらい不穏なスタートだ。
しかし、香りは30秒ほどで劇的に変化する。
真っ赤で、美女感たっぷりの薔薇が、BGMを伴いながらゆっくりと蕾を膨らませて開花していく感じ。
最初は敵対心たっぷりだったアンジェリーナ・ジョリーがブラッド・ピットに心を開く、あの瞬間にも近い(Mr.&Mrs. スミス)。
ここでの香りは薔薇らしく、華やかだ。
でも派手さや色気はない。
初めから終わりまで、舞台に立つバレリーナの背中のように、「凛」とした雰囲気がある。
その媚びないイメージは、ラストノートの最後の最後で再び崩れる。
感情を揺さぶる「スキンノート」と言えるだろうか。
ずっと気負っていて張り詰めていた人が、なにかの拍子に糸が切れてほろりと涙するような。
そんな人が身近にいたら、実際にはハグはできなくても(日本人だし)、みんながエアーハグしちゃうんだろうな。
ところで、ここまでの香り立ちはおよそ一時間なのだが、これは映像というよりも、文字を追っている感覚に近い。
「ローズ オブ ノーマンズ ランド(ROSE OF NO MAN'S LAND)」にはそれくらいドラマチックな展開があるし、ストーリー性が豊かなのだ。
![](https://assets.st-note.com/img/1712940534277-7Ybr3FK3FA.jpg?width=800)
女性で擬人化するならどうだろう。
東京、千葉、埼玉、神奈川あたりのシングルマザーかな。
かっこいいんだ、言うことが。
そして時間は有限。朝は戦に近い。
ハイボールが何より好き。
身と精神を守るための鎧はいっぱい持ってる。
なんなら西洋風の甲冑も、戦国武将並みの甲冑も。TPOに合わせて即着替えが可能。
武器は両手持ちの斧だろう。
子供が傷つけられようものなら、容赦なく振りかざしてやるからな。
・・・そんな武装に疲れた時。
誰かの肩にもたれかかりたいと思う夜が、またやってきた。
彼女は「ローズ オブ ノーマンズ ランド(ROSE OF NO MAN'S LAND)」にふと目をやる。
「なんぼのもんじゃい」
今日も安心して眠りにつこう。
だって明日は明日の風が吹くのだから。
というように、自立した女性の、ふと垣間見える弱さみたいなもの、を孕んでいるのが「ローズ オブ ノーマンズ ランド(ROSE OF NO MAN'S LAND)」だ。
ちなみにこの香りは、男性も問題なくまとえる。
でも男性がまとうと、より孤高な雰囲気が出るかな。
明るいスポーツマンより、物事を深く考える人に向いているだろう。
個人的にはスーツ姿に合わせてほしい。
こんな人とすれ違ったら8割の女性は振り向くんじゃないだろうか。
でもモテ香水なんかじゃないよ。
それは、モノクロの世界で動く「赤い薔薇」に見えるだけから。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?