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映画『ノマドランド』(2021年の映画)

2021年3月31日。緊急事態宣言が明けたことで劇場の営業時間が延び、久しぶりに劇場へ足を運ぶことができた。観賞した映画は『ノマドランド』。ほとんど事前情報を入れることなく、あの傑作『ザ・ライダー』のクロエ・ジャオ監督であるという一点で鑑賞を決めた。たまたま上映開始時間のタイミングが良かったという点も大きい。結果的に、オールタイムベスト作品となった。人生のどこかで彼らと交差することもあるのだろう。そういう気持ちを受け取ることができた作品となった。

『ノマドランド』
企業の破たんと共に、長年住み慣れたネバタ州の住居も失ったファーンは、キャンピングカーに亡き夫との思い出を詰め込んで、〈現代のノマド=遊牧民〉として、季節労働の現場を渡り歩く。その日、その日を懸命に乗り越えながら、往く先々で出会うノマドたちとの心の交流と共に、誇りを持った彼女の自由な旅は続いていく──。(公式サイトより

感想

五億点。年間ベスト。オールタイムベストの作品。
映像に朝焼け夕暮れマジックアワーを多用しすぎなクロエ・ジャオ節なんだけど、物語のテーマが黄昏に沈みゆく人々なのでこのうえなくマッチしている。

視点人物のファーンは、夫を亡くし住んでいた町も消滅し、根無草になってしまった「ノマド」のひとりだ。「ノマド」とは全米をRVで巡りながら単純肉体労働に明け暮れる高齢者の人々を指す。

ネバダ州の砂漠。ファーンが暮らしていた企業城下町エンパイアは、このような砂漠の中にポツンと存在する小さな村だ。

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米国の社会保障は人類が生きるには厳しすぎる。彼らの多くは「死」を見据えて行動している。大切な人を失い、自死を計画し、病に倒れ、ファーンも自らを刺し貫くような痛みに耐えている。それでも動いている限りは死なない。その結末を先延ばしにするために、ノマドは流離うのだ。

帰る場所があったとしても性質的に一箇所に留まることの出来ない人々もいる。「そういうふうにしか生きることができない」という彼らを等しく包み込むアメリカの荒涼とした大自然は、このうえなく美しいものだ。さらに最小限の音楽は、トレーラーを雨が穿つ音を伝え、鳥のさえずりを届けてくれる。美しいアメリカ。荘厳な自然の風景。

ファーンが友人と共に働いたバッドランズ国立公園。渺茫とした美しい風景と暖かな人々が彼女を包むが、彼女が愛した景色はここではない。

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それでも、彼女が最も愛したのは、なんでもない「窓で切り取られた風景」だった。彼女が愛し、生のよすがとした小さな町「エンパイア」は消失し、帰らざる故郷となった。「家は心の中にある」アマゾン工場で出会った期間工の言葉が重く響く。彼女は自由に旅をしながらも、最も自由ではなかった。縛られていたことに気が付く。

ノマドは風にとけて「またね」と何処かへ去る。さよならは言わない。

ドキュメンタリーとも劇映画とも判断できない作風。本作は2021年で最も劇場で鑑賞するべき作品であろう。

彼女が暮らしたエンパイアの町。破綻前の2009年のGoogleストリートビューがタイムカプセルのようにアーカイブされている。本当に小さく、つまらない、何もない町だ。それでも「家」はここに存在する。(印象的な貸しガレージも近隣に存在する)

なお、本作品の鑑賞に際して、GTAVのプレイ経験が非常に深くシンクロ・チューニングに寄与したことを記しておく。経済破綻した人々やトレバー・フィリップスが暮らす郊外エリアは、アメリカの縮図であったことに改めて気が付く。

化学工場と城下町の人々。企業が撤退してしまえば、その土地に残るものは何もない。

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4月。新生活の季節。
心機一転このような作品に出会う良い機会ではないだろうか。
オススメします。


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