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こんな時代だからこそ『国民クイズ』で三権分立について考えるべきだ。(1993年の漫画)

昨今の政情や諍いは目に余るものがある。低レベルでゴシップ的な争いに終始するマスコミ、勉強の足りない政治家、デマカセを信じる衆愚政治的な民衆。権利と義務をはき違え差別も区別もくそみそになってしまった。もうこの世界はダメだ、国民クイズの時間だ。「あなたのための全体主義」国民クイズで全てを決しようじゃないか。

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日本国憲法
第12章 国民クイズ(国民クイズの地位)
第104条 国民クイズは国権の最高機関であり、その決定は国権の最高意思、最高法規として、行政、立法、司法、その他あらゆるものに絶対、無制限に優先する。本憲法もその例外ではない。
(国民クイズ(上巻)より)

『国民クイズ』とは1993年に週刊モーニングで連載を開始した政治エンターテイメント作品だ。杉元伶一氏の原作に《天才》加藤伸吉氏の圧倒的なビジュアルが相乗効果で爆発しており見て楽しい娯楽作品に仕上がっている。

玩具めいた政治に対するアイロニーは当時の世相を反映している。1993年当時は政権交代が叫ばれ、バブル経済は去り、人々は鬱屈し始めていた。そのような時期に出現した圧倒的バカバカしさと熱量を抱えた作品である。

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圧倒的バカバカしさ。火を噴くロボ型国民クイズ省(旧国会議事堂)の勇姿を見よ!!(国民クイズ(上巻)より)

あらすじ

近未来日本は全国民が『国民クイズ』によって特権を勝ち得ることができるようになっていた。「民主主義はもういらない あなたのための全体主義」「4時間の合法的な革命」をキャッチフレーズにした怪物テレビ番組は国民の欲望を煽り立てながら圧倒的な支持を得ていた。

三権分立を越えた「国民クイズ制度」に制限はなく「失せ犬探し」、「金が欲しい」、「死刑判決の夫を無罪に」、「原子力空母の保有」、「米国への直接攻撃」、そして「国民クイズ制度の廃止」までも許容している。

国民クイズの司会者は、国民クイズB級不合格者のK井K一。圧倒的な演技力とカリスマにより犯罪者ながら国民の支持を略奪する危険な男。彼の影響力を巡り、国民クイズ制度転覆を狙う過激派組織「本格派」、隣国「佐渡島共和国」、そして「国民クイズ省」が水面下の争いを繰り広げることとなる。

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日本国軍が保有する「原子力空母大原麗子」も国民クイズによって配備されたものである。(国民クイズ(上巻)より)

みどころ

国民クイズ出場者は総じて愚かである。欲の皮の突っ張った獣たちが互いを蹴落としながら這い上がる姿を見るのは愉快でしかない。度を過ぎたSS隊の執行シーンや容赦のない合法的な殺戮は胸が躍る。愚かな人々を上から眺めることは最も高度な娯楽の一つだ。

だが、連載時から四半世紀以上経過した現代の政治の様子はいかがだろうか。あまりにも愚か、あまりにも稚拙、あまりにも感情的で、あまりにも不勉強ではないだろうか。

この社会問題は(俺ならば/私ならば)こうする。

そのような考えが少しでも脳裏をよぎった時点であなたのための全体主義は道を拓くのだ。

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標準的な愚かな人々。依頼内容ごとの基準点に個人のIQを掛け合わせたものが依頼達成に必要な目標点となる。低IQの個人的な願いほど叶いやすいガス抜き構造となっている。(国民クイズ(上巻)より)

《天才》加藤伸吉氏の画力も見逃せない要素である。絶無のカリスマを持つ受刑者K井K一の極端な愉悦と絶望の表情を描き、コミカル故にグロテスクな国民クイズの演出を詳細に描き込んでいく。

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「国民的スーパースター」と煽てられたK井の独白。(国民クイズ(上巻)より)

国民クイズの出題は、予想不能なほど支離滅裂なジャンルに満ちている。かつ丼やのグリンピースの数から宇宙人の実在、サイコロの数までもがふるい落としの材料となる。あなたならどのように国民クイズを攻略するのか。検討をしながら読み進めることで楽しさは数十倍に跳ね上がることだろう。

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国民クイズは、地方予選→ふるい落とし→決勝戦という順で執行される。これは比較的おとなしい方のふるい落としクイズの演出風景。(国民クイズ(上巻)より)

物語はこれだけでは終われない。

ここまで紹介したのは、上巻のごくわずかな場面である。
物語はK井K一とその家族を巻き込みながら、国民クイズ制度の成り立ちと革命の行き先を描いていく。日本政府内部でも一枚岩ではなく権謀術数の渦巻く伏魔殿と化している。

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権力闘争をためにK井の家族を抱き込もうとする政府統制局。(国民クイズ(上巻)より)

K井は、国民と囚人、支配者と革命者の立場を行き来する。危ういパワーバランスの中でK井はどのように生き残るのか。

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『国民クイズ』は読者に対しても他人事を許さない。(国民クイズ(上巻)より)

国家間の争いを描きながらも順風満帆だったはずのK井が「なぜ国民クイズへ志願したのか」へ迫り、K井のカリスマが頂点を迎える革命の国民クイズ、そして最終国民クイズへ下された国民の審判は爽快さときたらどうだ。

激動の下巻は是非、なるべく情報を入れずに読破していただきたい。

未来へ

『国民クイズ』はこのいささか息苦しい時代にもってこいの爽快なエンターテイメント作品です。欲望を肯定する力強さ。そして衆愚を束ねて握った巨大な拳の力を信じろ。

いじょうです。



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