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木の人形への告悔

男に連れられて施設にやってきた。玄関には靴が入り乱れ、廊下にも洗濯物が干してある。

部屋着のような格好でリラックスした人たちが行き来をしている。二十歳くらいから五十代あたりの男性ばかり。

どうやらこの公民館のような建物で彼らは共同生活をしているようだ。

男は歩きだすとドアのない小部屋に入って椅子に腰掛けた。テーブルを挟んで向こう側には等身大の木の人形がある。初老の髪の長いやさしく微笑を浮かべた男性の人形。

「この前さあ」と男は仲の良い友人に話しかけるような口調で近況報告を始めた。

ここは宗教施設でここにいる人たちは信者だとぼくは確信し始めていた。この部屋は告悔室であの人形が神像なのだろうか。それにしては、口調が馴れ馴れしいのだか。

疑問に思いつつ木の人形を見直すと、瞼が動いてギョッとした。どうやら顔の一部分も可動式になっていて、ぎこちなく表情を変化させている。

観察していると瞼、口元、頬肉のパーツが動いていた。瞼と頬肉はシンプルな上下運動だが、どういう構造になっているのか口元は曲線が変化しているように見える。

木製とは思えない不自然さに、見ていると寒気がする。

初老の人形に気を取られていたが、その両脇にも木の人形がいた。車椅子に座った男性と、年老いてローブをまとった男性。こちらも木製だが、どうやら動くパーツはないよつで、微動だにせず一点を見つめている。

それにしても小さなスペースに木の人形が三体押し込まれていて窮屈そうだ。なんだか並んでいる様子が不自然に見えるなと思ったら、両脇の二人のサイズが等身大よりひと回り小さかった。

話を終えたのか、男がこちらを振り向いた。ぼくの顔をみる。ぼくが告悔をする番なのだろうか。木の人形たちもぼくをみている。ぼくは動けない。


この施設に来るまでの夢もあったが部分的にしか思いだせない。

アルバイト募集で行った先でこの男に出会った。

アルバイトは電話を受ける仕事。

悩み相談のような電話がかかってくる。

ほかにもアルバイトはいたが、誰も電話を取らないので、いつもぼくが対応する。






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