見出し画像

2m20cm、150歳、工房史上最大サイズ 

市の遺産になっているお家の家具修復の回顧録です。
このお家の一番の年長者はこちらの記事にも買いた150年越の書斎キャビネットでした。

詳しいお話はこちら。

が、

もうひとつ、多少パーツが足りていないものの同じくらいの年長者がいます。
それが高さ2m20cmのこちら。

ででーん。
家の天井も高いので大きさがわかりにくいかな。
これでどうでしょう?ワタクシ160cmです。

すでに何回も手を加えられた様子が見られます。
虫喰い処理はもう数回されているみたいだし(穴を埋めてあるパテの色にいろいろ違いがあるので分かります。)
他の部分に比べて下の引き出しの素材がやたら新しいので、引き出しはおそらく虫喰いが酷くて数十年前に総作り替えになったと思われます。
虫喰いは通常下から来ます。一番やられてしまう部分です。

トップには
通常この時代のものだとcabezalと呼ばれる飾りが付いていそうなものなのに
こちらは言ってみれば何もなくてハゲな状態なので
いつの時代かに外してしまったのかも知れません。
cabezalを支えるピボット(?日本語で何ていうのかな)
の穴が残っているとその証拠です。
そもそも身長2m20cmにもう25cmくらい飾りが付いてたら、いくら大きなお家でも置ける場所も限られてますからね…。

さて、
こちらのタンス、まあ作業中にいろいろありまして
そもそも大物なので動かすのに男性2人でないと無理。
ヘタに私が手伝うと腕力が足りずむしろバランスが取れず危険なので、あっさり手伝ってもらうのがヨシ。
リフォーム現場のおっちゃんたちに「マッチョよろしく〜」って言ってお願いします。笑  喜んで助けてくれます。

お願い事って頼む方はなかなかしづらいものです。特に今回のように全然知らない間柄だったり、向こうだって仕事中なのでいろいろ気を使っちゃうんだけど、
逆の立場になってみると、何か頼まれてお役に立てるって嬉しいことかも、と。
そう思考転換したら気軽に頼めるようになって、そこから会話が弾んだり逆に向こうから何か頼まれたりもするようになって居心地が良くなりました。
仕事って作業がすべてでない方が楽しい。

そして修復内容。
こちらのタンスは思春期の娘さんが使うので可愛い色にペイントして欲しいと言われました。
修復屋としてはギョエー!!って思うオーダーです。何しろ完全ではないものの年季もの家具。しかもこの家具の良さはフロントのマーケットリー・象嵌です。

ペイントと修復の狭間のジレンマについてはこちら。

ペイントすると価値が半減どころか、なくなっちゃうよ、と説明しますが、でもそれだと娘は使わないだろうし虫喰いの穴だらけが見えるのも困る、とお客様。
虫喰いは穴埋めして塞ぐから大丈夫、とかいろいろ説得しますが効きません。
ひとまず古いニスを剥離してどんなになるか見てみましょうと言うことでまとめました。

そうしましたら、まあ、その日は
薬品のボトルが倒れてこぼすは、
開いてたドアで頭をぶつけるは
ハシゴから足を滑らすは
開かないパテチューブの蓋で痛手を負うは

なんか

タンス、怒った?
(スピ系じゃないよ、でもこれだけ重なるとちょっとビビる)

これは本気で抗議すべし、だな。

そしていろんな家具の仕上がり画像を集めてアイデアの幅を広げてもらったり、
たまたま行ったアンティークショップで似たようなタンスが高額で売られている写真とかも見せて
象嵌部分のペイントはなんとか脱れることができました。アンティークとしてはもう通用しなくなるし、なんだか今風な仕上がりになりますが、そもそも使い続けてもらうのが大事なので。

象嵌部分の剥離作業はとても楽しい時間でした。
焼けてしまったニスを落とすと象嵌のコントラストが映えて本来の装飾の意味がより感じられます。
自然な木目や手触りが分かるとお客様も納得してくれました。

高さ調整も兼ねて虫に食い尽くされていた脚をカットしたり
(様式的になんだか後から付けたような感じの脚でしたが、おそらくcabezal部分と合わせたデザインだったんだと思います。)
内部の棚部分の板が紛失!?と思ったら工事現場の作業台に使われていたり
大きくて作業時間が長かっただけにいろんなエピソードがいっぱいのビッグタンス。

仕上がりはこんな感じになりました。
アンティークファンが嘆きそうなアイデアですがお客様は大喜び。


グリーンは、お家のオリジナルの床のデザインのグリーンに合わせました。


修復前の状態
古いニスを落とした自然の状態
新しくニスを塗り直して仕上がった状態

少し仕上げにカラーワックスを使っています。
詳しいカラーワックスのウベコ工房流使い方はこちら⤵︎

鍵で開け閉めするシステムだったので取っ手に付け替えて、大きな開けづらい引き出しにも取っ手。
引き出しも、本来は引き出しって分からないところが良いんだけど、この幅の引き出しを日常で開け閉めするのに取っ手がないと不便。ということでお客様のニーズを最優先。
もちろん全体の雰囲気を壊さない取っ手を探して付けますが。

なんとこの後、このタンスの内部にはセンサー機能のLED照明が付けられて、後日見に行ったらドアを開けると電気が付く仕組みまで取り付けてありました。
まあね、確かに便利。
バルセロナ旧市街ゴシックファザードの建物がLEDでピカピカ光る階段を上って入店するH&Mになる時代ですから。。。

兎にも角にも、文字通りの大仕事。
ハシゴが自分の一部になったくらいずっと高いところで作業してた気がしますが
これ以上大きいオーダーが来ないことを祈ります。笑

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?