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眠れぬ夜に-15-

第15夜

『2』

 気がつくと「私」は、白い鉄でできた軽トラックの荷台だけのようなものにのって、ゆっくりと白い道を進んでいる。
荷台の端には見知らぬ同年代の白い服を着た女性がしゃがんでいるが、すぐに打ち解けられるような雰囲気はなかった。私の手には木で出来た「2」と刻んだ札を持っていて、「私」はそれが2割を意味し、それはあまり幸運な事ではない事を理解していた。

 雲のような霞のような白い空がやがて変貌し、私たちを襲った。いや、襲ったはずだった。その出来事をなぜか「私」は覚えている事が出来なかった。
荷台に砂や枯れ草やビニールヒモの切れ端が「何かがあった事」を教えて暮れた。

 そして、真っ白だった荷台と私や女の服が汚れていくたびに、女との淡い連帯感が芽生えている事が理解できた。ただしそう思っただけで口はきかなかったし目も合わせなかったから、時間の経過とともに「私」が勝手にそう感じただけかもしれない。

 覚えられない出来事がいくつあったのだろう、荷台はゴミで見えなくなり、道もありふれた風景になった。「私」と女も白くなくなっていた。
と突然光が差し、美しい大地のような景色が広がったところに「札」の作者が現れた。ずんぐりとした中年のおばさんで、白いベレー帽をかぶり丸い眼鏡をかけた姿は昔のステレオタイプな漫画家のようでもある。

 作者は「私」の札を取り、ペンのようなものでさらさらとなで、返してきた。札は重厚な木質で、それはそれは美しい意匠が施された「2」が深々と彫ってあった。

 「私」は全てを諒解した。その刹那、荷台のゴミはことごとく宝石となって耀き、女は微笑み、風景に色が満ちた。それは一瞬のうちに溶け合い「私」はただただ美しいという思いに包まれて消えた。

第15夜
『2』

 ノンアルで晩酌のまね事をするようになって久しい。その日の事を手のひらの上に出して見たりクズカゴに入れて見たりもするし、考えても仕方のない事を取り出してきて結局は「仕方ないか」としまい込んだりもする。何も解決しないけれどそれがまたよい。相手がいればたわいもない話で時間を潰し、頃合いで引き上げる。飲んでる時にこれが出来たなら、なんて後悔も案外悪くない。
 それでももうちちょっとだけ、と感じた時は小さな物語を読む。小説でもエッセイでも漫画でも。最近は昔書いた自分のテキストを眺めるのも好きだ。私自身、驚くほど忘れていて新鮮である。アル中の利得と言う事にしよう。
 暫く、その雑文をここに披露させて頂く事にします。眠れぬ夜の暇つぶしにでもして頂けたら幸甚です。

アル中になるようなポンコツですがサポートして頂けると本当に心から嬉しいです。飲んだくれてしくじった事も酒をやめて勘違いした事も多々ございますが、それでも人生は捨てたもんじゃないと思いたい、、。どうぞよろしくお願い申し上げます。