『ネクスト・ギグ』逆ライナーノーツ

 『ネクスト・ギグ』には、実在のバンド名やエピソードなどがちょこちょこ登場します。それらを「ライナーノーツ」のように解説しよう、というのが本稿です。
 ライナーノーツとは「音楽レコードや音楽CDのジャケットに付属している冊子等に書かれる解説文」のこと。ですので本来の意味とは異なるのですが、作品の楽しみをより深めるために役立つもの、という点は同じでしょう。ここでは、元ネタの音源も紹介しています。音楽の解説を文章で行うのではなく、文章の解説を音楽で行う「逆ライナーノーツ」とも言えるかもしれません。
 『ネクスト・ギグ』は小説ですから、もちろんそれ単体で楽しめるものです。しかし、以下のライナーノーツを読み、音源を聴きながら読むことによって、より楽しみが増せばいいな、というのが作者の願いです。なお、ネタバレは避けますので、先に音楽を聴いてから本を読む、という順番でもOKです。

※お断り
 作品内にて名前の挙がるアーティストや楽曲について、批判・批評の意図は一切ありません。また、実在のアーティストや楽曲に影響を受け執筆した作品ですが、あくまで創作であり、ストーリーやキャラクターはオリジナルの創造物です。

P9、サウザンドリバー(作中バンド)はちょうどミッシェル・ガン・エレファントが解散した二〇〇三年にデビューした、という記述があります。サウザンドリバーがもっとも強く影響を受けたのがミッシェル・ガン・エレファント、という設定です。巻末でも名前を挙げたとおり、個人的にも大好きなバンドで、名曲ぞろいなのですが、強いて一曲となると、この作品にもっともぴったり来るのはこの曲でしょう。ミッシェル・ガン・エレファント「ダニー・ゴー」

P21.ジミヘンの顔がプリントされたTシャツ、という描写がありますが、ジミヘンとはジミ・ヘンドリックスのこと。後に作中でも言及がありますが、すべてのロックの祖、と言えるのではないでしょうか。個人的には「crosstown traffic」が好きなんですが、いい音源がないので、超メジャーな代表曲、「Purple Haze(紫の煙)」のライブ映像を。

P22.会場内のBGMとして、ドアーズの「let my fire」が流れます。ちなみに僕がこの曲を好きになったきっかけは、高木敦史さんの「演奏しない軽音部と4枚のCD」でした。こちらもマニアックで面白い音楽ミステリですので、ぜひ。

P23.バンドの登場SEにレッド・ホット・チリ・ペッパーズの「give it away」が流れます。個人的には、登場SEはそのバンドのイメージからすこーしだけずらした曲が流れがち、という印象が。レッチリは有名すぎるかなあ、という気もしたのですが、その後の描写に繋げる必要もあって、そのままにしました。

P24.「グリーン・デイをリスペクトしたハードロック『Japanese Idiot』」という描写がありますが、元曲はもちろん「American Idiot」です。より音楽的に深化した、グリーン・デイ後期の始まりを告げる曲と言えるでしょう。

P40.「ルースターズを気取ってみた」というセリフがありますが、これはファーストアルバムの一曲目「テキーラ」から。ちなみに洋楽のカバーです。ミッシェル・ガン・エレファントがルースターズに影響を受けたのは有名な話ですので、サウザンドリバーにとっては祖父のような存在でしょうか。一日限りのルースターズ復活ライブのフジロックフェスの映像をどうぞ。

P87.フィッシュマンズを思わせるようなレゲエのリズム、という描写があります。フィッシュマンズは、日本のロック史においても非常に特徴的な音を鳴らした先鋭的なバンドと言えるでしょう。というわけで、代表曲かつ僕のもっとも好きな曲、「いかれたbaby」を。

P100.女の子が一人で宅録するアーティスト、という設定の元になったのは、ラブリーサマーちゃんです。ネットに一切顔出しをせず、持ち前のポップセンスで多彩な楽曲を発表するラブリーサマーちゃんですが、個人的に偏愛しているのがそのポップセンスが爆発している「私の好きなもの」春夏秋冬ラブリーサマー!

とはいえ、ラブリーサマーちゃんの魅力はその多様性。正統派パワーバラード「青い瞬きの途中で」

 快速ロックチューン「ベッドルームの夢」

スローバラード「202 feat. 泉まくら」

これが全て同じアルバム、というカオス。
単行本刊行時にはまだなかった最新のMV「AH!」も紹介しておきましょう。

P149.主人公のイヤフォンから流れる曲は、ニルヴァーナの「All Apologies」。色のちがう三枚のスタジオアルバムでどれが好みかは分かれるでしょうが、このときの主人公の心情を思えば、もっとも深く潜行した三枚目の「In Utero」からとるのが適当でしょう。その最後に収録された「All Apologies」は、カート・コヴァーンが最後に世にドロップした楽曲、と言えるかもしれません。それがまた、ただひらすら許しを請うような曲なのですから。その後に起こることの暗示なのか、と考えずにはいられません。


P168.「ベースがドラムに転向してベースレスバンドにという案まで出た」というセリフは、分かる人には分かる細かーいネタですが、チャットモンチーです。ドラム高橋久美子の脱退を受け、チャットモンチーは本当に一時期ベースレスバンドで活動しました。その後、サポートメンバーを加えリリースした最高のロックンロール「こころとあたま」を。紆余曲折を経てこのかっこいいロックにたどり着ける、というのは本当にすごい。MVはショートバージョンなので、ライブ映像を。

その後、チャットモンチーは解散し、今は橋本絵莉子がソロで活動しています。これがまたおもしろい音楽をやっていて、要注目。

P175.「活動を休止してしまったザ・イエローモンキー」実は校正で「解散では?」と指摘がありましたが、そのまま通しました。活動休止期間を経ての解散なので、どちらもまちがいではありません。それでもあえて「休止」を選んだのは、活動休止発表時に「ロッキンオンジャパン」に掲載されたインタビューが衝撃的だったため(吉井和哉にすべてを背負わせすぎた、という言葉はここから)。イエモンも名曲は数あれど、苦悩の中で「あの頃のマジックよもう一度」という願いをこめて作られた後期の名曲「パール」を。

ちなみに、一度は解散を選んだザ・イエローモンキーですが、現在は再結成し元気に活動しています。復活後ではこの曲が一番好きかな。「ロザーナ」

P180.ミナミさんのロック史振り返りですが、逐一取り上げていたらキリがないので、一人だけ。エルヴィス・プレスリーについては自分も漠然としたイメージしかなかったのですが、実際に聞いてみると思っていた以上に「ロック」な音でした。南部特有のビッグバンドっぽいサウンドがカッコいい。

P181.ギターレスで、ドラムボーカルにキーボード、ドラムという変わった編成でロックらしい音を出すバンド。ばりばりの現役ですので一応名前を伏せましたが、分かる方にはすぐ分かる、モーモールルギャバンです。文意がもっとも伝わるのは「細胞9」のライブ映像でしょう。歌詞はただ「細胞9!」を叫ぶのみ。ちなみに「独特なコールアンドレスポンスで盛り上がる」とありますが、いやあ、あれは本当に気持ちがいい。みんなで一緒に!パンティー!!(「サイケな恋人」で検索を)

P182.ベースレスのガレージの香りのするかっこいいロック。こちらは、N'夙川ボーイズです(残念ながら現在は無期限活動休止中)。ライブ映像などを見ると、本当に「ロックにテクニックはいるのか?!」という気分になります。個人的にベストの楽曲はこちら。「プラネットマジック」

P182.ジャズ界の帝王、マイルス・デイヴィス。常にジャズ界に革新をもたらした巨人です。アナログだったジャズから積極的にエレクトリックサウンドを取り入れたことでも知られています。ライブ映像ですが、これなんてもう完全にボーカルの代わりがトランペットというだけで、ロックと聞いてもなんら差し支えないライブでしょう。

P212.アイドルの登場SEで流れるのが、The Whoの「Baba O'riley」です。アイドル現場でこれが流れたら「えっ?!」と驚かずには入られないでしょう(苦笑)。ちなみにこの曲が収録されたアルバムのタイトルは「Who's Next」。ロックの次は?という作中プロデューサーによる寓意だったりします。

P212.「Baba O'riley」とともに登場するアイドルグループ「UMIKARA DETA NINGYO」ですが、モデルの一つがオサカナことsora tob sakanaです。一番のオススメは「広告の街」。十代の女の子をマリオネットのように操りキレッキレのポストロックと合わせる様は、よくもまあ「アイドル」というジャンルでこんな極北の音楽を、と感心せざるを得ません。ただ、MVが消えてしまったので(涙)代わりに「Lighthouse」のバンドセットライブの映像を。こんな音楽は他ではまずお目にかかれないでしょう。ちなみに僕もこの会場にいました。

現在は残念ながら、解散してしまいました。その最後を飾った曲が、こちら。

オサカナともう一つ参考にしたのが、ヤナミューことヤなことそっとミュート。P215に書かれている「四本の音源を用意する」という方法は、ヤナミューのプロデューサーがtweetしているのを見て「なるほど」と思ったものです。
せっかくですから、カラオケ音源の「Just Breathe」のライブ映像を。全ロックファンに見てほしい!と思えるほど、かっこいいロックです。

ヤなことそっとミュートもまた、つい先日、現体制が終了してしまいました。なんだかんだタフに生き残るバンドと、儚く消え去ってしまうアイドルとの対比を考えさせられてしまいます。その辿りついたオルタナティブロックの極北とも言えるこの曲も紹介しておきましょう。

巻末のあとがきにて名前が出たのが、マスドレことMASS OF THE FERMENTING DREGSです。チャットモンチーが解散した今、もっとも長く追い続けているバンドかもしれません。ファーストアルバム発売直後ぐらいからなので、もう十年。
混沌としか呼びようのない轟音ロックを鳴らすバンドですが、宮本奈津子の走りが速すぎたのか、メンバーの脱退や活動の休止など苦難が続きました。それでも彼女はロックを続けることを選択し、今、バンドも再開しています。本編には登場しませんが「ネクスト・ギグ」を体現する一人と言えるでしょう。
というわけで、初期の名曲「このスピードの先へ」と、苦難のど真ん中の名曲「たんたんたん」それに、復活の号砲となった「スローモーションリプレイ」を。これからも長く、マスドレのロックが聴けますように。

https://www.youtube.com/watch?v=8SETJKhzDkE


ちなみに「たんたんたん」には、「Re:たんたんたん」というアンサーソングがありまして。ソロ名義のアコースティック曲ですが、これもまた素晴らしいんですよ……。


ラストは、高校時代の友人、瀬藤友也くんがやっていたバンド「ウィークエンド」のライブ映像を。本人に許可をとってないけどまあいいでしょう(笑)「草臥れレコード」は、友人ということを差っぴいても本当に好きな曲です。

ちなみに彼らは、バイオリンなどを加えたkisetsu/ameというユニットで「振り返る季節」というアルバムを出しています。

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