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『流浪の月』 - 夕飯にアイスを食べてはいけない理由

公開初日(22.5.13)に映画を観た後、原作小説を読みました。
大好きな作品になりました。


「うちにくる?」
15年前の誘拐事件。9歳の更紗は19歳の文に付いて行き、彼の家で少しの間一緒に過ごした。誘拐事件とは異なる真実がそこにはあった。

「あの男にどんなことされたか、覚えてるでしょう?」
当時の更紗の気持ちも状況も知らない、更紗の婚約者と刑事は同じ台詞を更紗に二度投げかける。

なぜ何も知らないのにそんなこと言えるんだろう。
優しさのつもりなんだろうか。
更紗はその優しさをずっと重荷に感じていた。
本当は違うのに。

文はおかしいことはなにもしなかった。
文はとても優しい人だった。

流浪の月

でも誰も信じてはくれなかった。



終始重苦しい空気が漂っていた映画は暴力的なシーンの印象が強くて、観ていて苦しかった。
ただ、文と更紗が一緒にいるシーンだけは、文と更紗にとっては心安らぐ幸せな時間で、ふたりは互いの存在に救われていた。

個人的に松坂桃李さん演じる文がとにかく圧巻だった。
あの力のない佇まい、光のない目。なんかもう完敗です。と言いたくなるような。
公開初日だったので上映後にキャストの皆さんと李監督が登壇されていたのを中継で見ていた。
松坂さんはそれはそれはとても穏やかで、誰よりも柔和な雰囲気を纏ってそこにいらっしゃった。私はショックのようなものを覚えた。
まじで同じ人?なんでこんなニコニコしてんの?(それはそれでかわいらしいですが)

「亮くんには亮くんの気持ちがあるので、僕は最大限寄り添おうとした。」と横浜流星さんが挨拶でおっしゃっていたので、そうだよな彼は彼で辛い事情もあるんだろうと思ったけれど、
当時は原作未読だったので、彼のバックボーンまでは掴み取れなくて(描写はあるけど少ない)
更紗に対してひどいことをするやつ、執着、という部分でしか彼のキャラクターは感じ取れなかった。

でも文もそうで彼の過去もほぼ語られないけど、松坂桃李さんが演じる文にはその全てがあって、苦悩も悲哀も絶望も感じられた。
それが本当にすごいと思った。感動しすぎて単調な感想しか出てこないくらい感動した。



何事もきちんとしている性格の文と自由奔放な更紗。
ふたりは全く違う家庭環境で育った。

『マイペースすぎてやばい』母に育てられた更紗は、
ランドセルよりカータブルを好み、夕飯にアイスクリームを食べることを許可されていた。彼女の自由さの根源は母かと原作を読んで知った。

他人は見たいようにしか物事を見ないけど
私は、私たちは他人に納得してもらうために生きているのではない。
夕飯にアイスを食べてはいけない理由はない。他人に説得されたとしても食べたかったら食べればいい。
そういう自由さを文と更紗から教えてもらった。

強くて自由な更紗の語り口が軽妙で読んでいてとても心地良い小説だった。
映画のイメージがいい意味で覆った作品だった。

読み終わった時、とても安心した。
文は更紗に解ってもらえて本当に良かった。と思った。(梨花にも)
ふたりがこれからも一緒にいれますように。

文と更紗
ふたりが楽に生きられる世界で
あるようにと願って書きました。 凪良ゆう

流浪の月

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