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君よ、むき身の出汁となれ

シンディー・ローパー《True Colors》

ものすごく多くの人がカバーしている。何ならこの間はラジオからハワイアンver.まで流れていた。でも、これはシンディー・ローパーのあの出で立ちで発信されるからこそ、伝わる曲なんだと思う。


「本当の色(本来のあなたの人となり)を見せてよ」と繰り返し訴えかける内容と、"Like a rainbow(虹のように)"とあることから、LGBTの権利を訴える際の象徴的な歌のひとつともされている。
そういう背景を知らなくても、寄り添うようなメロディで、落ち込んでいる人を励ますのに良い歌。
傾聴の見本みたいな曲で、励まされるというより自分に足りないものを補うため、お手本ソングみたいな感じで長年聴いている。


音楽教室で10代の方々と接していると陽キャ、隠キャという言葉を耳にすることもあるわけですが、シンディー・ローパーは「陽キャ」でほぼ確定なんだろうなという気がする。
令和の陽キャは軽薄、移り気をよしとした過去の根アカ、パリピとはちょっと違い、総じて気配りが上手であるらしい。レッスンで話を聞く限りは、明るい優等生をベースにポジティブ思考をプラスし、キラキラの加工をした感じ。

そういう感じの人は社会を円滑に回すために必要な人材だし、周囲を明るい雰囲気にしてくれる。さらにシンディーは「誰だってありのままでいい」と隠キャを(?)肯定さえしてくれるわけである。良い人。



B'z《Raging River》


この曲がファンの間で《LOVE PHANTOM》《BAD COMMUNICATION》に並び「長い曲」と称されていることを、実は知らなかった。

ストリーミング再生が当たり前になった今の曲は、のっけのインパクト重視でサビから入る。前奏があってもなるべく短くてキャッチー。そして、サクッと聴けるように曲そのものが短い。そういう流れが今後しばらく続くなら、《Raging River》はB'zの輝けるキャリアの中では次第に忘れ去られ、埋もれていくのかもしれない。でもそうなっても好き。


この曲の評価を知りたくてググったら、「栄光の道を歩いてきた人が来し方行く末を振り返る内容」みたいな歌詞解釈がでてきて、なるほどとなったけど、私にとってこの曲は「誰しも壁にぶちあたる。後ろを振り返ってはここから楽な道を選びたいとか思うよな?だけどそこに立ち止まる自分を救うのは自分だから。」からの「荒れ狂う川で立ち上がれよ溺れてもがいても葛藤を洗い流して前を向けよ外でもない自分のために」というエールであり続けている。


フレデリック・ショパン《ワルツ Op.64-2》

この曲は好き嫌いではなく懐刀という存在なので、手放さないし、無下にはできない。
名演奏は数多あれど、シンプルに美しいと感じるのはルービンシュタイン。


博士号を目指す大学院生とヤングケアラーと食い扶持を稼ぐ講師業を兼任していた時、大学のゴタゴタで疲弊していた当時の指導教員が私をサンドバックにするというあるあるな事態が降りかかって、しばし踏ん張ってはみたものの無理〜となって中退者となった。
なまじ踏ん張ったものだから大学からすべての荷物を持ち帰った頃には、顔じゅうに謎の発疹ができてみてくれは最悪。電車の中で吸入器を吸う喘息という属性まで付与されていた。文系(芸術系)院生なんてもの自体が社会の落伍者だから相談できる人間もいない。

そういう時、地元の恩師のもとでこの曲を弾く機会をもらった。
暗譜で弾くか、楽譜を置くか。
本番の数秒前まで葛藤していた私の胸の内はまさにこれ。

Struggle in the middle of the raging river B'z《Raging river》より
(怒り荒れ狂う川の中で もがけ)

普通、クラシックの世界ではソロ演奏の際は楽譜を譜面台に置かない。楽譜の内容を咀嚼して表現するのが演奏のゴールだから、楽譜を見ずに「暗譜」で弾くのがルールだ。

けれど発表会や身内の会では楽譜を置いて弾くことはあるし、コンクールや試験の場でなければ、楽譜を置くことが許される環境は多い。

つまり、私の葛藤の原因は「楽譜を置いてもルール違反にならない」というこれ。もちろん曲は覚えていてそらで弾けるけれど、今の精神状態で演奏したら途中で真っ白になるかもしれない。楽譜をお守りがわりに譜面台へ置いたって、先生に失礼というわけではない。

だったら楽譜を置いてプレイするのが安心じゃないか?


一方で、ここで楽譜を手にステージへ出たらずっと立ち直れないままという気もしていて、失敗のリスクがあっても今ここで立ち上がれ、という自分もいる。

楽譜を舞台袖に置いて、手ぶらで出ようと本当に覚悟できたのはプレイヤーとして名前を呼ばれたその瞬間だった。
あっけないくらい集中して弾けて、その後は本来の自分(True Colors)といえるものを少しずつ取り戻したり新しく得たりできるようになった。

怒り荒れ狂う川(Raging river)の只中で立ち上がれたのは、この曲があったから。そのまま呑まれていたら今とは違うところにいたんだろうなという確信がある。ショパンのワルツには足を向けて眠れない。


君よ、剥き身の出汁を足せ


音楽で飯を食っている、とはいえませんが三食中の一食(+おやつ)くらいを食べている身になってから、曲を直感で好き嫌いと言わないスタンスを貫いてきました。

なので、ハッシュタグ企画やってみよう!と軽率に思ってからセレクトにすごく悩むことに‥‥結果として、自分の殻ではなく根本的なところ(剥き身)と結びついている作品を3つ挙げました。

あと、Spotifyめちゃくちゃ便利ですね。存在は知っていたのに、何ならオススメもされていたのに、なぜ早くに登録しなかったのだろう。。。特に検索のしやすさ、候補表示の出方が素晴らしいのでレッスンでも活用します。あと、味のしみた大人になれるように剥き身に吸収させる良き音楽を探し続けます。

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