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「ムポポメップウのアン」 ~アン王女ムポポメップウしか知らないの。。。~

アン王女がパロアル小国へ帰国する日。

俺のSPとして最後の役割は、空港での護衛。

「どたばたの一ヶ月だったな。」

お互い言葉は通じなかったが、任務を通して心に何かを感じていた。

アン王女が搭乗ゲートに向かう。

俺は微かに呟いた。「寂しいな。」

アン王女が俺に振り返った。“Mupo pomme pou.”


アン王女は、日本での公務を終え、一ヶ月ぶりの王宮での食事となる。

本格的なパロアル料理も一ヶ月ぶりだ。

執事が前菜の皿を下げる。

「次は、肉料理でございます。本日は、mupo pomme pouをご用意いたしております。焼き加減はいかがいたしましょうか?」

「mupo pomme pou.」

「かしこまりました。」


アン王女の公務の大半は、パロアル王国にある街を訪れて、国民と触れ合うことだ。

毎朝、大臣が一日のスケジュールを、アン王女に説明する。
「午前中は、王宮市街 mupo pomme pouで会合に出席いただきます。午後は、3つの街 mupo pomme pou、mupo pomme pou、そしてmupo pomme pouをご訪問いただく予定です。」

「なお、最後の街で、小学校の生徒たちが、王女にプレゼントしたいそうです。直接受け取られますか?それとも代理の者に受け取らせますか?」

「mupo pomme pou.」

「かしこまりました。」


3月4日、パロアル小国の最大の式典mupo pomme pouが幕を開けた。

アン王女が貴賓席にゆっくりと腰をおろす。

国民たちは、王女の登場に喝采をあげる。

式典を祝うパロアル演舞が始まった時、演舞の中央に王女の見知ったアジア人の顔が見える。

王女は立ち上がって彼を指指す。

“Mupo pomme pou?”


俺は日本を立ち、パロアル小国まで来ていた。

アン王女と会うために。

演舞に紛れ込み、王女が目の前に。彼女に走り寄った。
「Mu..Mupo pomme pou..」

彼女は俯き、俺に優しく応えた。
「Mupo pomme pou, pou」

国民は、二人に喝采をあげた。
「Mupo pomme pou! Mupo pomme pou!」

ムポポメップウ。


おしまい



「ムポポメップウのアン あとがき」

皆さんご存知のとおり、パロアル小国は、東欧に属する人口僅か5万人の君主制の国です。自然に溢れ、プラスチック製造と製麺技術が有名です。
作中のアン王女は、19世紀に実在したラ王をモデルにしています。
ラ王は、重度の言語障害により、Mupo pomme pouという言葉しか発しなったと記録されています。Mupo pomme pouは、パロアル語で、元来「愛すべきもの」という意味です。ラ王を敬愛する国民は、ラ王が好きだったものをmupo pomme pouと改名すようになります〔注 改名後の名称は全て小文字から始まる〕。
改名されたものは、料理名や方法、祭り、街、黒馬、朱鷺、ユリアと多岐に渡ります。2021年現在、赤身肉料理の82種類、そして国内の街は5万のうち一つを除いて、mupo pomme pouと名付けられていることから、刻が経った今でも、ラ王の人気が窺えるかと思います。
この話は、〔小文字の〕mupo pomme pouに囲まれた王女が、人生において、自分の〔大文字の〕Mupo pomme pouを見つけだしていくことを主題としています。そして、彼女のMupo pomme pou は、彼女だけのMupo pomme pouに留まらず、国民全体にMupo pomme pouを導いていくのです。一人の人間が自らの意思で他者を愛していくとき、社会に愛が広がっていくことを願って、この話を贈ります。

皆様もムポポメップウを。


追記
作中に出てきたパロアル語単語の英訳は以下となります〔語順は英語と少し異なります〕。

mupo : something
pomme : love
pou : to or too

mupo pomme pou, pou.
something love to, too.


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