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書評|山田宗樹『百年法』


ヒト不老化ウイルス(HAV)の誕生に成功し、ヒトの不老化処置技術(HAVI)が確立した2048年。不老不死が現実のものとなったとき、社会はどうなるか。古い人間が滞留し、減らないどころか増える一方の人口、社会が混乱に巻かれることは容易に想像される。そうならないためにも、不老化処置を受けた国民は処置後百年を以て生存権を喪失してもらう、いわゆる百年法を施行しなければならない。生存権の喪失とは、つまり「死」。処置後100年経った人々は自らの足で安楽死施設に赴いて、死ななければならない。しかし、そんな法に国民がそう簡単に納得するとは思えない。遊佐らは百年法の施行に向けて奔走するが…。物語はそれだけにとどまらない。永遠の命を得ることは果たして幸せなのか?永遠に生きることを実感した人々はどこに向かうか?やがて社会が綻び始める。生と死についても考えさせられる1冊です。


友人からオススメしてもらった本。
とても面白かったのでご紹介します。

これは、人間が不老不死の技術を手に入れ、20代のうちに不老不死処置を受けて老化しない肉体を手に入れることが普通になった架空の日本(日本共和国)での話。
この処置を受けることで廊下をほぼ完全に防ぐことができ、病気や事故で死ななければ、生物学上は永遠に生きることが可能になる。この設定がまず面白いと思いませんか?
どんどん要素が盛り込まれていき、高スピードで話が展開していく。気づいたら作品にのめり込んでいる自分がいる。
かなりの長編ですが、登場人物が多く様々な人物主観で話が進んでいくうえ、年数が飛んだり人間関係が交差したりと、展開が複雑なので一気読みをオススメします。
同時にいろんな話題が進んでいき、絡み合う。全く無関係と思っていた人物が話が進むにつれて繋がっていく展開。頭を使うけど、こういう、それぞれにストーリーがある物語は個人的に好きです。

前半では、100年目が近い政治家たちの利己的な思惑に邪魔されながらも百年法の施行に向けて奔走する遊佐の姿や国民投票のゆくえが印象的ですが、だんだんと、拒否者ムラの制圧、各地で起こる原因不明のガンSMOCの多発生など、よりSF要素が強くなっていきます。実はこのSMOCがあとの展開で効いてくる。ラストにかけての展開に少し無理やり感があるのは否めないけど…結末は少し意外なので是非読んでほしい。

最後のシーンといい、この本が素晴らしいのは、構成だと思います。結末を言いきらないんですね。大事なところで次の章に飛んだり、年数を飛ばしたり、大事なシーンを描写してしまわない。全てを説明してしまわない美。
もちろん、何が起こったのかという説明は次章以降でされていくけど、何が起こったんだ?どんな状況だったんだろう、と読者に想像させることで、次章までハラハラ感が持続するポイントになっている気がします。

設定は突飛とはいえ、法律、政界の癒着、権力闘争、と、現実味を帯びた描写が多々あって、ファンタジーなはずなのに生々しい。現実の暗さ、社会の複雑さ、生への執着や死の恐怖、死が目前に迫る人々がどんな選択をするか、理性と感情。いろいろと考えさせられました。

終わりがあるからこそ、生が輝く。

死があるからこそ、生は輝く。死の喪失は、生の喪失にほかならない。この国に足りないもの、それは〈死〉なんだよ!

百年法(上)p.345

永遠の生に取り憑かれ、求めすぎた。我々は理解していなかったのだ。永遠の生と、その真逆であるはずの死の間には、紙一重の差しかないことを。自分でそうと気づかぬうちに、その境界を踏み越えてしまったのだよ。生と死の境界を失ったものにとって、永遠に生きることは、死ぬことと完全にイコールとなる。

百年法(下)p.135

老いてもなお、時代の変化に適応すること

肉体は老いなくとも、心は老いる。心の老いた人間は、もはやイノベーションを生み出せない。新しい時代に対応できない。

百年法(上)p.105

ある時代には優れた指導者たり得た人物が、次の時代にも上手く対応できるとは限らない。どんなに優秀な人間でも、時代に合わなくなるときは来るものだ

百年法(上)p.118

心の老いた人間は新しい時代に対応できない。そう書かれているけど、時代を追う努力はしなければならない。どんどん新しい価値観・物・技術が出てきて、いずれついていけなくなる。けど、それを諦めてしまうのではなく、努力する。年を取れば取るほど時代に対応するって難しいと思う。これまでの自分が否定されるように感じるんじゃないかと思う。今はまだ違う価値観も新しい物・技術もすぐ受け入れて適応できるけど、年を取って、若い人との乖離が深まれば深まるほど新しいこと、違うことの受容は難しくなるはず。そうやって取り残されていく。
そうならないように常に新しい時代に適応できる人になりたいな。

百年法、是非読んでみてください。


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